ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

アイビーボーイ

2010-07-31 04:00:00 | お気に入り




 今回は白井さんが出張でご不在のため、私の達ての希望で信濃屋さんのスタッフ・牧島さんにご登場いただいた。

 画像にモアレが出ているのお許しいただきたい。この日、牧島さんがご披露してくださったのは真夏の着こなしには決して外せない“シアサッカー”のジャケットスタイルのコーディネートだ。

 1枚目のコーディネートは、黒のシルクニットタイ、グレーのサマーウールのパンツ、コードバン・サドルシューズ。

 2枚目は、縞のボウタイ、パンツは白のコットンギャバ、ストライプリボンベルト、足元はレッドラバーソールのホワイトバックス。

 シャツは当然オックスフォードBD。牧島さん曰く、

 『どちらもシアサッカーの着こなしの“基本”。』

 とのこと!さすがは牧島さん、“アイビーボーイ”の面目躍如といった素晴らしい着こなし。ただ、同時に無類の“シャイボーイ”でもある牧島さんは、始めは表情が硬く、撮影中も絶えず恥ずかしそうにされていた(笑)。

 
   私、   『牧島さん、白井さんみたいに“普通な感じ”でお願いします。』

   牧島さん、『それは無理(汗)。白井さんは“特別”なんだから(笑)。』

 
 こんな風に、若年の私にもざっくばらんに接してくださるのは牧島さんの大きな魅力の一つだ(笑)。

 

 更にこの日はご自宅から、このタナークロール(英)のダレスバッグに“アイビー”に関する色々な資料を入れてお持ちくださったのだ。

 

 まずはこの日のタイ2本。VANのニットタイと信濃屋のボウタイ。

   

 1960年代のアメリカの高校生の誰もが経験したであろうエピソードを落書き(グラフィティ)のように綴った映画“アメリカン・グラフィティ”のサウンドトラックのレコードジャケットと、映画パンフレット。もちろんいずれもリアルタイム(公開当時)のものだ。

 そうそう、以前私がこのブログ上で、

 『私にとっては“アイビー”といえば映画“バック・トゥ・ザ・フューチャー”のイメージです。』

 と書いたところ、牧島さんは、

 『“アイビー”といえば“アメリカン・グラフィティ”でしょ!』

 と力説されていた(笑)。今度観てみようかな(笑)。因みに、この映画の初公開時のアメリカでのキャッチフレーズは“1962年の夏、あなたはどこにいましたか”

 

 雑誌『メンズクラブ』の“増刊・アイビー特集号”と、『TAKE IVY』。牧島さんが10代後半の頃はこれらの雑誌や本が、まさに“アンビーボーイ”の“聖書”のように扱われていたそうだ。内容は今では考えられないくらい実に“硬派”(もちろん良い意味)で、“~ねばならない!”といった風な読者を“縛りまくる”(これも良い意味で)警句に満ち溢れたもの。編集者が街頭で無作為(?)に撮影した読者モデル(?)を指して、

 『街中でこのような組み合わせは如何なものか。』

 といったかなり手厳しい(汗)指摘をしているコーナーもあり、これも今では在り得ないくらい“大人目線”(またまたこれも良い意味で)なもの。



 それから“聖書”といえば写真中央の本!穂積和夫氏著作『絵本アイビーボーイ図鑑』(初版)。前々回の更新『Four pockets jacket & white linen pant』の回でお話しされた本を持ってきてくださったのだ。因みに左隣はその女の子版『絵本アイビーギャル図鑑』で、右はタータンチェックの図柄、名前、由来、モットーなどが纏められた『CLANS & TARTANS OF SCOTLAND』の日本語版。

   

 『絵本アイビーボーイ図鑑』の初版は今から30年前。内容はやはり“硬派”で“縛り全開”で“大人目線”。まさに“トラッドの着こなしの基本”がドレスからカジュアルまでくまなく網羅されており、そこには古から連綿と続いているクラシックの世界が“IVY”というスタイルで表現されているのだ。

 牧島さんは言う、

 『昔はちゃんとした恰好良い大人が当たり前にいたよね。そして若い人達はそういう大人に憧れていた。若者の目線が上を向いていたっていうのかな。今は逆だけどね(苦笑)。大人が子供の方を向いている。』

