大間原発、建設巡り10年の攻防(2017年7月22日中日新聞)

2017-07-22 09:22:57 | 桜ヶ丘9条の会
大間原発、建設巡り10年の攻防 

2017/7/22 中日新聞


 本州最北端の青森県大間町で、大間原発の建設反対を十年近く訴え続けている人たちがいる。プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料だけで発電をする仕組みの世界初の原発。コストは割高で、安全面での不安は大きいとの見方があるが、電源開発(Jパワー)が建設を続けることには理由がある。大間原発が頓挫すれば、政府が掲げる核燃料サイクル政策も頓挫するからだ。将来の原発政策に大きな影響を与える大間での市民たちの闘いの行方は-。

 「二〇〇八年五月三十一日、建設が開始された。反対集会は十回目だが、めでたくはない。十年やってきて建設中止に追い込めなかった。慚愧(ざんき)に堪えない」

 十六日正午すぎ、反対集会冒頭で、実行委員会事務局長の中道雅史さん(61)はそう切り出した。ステージ後ろのフェンスの向こうは大間原発の敷地だ。

 「大間は核燃サイクルの要。我々は『反核』の最前線にいる」

 強い雨の中、数百人が各地から集まり、「大間原発大間違い」と書かれたTシャツ姿の人も。続いて、北海道函館市在住の大間原発訴訟の会代表、竹田とし子さん(68)がステージに立ち、「福島の緊急事態は終わっていない。大間は何としても止めたい」と訴えた。

 ここから海を挟み函館までは約二十三キロ。大間原発三十キロ圏内では、青森県と北海道の人口は約一万人でほぼ同じだが、五十キロ圏内は、青森約九万人に対し、北海道約三十七万人。過酷事故が起きれば、道南地域の被害はより大きい。

 危機感から、函館市は一四年、国とJパワーを相手取り原発建設差し止めを求めて東京地裁に提訴した。「国策」の原発に対し、自治体が提訴する初のケースで、全国の関心は高い。

 竹田さんらが工事の差し止めなどを求めて提訴したのは、福島第一原発事故前の一〇年七月。MOX燃料だけで発電する「フルMOX」の安全性と、周辺の活断層の有無が争点となり、先月三十日に結審した。来年三月までに判決が出る見通しだ。

 原告には、青森県民も参加する。大間町の元郵便局員、奥本征雄さん(71)はその一人だ。「原発マネーは人々の心を分断し地域を壊してきた。大間の将来を守りたい一心で反対している」と話す。

 ただ、「反対」を口にする人は多くない。「大間のマグロ」など海産物豊かな漁業の町。かつては漁師たちも反発したが、十年以上前に漁協がJパワーと漁業補償で合意し、目立った反対運動は町から消えた。

 国や県からの原発関連の交付金は昨年度までで総額百一億円。学校や病院、消防などの整備運営に充てられた。町の財政難から、大間原発の早期完成を求める声も根強い。一月の町長選では、原発推進の現職が「脱原発」を訴える候補らを抑えて四選を果たした。

 だが、奥本さんは言う。「大きな産業のない過疎の町で、表だって反対できない人が多いのも仕方ないがお金より安心できる暮らしの方が大事じゃないか」

 大間町議会が原発の誘致を決議したのは、一九八四年。当初は、MOX燃料を利用する新型転換炉「ふげん」(福井県)の後継炉をつくる予定だったが、費用面で断念した。九五年、一般的な原発を改良したフルMOX型の原発を建設することに決まった。

 建設工事はまだ半分も終わっていない。福島の事故後、原子力規制委員会の新規制基準ができたため工事を停止。その後に工事は再開されたが、新基準に関係する原子炉建屋などの工事は進んでおらず、原子炉の搬入もまだだ。運転開始時期ははっきりしない。

 それでも、政府が大間原発にこだわる理由がある。

 日本は現在、原発の使用済み核燃料から抽出したプルトニウムを国内外で、約四十七トンも保有する。原爆の原料として使えるため、余剰に保有していると、「核兵器開発」への疑念を世界から持たれてしまう。

 政府は六〇年代以降、「核燃サイクル」構想を立ち上げ、運転によってプルトニウムを増やす高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)の実用化を目指した。その計画は度重なる事故で頓挫。二〇〇〇年代以降は既存の原発で、ウラン燃料にMOX燃料を混ぜて使う「プルサーマル」発電を本格化させた。

 ただし、プルサーマルで、炉心に装填(そうてん)できるMOX燃料は全体の三分の一が限度。プルトニウムはなかなか減らない。その点、フルMOXの大間原発が稼働すれば、年間一・一トンのプルトニウムを消費できる。

 つまり大間原発はプルトニウム消費の「切り札」的な存在だが、フルMOX型の原発は世界初で、技術的な問題が少なくない。

 原子力資料情報室の松久保肇氏はこう指摘する。「MOXは通常の燃料より高発熱で、温度管理が難しい。原子炉の停止は既存の原発より困難。放射線量も高く、事故が起きた場合、既存の原発をはるかに上回る被害が出かねない」

 Jパワーは原子炉の停止手段を増強する対策などを施すというが、「MOXを三分の一利用するプルサーマルでも制御は難しい。そんな難しいフルMOXを、原発を手掛けるのが初めてのJパワーに任せて大丈夫なのか」と松久保氏。

 九州大の吉岡斉教授(科学史)も「MOXの使用済み燃料は放射線量が高く、運搬すら難しい。大間で百年以上、管理できるのか」と疑問視する。

 大間原発の反対集会で、最後に壇上に立った古村一雄・青森県議はこう発言した。

 「(建設を)止めさせるには、もう一度、福島のような大事故を経験するか、選挙でやめさせるか、二つしかない。私は後の方を選択したい。皆さんと一緒に、政治勢力を立ち上げていくことができればと思っています」

 (小坂井文彦、安藤恭子、三沢典丈)

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