支援の幕引きは早い 3・11と原発避難者(2017年3月9日中日新聞)

2017-03-09 11:01:55 | 桜ヶ丘9条の会
支援の幕引きは早い 3・11と原発避難者  

2017/3/9 中日新聞
 政府は福島原発事故による避難指示を一部区域を除いて一斉解除する。故郷に帰るか、移住するのかを避難者に迫る。支援の幕引きなら早すぎる。

 原発事故のために横浜市に避難中の生徒が、同級生に飲食代など百五十万円を払わされるいじめが発覚したとき、村田弘さん(74)は自分を責めた。生徒は国の避難指示の区域外からの「自主避難者」で、同じ地域に住んでいたこともある子どもだったからだ。

 福島県南相馬市から避難した村田さんは「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務める。被害賠償などを求めて争う各地の集団訴訟でも、子どもがいじめられているという訴えを何度も耳にしていたが、向き合えていなかった。

いじめ許容する空気

 原発避難者へのいじめはその後も次々に発覚した。大人たちの避難者への無理解や差別、偏見が影を落としているのではないか。

 福島県内外に避難している人は約八万人、そのうち強制ではない自主避難者は約三万人いる。被ばくを避けようと自ら決めた避難だとみなされるために「いつまで避難するの」「放射能を気にしすぎ」と非難めいた言葉も投げ付けられている。避難者問題を早く片付けようとする国の姿勢がそのまま重なるようである。

 政府は東京五輪が開催される二〇二〇年から逆算するように今春、避難者政策を一気に終わらせようとしている。居住制限区域や帰還困難区域の一部の計三万二千人の避難を解除し、賠償も来春に終える。

 福島県では各地の自主避難者に対し、公営や民間の物件を仮設住宅とみなして無償提供を続けてきたが、政府方針に歩調を合わせるように今月末で打ち切る。

消されていく存在

 原発事故によって生活を壊されたのは同じでも、自主避難者には月十万円の精神的賠償もない。文字通り“命綱”だった住まいからも退去を迫られ、経済的事情から地元に帰った人は少なくない。

 住宅の無償提供にかかるのは年間約八十億円。除染に兆単位の復興予算がつぎ込まれていることを思えば過大な額ではないはずだが、国が決めた避難者がいなくなるのだから、自主避難者に支援する理由はなくなるという判断か。問題の根本は、原発事故という避難原因をつくりながら住宅ひとつ、避難者救済に関与しない国の無責任さにある。原発は国策だ。

 納得できないのは、避難指示解除を通告された住民も同じだ。放射線量の避難解除基準は、事故時に「緊急時」を理由に設定された年間二〇ミリシーベルトのまま。「大丈夫」と安全を押しつけられても、被ばくリスクを甘受するいわれはない。

 汚染土を詰めた袋が山積みになった故郷に帰還を促す。帰還しないなら移住の決断を迫る。原発避難者という存在は、こうして見えない存在にさせられていく。避難先から追われている自主避難者はすべての避難者の明日の姿だ。

 事故から六年という人為的区切りの後はもう、生活再建を自己責任に任せるというのでは、避難者は追い詰められるばかりだ。最悪の場合、自殺を選びかねない-。原発避難者の心の状態を調べてきた早稲田大学教授の辻内琢也さんはこう警告する。支援が乏しい自主避難者は、帰還のめどがたたない帰還困難区域の人とともに強いストレスを感じていた。

 原発事故によって被災者は人生や生活を奪われただけに終わらず、加害者である国や東京電力が主導する帰還や賠償の政策にも苦しめられている。辻内さんはこの状態を「構造的暴力」と呼ぶ。そこには当然、差別やいじめを醸成する社会の空気もある。賠償の一部を電気料金に上乗せして回収するという議論は、その反発が被災者にはね返りかねない象徴的口実ではないか。「基地建設に反対する沖縄県民に向けられるような直接的暴力はなくても、真綿で首を絞められるような息苦しさがある」と村田さんは言う。

 すでに避難解除した楢葉町などでも肝心の住民は一割程度しか帰っていない。賠償の打ち切りと一体となった解除には懸念する声の方が強いのである。

帰還か移住かでなく

 幼い子や学齢期の子たちの将来が見通せるようになるには、最低でもまだ十年はかかるだろう。

 原点に戻ろう。避難の権利を認めた「子ども・被災者支援法」に基づいて、故郷に帰る人にも、避難を続ける人にも支援を続ける。従来の「みなし仮設住宅」を「みなし復興住宅」に変えて認める中間的制度をつくることも、孤立死を防ぐと辻内さんは提案する。

 原発災害は長く続く。復興の掛け声の下で避難解除を優先し、少数派の避難者を切り捨てていくようでは、“棄民”政策だというそしりは免れない。 


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