 『やっぱり、大人がきちっとした綺麗な、TPOをわきまえた恰好をしないと。それが“着こなし”であり、そこには“基本”がちゃんとあることを知らないと駄目。』

 『“自分の好きな服を好きなように着る”って、口で言うのは簡単だけど凄く難しいこと。自分の今の好みにばかり囚われてしまうとどこか偏った着こなしになってしう。パーツ一つ一つを見れば良いんだけど全体のバランスが悪くなる。“基本”ってそのバランスを保つために必要なんだと思うよ。』

 『白井さんは本当に特別な人。何十年にも渡って多くの経験を重ねてそれが今の“味”になっている。“懐の深さ”が他の人とは比べものにならないんだよ。真似しようったってそりゃあなかなかできるもんじゃないよね(笑)。』



 だが、牧島さんもまた白井さんと同じく、青春時代に影響を受けたスタイルにこだわり続ける人なのだ。生涯を通して貫く何かを持つ。

 “カッコいいとはこういうことさ”

 と、いつもと変らない笑顔が教えてくれたような気がした。

 



Glen plaid suit

2010-07-27 02:24:47 | 白井さん
 

 7月17日の更新で記載した私の発言に誤りがありました。今回は急ぎ訂正するため更新日を繰り上げます。

 『白井さんが今月末で信濃屋さんでのキャリアを了えられます』と書きましたが、私の早合点で事実ではありません。多くの皆様にご心配、ご迷惑をお掛けしましたことを心よりお詫び申し上げます。

 特に白井さんには大変なご迷惑をお掛けしお詫びの言葉もありません。我が未熟を唯恥じ入るばかりですが、私にとって何よりの救いはこのブログを来月以降も続けられることです。これからも張り切って更新する所存ですので、皆様、宜しくお願い致します。

   

 “Glen plaid suit”

 グレーのグレンチェックにゴールドのペインが入った、もちろん夏向きの薄い生地を使った信濃屋オリジナルの一着。元々スリーピースで作られているそうだが、この日の気温を考慮し今日はベストは無し。

 白井さんの前回のスーツスタイルは麻のスリーピース。あるお客様はその時の華麗な着こなしを“まるでアガサ・クリスティーの世界ですね”と評されていたそうだ。

 『やるなら徹底してやらないとね。』(白井さん談)

 それこそがまさに“白井流”だ。

 が、今回はそこからは一転して実に“渋い”。まさに“動から静へ”といった印象。

 “黄金の中庸”

 これもまた“白井流”なのだ。

   

 ネイビーに磨き砂、共に渋い色合いのレジメンタルストライプのタイはミッチェルソン(英)。1月15日アップのクレストタイもそうだったが、今回のミチェルソンのタイも白井さんはとても気に入られていた。

 『このネイビーの色も磨き砂の色も、こういうのってなかなか無いよね。縞の幅と間隔、締めた時の具合も・・・全部が良い。もちろん“自分が好きだ”ってだけで、好みの問題なんだけど、ほら、こんなに擦り切れちゃってる(笑)。』

 “磨き砂”。白井さんはこのタイの縞の色をそう表現されていた。白でもグレーでもゴールドでもシルバーでもない、鈍く、渋い色。シャンパンゴールド、という表現が一番近いのかもしれないが、このタイにその言葉を使うのは適切ではない気がする。

   

 シャツは現在では絶対に手に入らない逸品。横浜のシャツ職人・遠藤さんのカスタムメイド(遠藤さんについては4月22日アップの記事をご参照下さい)だ。生地は、写真では判りにくいが、透け感が特徴の夏のシャツ生地“ボイル”。

 靴はシルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)の明るめの茶のキャップトウ。“リボルターテ”という、革の切り目を薄く梳いて内側に織り込んで縫い込む手の込んだ仕様が施されている。ホワイトステッチは実に細やかで美しく、トウはいつものように光り輝いていた。

 



Four pockets jacket & white linen pants

2010-07-24 05:00:00 | 白井さん


 猛暑到来。

 今夏は日本各地で平年を上回る高い気温が記録されているそうだ。このブログの舞台・横浜も例外ではなく、馬車道を彩る赤レンガの舗装も強い陽射しに容赦なく炒り上げられている。

 が、そこは港町。

 海からの風が熱気を拡散させるのか、最近電車を降りるたび思うのだが、私の職場がある新宿に比べるとこの街の方が幾分過ごし易いような気がする。港の空が広いのもそう思わせる理由の一つかもしれない。横浜は人に優しい街だ。

