検察批判を恐れ転換 菅原前経産相略式起訴 (2021年6月9日 中日新聞)

2021-06-11 10:10:11 | 桜ヶ丘9条の会

検察批判を恐れ転換 菅原前経産相略式起訴

2021年6月9日 05時00分 (6月9日 05時01分更新)
 
 東京地検特捜部が八日、当初は不起訴とした菅原一秀前経済産業相(59)を一転して略式起訴した背景には、市民からなる検察審査会の「起訴相当」議決がある。特捜部が再び不起訴とし、その後の強制起訴公判で有罪となれば、検察批判が起きかねない。特捜部は自ら起訴することを迫られ、再捜査で違法な寄付金額を積み増した。菅原氏には、全面降伏することで裁判所に公民権の停止期間を縮めてもらいたい思惑も透ける。
 (小沢慧一、三宅千智)

■消極的な判断

 「検察審査会の議決を踏まえて再捜査し、金額や同種事案との均衡などを考慮し判断した」。東京地検の山元裕史次席検事は、八日の臨時記者会見で略式起訴とした理由を説明した。
 法務・検察内では当初の捜査時、「菅原氏は違法な寄付が一部あったことを認め、謝罪している。親しい人への香典や枕花まで罪に問う必要があるのか」との声が聞かれた。
 元法相の河井克行被告夫妻が現金約二千九百万円を配ったとされる公選法違反事件と比較し、「選挙前に大金をばらまくこととは悪質性が全く違う」と話す検察幹部もいた。
 特捜部は昨年六月、三十万円の寄付を認定しながら「法軽視の姿勢が顕著とは言い難い」として不起訴(起訴猶予)に。ただ、検察内には「検審で覆される可能性はあるだろう」との声も漏れた。その予感は今年二月に的中。検審は「起訴相当」と議決し、再捜査を求めた。

■額を積み増し

 「なんでもかんでも起訴すればいいというものではない。額や態様からして起訴を猶予すべきだと思うが…」。ある法務省幹部は検審の議決に首をひねった。
 ただ、特捜部が再び起訴猶予としても、検審は二度目の審査でも起訴議決とする可能性がある。そうなれば検察官役の指定弁護士が強制起訴し、公判が開かれることになる。
 ある検察幹部は「寄付があったことに争いはない。公判が開かれれば有罪になるはずだ。起訴猶予は間違いだったと批判される」と懸念。別の幹部も「検察が政治家をかばった、と見られかねない」と危ぶんだ。
 特捜部は再捜査で新たな現金配布疑惑をつかんだ。香典や枕花も加えた寄付総額は、線香五十数万円分を配ったとして仙台地検が二〇〇〇年に略式起訴した小野寺五典元防衛相の額を超えた。検察は略式起訴で罰金刑を求める方向に傾いた。略式起訴は書面審理で罰金などを求める手続きだ。

■次の次の選挙

 国会議員は罰金以上の刑が確定すれば失職し、公民権も原則五年間停止となる。原則通りであれば、菅原氏は今年十月までにある次期衆院選だけでなく、その次の選挙にも出られない可能性が高い。
 菅原氏は周囲に罰金刑を受ける覚悟を示すとともに、刑事処分前の辞職を決断。着目したのが、「裁判所は情状により公民権の停止期間を短縮できる」とする公選法の規定だった。ある裁判官は「情状を判断する際、辞職は考慮される」と説明する。
 菅原氏に近い関係者は「本人も今後の政治活動は厳しいと感じているようだ。ただ、可能性は残したかったのだろう」と話した。

 検察審査会 事件の被害者や告発人らの申し立てを受け、くじで選ばれた有権者11人の審査員が、検察の不起訴処分が妥当かどうかを審査する。起訴すべきだとする「起訴相当」、再捜査を求める「不起訴不当」、処分を妥当とする「不起訴相当」のいずれかを議決。起訴相当が2回議決されると、裁判所から指定された弁護士が、議決の対象者を強制起訴する。最高裁によると、2019年に全国の検審が議決した2068件のうち「起訴相当」は9件。大半は「不起訴相当」が占める。