「専守」の歯止めどこへ 新防衛大綱と中期防(2018年12月19日中日新聞)

2018-12-19 09:07:33 | 桜ヶ丘9条の会
「専守」の歯止めどこへ 新防衛大綱と中期防 

2018/12/19 中日新聞
 新しい防衛大綱と中期防には「いずも」型護衛艦の事実上の空母化や防衛予算の増額が明記された。専守防衛を逸脱することにならないか、危惧する。

 安倍晋三内閣は、安全保障や防衛力整備の基本方針を示す新しい「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と、今後五年間の装備品の見積もりを定めた「中期防衛力整備計画(中期防)」を閣議決定した。

 安倍首相は二〇一三年にも前大綱を策定しており、同一政権が大綱を二度改定するのは初めてだ。

軍事的一体化を追認

 前大綱も十年程度の期間を念頭に置いていたが、前倒しの改定となった。政府がその理由に挙げたのが周辺情勢の急速な変化と、宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域利用の急速な拡大である。

 その変化に対応するため「多次元統合防衛力」という新たな概念を設け、陸・海・空各自衛隊の統合運用を進めるとともに、宇宙・サイバー・電磁波の領域での対応能力も構築、強化するという。

 日本を取り巻く情勢の変化に応じて安全保障政策を適宜、適切に見直す必要性は理解する。

 しかし、今回の改定は特定秘密保護法に始まり、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法、新しい「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」、トランプ大統領が求める高額な米国製武器の購入拡大など、安倍政権が進める自衛隊の増強、日米の軍事的一体化を追認、既成事実化する狙いがあるのではないか。その延長線上にあるのが、戦争放棄と戦力不保持を定める憲法九条の「改正」なのだろう。

 さらに看過できないのは、歴代内閣が堅持してきた「専守防衛」という憲法九条の歯止めを壊しかねない動きが、随所にちりばめられていることである。ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」型の事実上の「空母」化はその一例だ。

ヘリ護衛艦「空母」化

 航空母艦のような全通甲板を持つ「いずも」型は通常、潜水艦の哨戒や輸送・救難のためのヘリコプターを搭載し、警戒監視や災害支援などに当たっている。

 この「いずも」型を、短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機F35Bを搭載できるよう改修することが、大綱と中期防に明記された。

 歴代内閣は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機などと同様、「攻撃型空母」の保有は許されないとの政府見解を堅持してきた。「性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる攻撃的兵器を有することは、自衛のための必要最小限度の範囲を超える」ためである。

 「いずも」型の改修に当たっても「引き続き多機能の護衛艦として、多様な任務に従事する」「憲法上保持し得ない装備品に関する従来の政府見解には何らの変更もない」と中期防で強調している。

 戦闘機を常時搭載せず、保有が禁じられた「攻撃型空母」には当たらないという論法だが、運用の具体例をみると「等」という文言が入り、拡大解釈の余地を残す。

 「我が国防衛の基本方針である専守防衛はいささかも変わることはありません」と言いながら、歴代内閣が禁じてきた集団的自衛権の行使を一転、認めた安倍内閣である。米軍との協力などを理由に「いずも」型が専守防衛の枠を超え、攻撃的兵器として運用されることがないとは言い切れまい。

 膨張する防衛予算も専守防衛の枠を超えんばかりの勢いだ。

 中期防に明記された一九~二三年度の五年間の防衛予算は総額二十七兆四千七百億円。前五年間の二十四兆六千七百億円と比べ二兆八千億円も増える。

 安倍首相が政権復帰後に編成した一三年度以降、防衛予算は六年連続で増額が続いており、新たな中期防によって一九年度以降の増額も既定の方針となった。

 日本の防衛予算は近年、国民総生産(GNP)の1%程度で推移してきた。抑制的な防衛予算と節度ある防衛力整備は「他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」平和国家の歩みの象徴だ。

 周辺情勢の変化を理由に防衛予算を増額し続ければ、再び軍事大国化の意図ありとの誤ったメッセージを与え、周辺情勢を逆に緊張させる「安全保障のジレンマ」に陥ってしまうのではないか。

平和創出の努力こそ

 戦争や武力紛争は、政治や外交の失敗を意味する。日本は独立国として、自衛のための必要最小限度の実力を保持する必要性は認めるとしても、同時に平和的な環境創出の努力を忘れてはならない。

 大綱には防衛の目標として「平素から我が国が持てる力を総合して、我が国にとって望ましい安全保障環境を創出する」ことも盛り込まれている。日米同盟や軍事力に偏重するよりも、外交など持てる力を傾注することが平和国家・日本の役割ではないだろうか。


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2 コメント

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Unknown (かとう まさよし)
2018-12-19 20:12:01
憲法98条は何処へ?

憲法第98条『最高法規、条約及び国際法規の遵守』
①この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
②(略)
  ∴憲法裁判所が無い悲しさか?
新たな防衛大綱に基づく航空自衛隊の取り組み (NPO日本を護る会)
2019-03-22 21:15:34
NPO日本を護る会 
                     第81回定例会のご案内

今回は昨年12月に明らかになった新防衛計画の大綱に関しての丁寧な説明により、ご参加の皆様に十分に理解して頂くために現役の防衛の専門家に講師をお願いしました。
最強の戦闘機F-15の部隊指揮官(小松基地)から転任され航空幕僚監部の広報室長で勤務されている渡部1佐に解説して頂きます。
特に中国の台頭で米中関係は厳しいものになっていますがこの状況で日本はどのような防衛力整備を進めていくのか、非常に関心の高い命題です。
皆様、万障お繰り合わせの上、是非ご出席下さるようご案内申し上げます。
                                    記
1 演題 「 新たな防衛大綱に基づく航空自衛隊の取り組み 」
2 講師 防衛省航空幕僚監部 広報室長 1等空佐 渡部 琢也 氏
3 日時 平成31年4月4日(木) 受付開始 午後6時00分~ 開 演 午後6時30分~
4 場所 銀座 カフェ ジュリエ (Cafe Julliet)  東京都中央区銀座5-13-16東銀座三井ビル1F 03-3543-3151
5 参加費 2,500円(1,500円の寄付を戴ける場合)、 会員は、2,000円(1,000円の寄付を戴ける場合)、学生は1,000円、高校生以下は無料です。
講演終了後(午後8時頃)に軽い懇親会(1時間程度、会費2,000円)を講演会場で行います。
お時間のある方は是非ご参加下さい。講演会及び懇親会に御参加希望の方は、3月28日(木)までに
原則としてメールにてお申し込みください。
*FAXにてお申し込みの場合はご記入後、切り取らずに本ページを送信して下さい。
4月4日(木)の定例会に参加します。 懇親会( 出席 、欠席 ) どちらかに○印
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電話              FAX
E-mail
★★連絡先★★ NPO法人日本を護る会事務所 FAX:03-3985-1008
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