   

 今日の屋外撮影は信濃屋さんの軒先の木陰を利用して。

 このブログをご覧になっている皆さんは当然お気づきの方が多いと思われるが、ここ数週間で白井さんがお召しになる服に“白”が占める割合がぐぐっと増してきている。前回の“White linen suit”の現像写真をお渡しすると、

 『やはり白も良いね。ま、年に1回くらいだけどね(笑)。』

 と、やはりご自身も白の効用に活目されていた白井さんは・・・前回のエレガントな夏のタウンスーツ・スタイルから一転、今回はスポーティーな夏のカントリージャケット・スタイルをご披露してくださった。

   

 今回はタイトルを如何すべきかと些か考え込んでしまったが、白井さんのアドバイスを頂いて“Four pockets jacket & white linen pant”とした。

 『この形で4ポケットはちょっと珍しいからね。』

 と仰るジャケットは、以前何度か名前を伺った“ケッキーノ・フォンティコリ氏(伊)”の手によるもの。白井さんは、 

 『大人しいおじさんだったよ。』

 とフォンティコリ氏の印象を思い出されていた。

 『そういえば以前、小錦関がブリオーニで服を作る様子をテレビで放送していたけど、その時写ってたのを観たっけ。“あ!ケッキーノだ!”ってね(笑)。』

 白井さんは普段あまり多くを語らない方。きっとフォンティコリ氏は著名であるが優秀な職人さんでもあるのだろう。老婆心ながら胸元チーフの位置にもご注目を。色鮮やかなブルー&ホワイトのレジメンタルタイはフランコ・バッシ(伊)。

   

 パンツはナチュラルのリネン。パンツ単体での登場は、このブログ内に限って言えば珍しい、セントアンドリュース(伊)。更に言えば、白井さんが殊更パンツに触れることもなかなか無いことなので、このパンツに上質の麻が使われていたのは間違いないであろう。作りの良さも当然言わずもがな、であろう。

 今日のホワイトバックスはキャップトウ。詳細はうっかり伺い忘れてしまった(汗)。機会があれば後日。

 

 以下は本日の特別編です。

 『白井さんがいつも言ってる“組み合わせが大切”って言葉。あの言葉の意味が本当に判かる人が本当にお洒落な人だと僕は思うよ。』

 『組み合わせって色のことだけじゃないからね。例えば上半身が軽い感じのブレザーなら下も軽い感じの、例えばコットンのパンツを合わせる。それなら靴も軽い、例えばスリップオンにする。上下のバランスの組み合わせもあるんだよね。』

 『“上下”だけじゃないよ“横”のバランスだってある。ジャケットの肩幅、ラペル幅、パンツの裾幅、つまり横のバランスだね。“素材感”や“柄”だって組み合わせの要素。他にもたくさんあるよね。“着こなし”“組み合わせ”・・・無数にあるけど、でもやっぱり“基本”ってあると思うんだ。どんなにカッコいい靴であってもそれが重たい表革のフルブローグならさっき言ったブレザー&コットンパンツには合わせないほうが良い。やっぱり白井さんならそんな合わせ方はまずしないよね。そういう重い靴の時はやっぱり上に着る服もカチッとしたスーツを着るし、ツイードジャケットならスウェードを履くとか、コンビネーションならストライプのスーツとかって、やっぱり抑えるところはちゃんと抑えてらっしゃるんだよね。“着こなしの妙”っていうのはそういう基本の上に乗っかってるものなんだよ。』

 『個々の品のディティールにばかり囚われていると一番大切な全体のバランスが見えなくなってしまう。そうならないために“着こなしの基本”があるんだよね。僕らの世代は皆その基本を“IVY”に学んだんですよ。“穂積和夫の『アイビーボーイ図鑑』”なんてまさに僕の“バイブル”(笑)。白井さんの世代は“アメリカそのもの”から学んでいるけどね(笑)。なんたってまだ戦後だったんだから白井さんの頃は(笑)。でも、今の若い人たちはそういうのが無いから。』

 以上は全て、白井さんの取材をする私のそばでいつも笑顔で冗談ばかり言っていた牧島さんの言葉です。丁度白井さんが席を外された時、一息で一気に話されたので私の記憶に間違いがあるかもしれませんが、概ね上記のようなお話だったはずです。

 牧島さんらしく笑顔でお話されていましたが、牧島さんの目はお話同様真剣そのものでした。以下は白井さんが以前私に仰っていた言葉です。

 『牧島は基本ができているんだよ。根っから服が好きだからね。』



White linen suit

2010-07-22 04:00:00 | 白井さん



 
 
 “ お洒落をするなら、ある程度の痩せ我慢をしないとね ”


                       ・・・白井さん談


   

 洒落者なら誰もが憧れる究極の遊び着、洒落心を擽る魅惑のアイテム、夢か現か幻か、成せば成る、成さねば成らぬ何事も、ナセルはアラブの大統領・・・遂にこの日がやってきた!“麻のスリーピース”の登場だ!

 

 夕刻から書き始めた今日のブログだが、前回の更新を引き摺ったままの私は冒頭の一行、白井さんの言葉を書いてから筆(キーボードを叩く手)が完全に止まってしまった。そして現在、日時は7月22日午前2時過ぎ。

 是非も無し・・・今まで通り書くしかないではないか。

 開き直り故の、普段より若干高めのテンションでのスタートをお許し願いたい。

   

 タイトルを 『 White linen suit 』としたが、正確にはナチュラル(生成り)とすべきだろう。シングルブレスト、ピークトラペル、3パッチポケット、ノーベント・・・アイリッシュリネンで仕立てた信濃屋オリジナルの一着だ。

 

 ジェームズ・ロック(英)のパナマ帽(筋入り)。今回はアップでのご紹介だ。

 白井さんが以前ご覧になった映画(洋画)の登場人物の中に、これと同じ帽子を被った男があり、その男はクラウンの前を凹ませて被っていたそうだ。“パナマのクラウンは取り扱いに神経を使う”と聞いていたが、映画の中とはいえ、本場の男は随分粋な所作をするものである。

 『帽子の似合う似合わないは慣れの問題。本人が気にするほどには他人は見ていない。そんなことよりもっと大切なのは帽子を扱う時の“所作とマナー”。』

 と仰る白井さん。これは以前、私が初めてファーフェルトの中折れを買ったときに白井さんに教わった“帽子術の極意”だ。

   

 シャツはフレンチカフのクレリック。生地は普段白井さんがお召しのものよりは若干薄い。

 『カルロ・リーバ(伊)の古いヤツ。今はこういうクラシックな生地ってなかなか無いよね。』

 襟はプレーンカラー(plain collar)。我が国では“レギュラーカラー”という呼び名が定着している。やはりクラシックな襟型だ。

 レジメンタルストライプのネクタイ、白い麻のポケットカチーフ。

 今日も完璧な胸元。

   

 『随分久しぶりに履いたよ。』

 と仰る今日の靴は遊び心溢れる一足。カーフとキャンバスのコンビはちょぴり可愛らしく、しかしスタイルは極めてクラシカルなスナップボタンブーツ(大塚製靴)。

   

 上質なリネンは目が詰んでいる分ズシリと重い、と聞く。

 真夏にこれを着る人にはきっと相当な覚悟が必要とされるのだろう。

 が、白井さんの如くさらりと着こなせば、これほど見る人の“心”を涼やかにさせる服もまた無いのだろう。

 “装う”とは、つまり、そういうことなのかもしれない。 

 

 “ お洒落をするなら、ある程度の痩せ我慢をしないとね ”

 



Camel hair & linen jacket

2010-07-17 04:00:00 | 白井さん


 
   

Shot on location at the front of Yokohama Specie Bank, Ltd.

   

Camel hair & linen jacket (SHINANOYA)

   

Thin oxford BD shirt (LUIGI BORRLI)

Horizontal stripe knitted tie, Saxe blue cotton pant (BIELLA COLLEZIONI)

   

Plene toe white backs with red rubber soles (ALFRED SARGENT)



Stripe suit with bowtie & Panama hat

2010-07-15 04:00:00 | 白井さん
 


 “まるで銀幕から抜け出してきたような!”

 今日はこの台詞がぴたりと嵌る。紳士の夏服は斯くあるべし。“新”を愛でた前回の着こなしから一転、今回は“古”を尊ぶクラシックスタイル。忘れてはならない。“着こなしのフィールド”を端から端まで目一杯使うのが“白井流”なのだ。

   

 屋外で白井さんの撮影をしていると、馬車道を行き交う人々の中には、白井さんの着こなしに興味を惹かれて足を止める方が毎回必ず居る。今回は特に多かった。足を止める程ではないにしても大抵の人は白井さんに視線を送らずにはいられないようだ。“判る人にも判らない人にも判る”これも“白井流”だ。

   

 軽やかなライトグレーのダブルブレスト・スーツはチェーザレ・アットリー二(伊)のス・ミズーラ。遠目一本のストライプだが、非常に細かなピンストライプ2本一対が狭い間隔で走っており、尚且つその間隔が、狭い→やや狭い→狭い→やや狭い、と一対ずつで交互に変わり、まるで“服地”という平面上に“ゆらぎ”を感じさせるかのような視覚効果がある。見る人に涼やかな印象を与えるまことに見事な夏服である。

    

 スーツばかりではない。小物も涼やかな印象作りに一役買っている。
 
 フレンチカフのシャツはシャルベ(仏)。普段お召しのものよりは若干襟が小さめだそうだ。今日はボウタイ効果で胸襟が大きく開きシャツの白が一段と際立つ。袖口には表が角型、裏が丸型のゴールドのカフリンクスが華を添えている。

 ブルー・ブラック・イエローのレジメンタル・レップの蝶ネクタイは非常にクラシックな逸品。

 『これは古いね~(笑)。恐らくブルックス(ブラザース)かリベッツ・オブ・ボストンのものだと思うよ。ある人からのいただきものなんだよ。』

 世の中は広いもので、白井さんに服飾のプレゼントをされる方がいらっしゃるのだ!その方もやはり非常な洒落者だそうだ・・・当たり前か(苦笑)。

 いずれの品も“涼”を念頭に置かれての選択であろう。

   

 足元を軽やかに演出するのは、アレンエドモンズ(米)のウィングティップ・コンビネーション。控え目な表情ながらこちらもチャーチのコンビネーションに劣らぬ逸品だ。
 
 これは以前、うっかり書き忘れてしまったことなのだが、白井さんは、通常見えるように並べて保管している他の靴とは違い、チャーチのホワイトバックスなどの夏場に使う所謂“白い靴”は、焼けによる変色を防ぐため、オフシーズンは箱に入れて仕舞っておき、シーズン前になると箱から出すようにされているとのこと。

 そして、完璧なコーディネートの最後のワンピースはジェームズ・ロック(英)のパナマ帽だ。

 白井さんは冬場のコートスタイルにはほぼ100%帽子を戴くが、夏場はそうでもない、と伺っていた。だが、やはりというか当然よくお似合いであるし、パナマ初登場ということもあってすっかり興奮した私はついうっかり詳しいお話も伺い忘れ、尚且つアップの写真も撮り忘れてしまうという体たらく(汗)。でもまあ、トップの大きな写真などはかなり良い画が撮れたと自負もしている。

 私が勝手に調べたところ、今日の帽子は“オプティモ”もしくは“筋入り”などと呼ばれる形だそうで、パナマとしては“中折れ”よりも更にクラシックなスタイルなのだとか。やはり今日の着こなしのテーマは“古(いにしえ)”で決まりのようだ(笑)。

  

 ここで余談。

 今日は珍しくいただきものの蝶タイをされていたが、白井さんはこれまで実に多くの品を人に“あげちゃって”いるそうだ。それはこのブログの取材を通じて知ったことだが、お話を伺っているといったいどれだけの品数が白井さんの頭上を、傍らを、前を、足元を通り過ぎていったのか?それはそれは見当もつかないくらいの膨大な数と思われ、当然私のごとき未熟者には、それら通り過ぎて行った品々から得た多くの経験が白井さんの血肉になっているとは理解しつつも、

 “何故あげちゃうんですか?”

 という疑問が浮かんでくる。もちろん考えても栓なきこととは重々承知しつつも、以下は私の勝手な憶測だが、その疑問についてはこれ!といった明確な理由は無いのではないか?と思っている。白井さんは買うときも“直感”なら、手放すときも“直感”なのではないのかしら?・・・と、なんとなく(ずいぶん無責任ながら)そう思うのだ。

 白井さんはご自身を“コレクターではない”と仰っている。

 ワードローブはご自分の“感覚”に沿うものでなければならないし、不変の美学あればこそ常に“変化”するものであり、品数の多寡は二の次(程度の問題はあるが)、と思われているような気も(これまたずいぶん無責任ながら)するのだ。

 誤解を招く物言いをしてしまった。以上はあくまでも全て私の勝手な憶測であり、素人の手前勝手な“独り言”と思し召しいただきたい。こればかりは白井さん以外の誰にもわからない“超々高度な問題”。これまでよりも更に奥深い領域に踏み込んだテーマであることは間違いない。私がもう少し大人になったら伺ってみたいと思う。手前味噌で恐縮だが、今はもう少し、黙ってこれらの素晴らしいポートレートを眺めるのが良いのだろう。



Forest-green jacket

2010-07-10 04:00:00 | 白井さん


 白井さんはよく、

『色で好きなのは緑。』

 と仰る。今日は真新しい“フォレストグリーン”のジャケットだ。

 
  

 唐突だが、ここで私の“白井さん考”を。

 『クラシックなものを愛される白井さんは“古い物”がお好きなのでは?』

 と思われる方がいるかもしれないが、“クラシック=古い”という解釈は間違っているし、白井さんは“古い=良い”とはお考えではないだろう、と私は感じている。白井さんはまず、直感的感覚的にご自分が“良い”と思われたものを選び、それらを長く使ってみて、その上で尚“良い”と思ったものを“良いもの”と評されているのであって、決して“クラシックなら何でも良い”とは思われていないし、ましてやマスコミが“クラシック”と謳っているものを盲目的に“良いもの”などとは決して思わない方だ。白井さんが長年使われているものは、白井さんが“良いもの”と感じられたからこそ長く愛着を持って使われ、その結果として“古く”なったに過ぎず、それらの中に“クラシック=正統”なものが多かった、というだけなような気がするのだ。そして、それより何より白井さんにとっての“良いもの”とは、御自分がまずそれを“好き”かどうかということが最初の関門として最も重要視されているのではなかろうか。

 私は、白井さんは寧ろ、

 “新”

 がお好きだと思っている。誤解されては困るのだが、決して“新し物好き”という意味ではない。何故そう思うのかと問われてもこれだ!といえるような明確な理由がある訳ではない。日頃から接していて“なんとなく”そう思うのである。

 “新”という漢字は、立ち木を斧で断った時のその切り口の瑞々しさを表現しているそうだ。

 白井さんは、まず自身の“感性”“感覚”が第一、そして日頃からそれらを磨くことが大切、と仰っている。それは“お洒落”や“着こなし”についてはもちろん、ご自身の“哲学”“精神の在り様”も同時に語られているのかもしれない。その日の着こなしはその日の朝に決める処、こだわりは在ってもつまらないルールでご自分を雁字搦めにしない処、いい加減な情報や態度を嫌う処、好奇心旺盛な処、更により良い着こなしを求め日々実践されている処・・・私が存じ上げている白井さんは“古”よりは“新”という文字が良くお似合いになる方なのだ。

 そんな白井さんが一番お好きな色が“緑”というのは何となく頷けるような気がするのだが如何であろうか。

 

 今期から白井さんのワードローブに加わった真新しいジャケットは、信濃屋オリジナルのパターン・オーダーで製作されたもの。私も白井さんがバンチサンプルをご覧になっている時に同席させていただいた。確か生地は英国製のものだったと記憶している。

 『夏は着るものが全然無くて。』

 と仰って瞳を輝かせておられた(笑)。

 『ブルーかグリーンどちらにしようか・・・。』

 ああ、白井さんでも悩むのか、新しい品を決めるときのワクワク感は、白井さんも私のような初心者も等しく同じなのだと感じた貴重な体験だった。まったく関係ないことを思い出したが、昔読んだ塩野七生さんのエッセーに、確かネクタイか何かについての項で“日本人の男性に一番似合うのは緑だと思う”みたいなことが書かれていた記憶がある。因みに塩野七生さんは白井さんと同年だ。以上余談までに。

 

 超細番手の白いポプリンのシャツ。

 『最近は白が多くなったね。もちろん縞のシャツを好んで着ていた時もあったけど、歳を取ると白いシャツのほうが顔や肌の色が映えるよね。』

 ネクタイはフランコ・バッシ(伊)。イタリア・コモに在るバッシの工場に赴かれた際に購入されたものだそうだ。これは私見だが、バッシのネクタイは発色や配色のセンスの良さが頭一つ分抜け出ている気がする。もちろん、これまで白井さんのネクタイを多く見てきているからそう思えるのだが。

 『なかなかないよね、こういうの。バッシは好きだよ。』

 と白井さんも仰っていた。

 細かい点だが、貝ボタンにもご注目。

    

 黒のタッスル・スリップオン。ジョンストン&マーフィー(米)の最上位モデル・アリストクラフトシリーズで、つい最近白井さんがご購入された“おニューの靴”だ。

 こちらの靴は現地、つまりアメリカ合衆国のジョンストン&マーフィー社が取り扱っている正真正銘のメイド・イン・USA。当然、現地でしか購入(通販も可能だが)できない品とのことで、以前、“アラモの砦のパンフレット”を白井さんへのお土産にされた粋なお客様“H様”が、これまた米国御出張の折、白井さんの依頼で白井さんの為に買い付けてきてくださった靴なのだ。

 H様がこの靴をお届けに信濃屋さんにご来店された際も私は同席させていただいた。

 『この形が好きなんだよね~へへ~いいでしょう(笑)。あげないよ。』

 と、白井さんは嬉しそうに仰っていた(笑)。

 

 この日は、信濃屋さん(馬車道店)のサマーセール初日ということもあり、店内はだいぶ賑やかだった。今日の白井さんのジャケットと同じような生地感の茶のジャケットをさらりと羽織られたモダンな紳士で、沖縄からご来店されたお客様から、いつもこのブログをご愛読いただいているとお声を掛けていただき、私の悪い癖なのだが、恥ずかしさと恐縮さとでしどろもどろになってしまった。が、よく考えればこれもまたなかなか得難い貴重な、そして嬉しく、ありがたい経験である。

 さて、白井さん。お帰りの際カメラを向けると、

 『子供店長。』

 と仰って、今を時めく名子役の物真似を(右上の写真)。

 

 そして、弾けるように笑って帰路に就かれた。

 “新”

 やはり白井さんにはこの言葉がよくお似合いになる、と私は思う(笑)。



ダークグレーのシャークスキン

2010-07-01 04:00:00 | 白井さん


 前回の明るい色づかいのブレザースタイルから一転、今日の白井さんは色味をぐっと抑えたスーツスタイルだ。

   

 シングルブレストのスーツはジャンニ・カンパーニャ(伊)。素材はダークグレーのシャークスキン。大人っぽい、否、まさに大人のスーツだ。靴はクロケット&ジョーンズ(英)の6アイレッツ、黒のキャップトウ。

 シャツはフライ(伊)。白のポプリンは勿論超細番手の生地。白井さんは、

 『何だかんだ言ってもフライが一番良いね。』と仰るとも無く呟いておられた。

   

 今日の着こなしのアクセントはやはりネクタイとチーフだろう。

 ネクタイはネイビーとアイボリーの細いストライプ。ルチアーノ・バルベラ(伊)のもので、白井さんは気に入られているのだが、それに反して登場頻度は実は低めなのだとか。その色柄ゆえか、どうやら何かのセレモニー絡みと勘違いされてしまうことが唯一欠点らしい(笑)。

 無彩色に近い色づかいの中、唯一華を添えているのが胸元にあしらわれた赤いドットのポケットカチーフ。

 

 またも余談で恐縮だが、サッカー日本代表がノックアウトラウンド1回戦で敗退した。終わってみれば実にあっけなく、昨日までのめくるめく想像はただの夢想だったことに気が付く。天国と地獄。これがサッカーだ。朝方降った小糠雨が真夏の世の夢の終わりを告げていた。



“白井さんならどうする”~5~ Build a basic wardrobe

2010-07-01 03:59:59 | “白井さんならどうする─前編─”
  

“How would Lubitsch have done it?”

 映画『昼下がりの情事』『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』などを手掛けたハリウッド・コメディーの巨匠ビリー・ワイルダー(監督・脚本家)の仕事場には、自身が尊敬する映画監督エルンスト・ルビッチへのオマージュを込めたこの一文が額に飾ってあったそうだ。曰く、“ルビッチならどうする?”

 そして私もまた、毎朝ワードローブの前で一人こう呟く・・・“白井さんならどうする?”と・・・