『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1307

　ドックスは、朝がたになって夢を見る、夢の中に自分がいる。
　ドックスが戦闘艇の建造に作業員の一人となって造作に懸命に働いている。
　衝角構造体の艇尾部分の造作をやっている。そのたどたどしい作業の運び具合を目にする。
　流線構造の削り出しの作業である。手にしている工具が違っている。声をかけるドックス。『おい！ドックス！工具が違っているではないか！』
　ドックスは大声をあげる、夢がここで終わる、彼は飛び起きる。
　薄明るい、アサがおとずれている。飛び起きたドックスは建造の場へと走る。
　試作船台に備えた戦闘艇の艇尾部分の船体と船台を注視する、その状態に目をクギ付けして考える。
　艇尾の舵部分に向けて目を這わせていく、気が付く、造作のこまかい艇尾部分の作業と船台のありかたの不具合を察知する。
　『船台のこの部分か』
　彼は考えるべきことに気が付く、考える造作の目処に気づく、『そうか、そうであったか』船台のその部分を見つめてうなずく。
　ドックスは、朝行事の浜へと歩を向ける。
　『しかし、不思議なものだな。人間は思い悩むことも仕事のうち、夢を見ることも仕事のうちなのかな』
　ドックスは、出来るだけ人の少ない海の場を選んで、身を海に浸す、悩みが消滅していく、思考作業が頭中に残されている。
　『よし、懸命に考えるとする』
　朝行事を終えて浜にあがる、オキテスに出会う、朝の挨拶を交わす。
　『おう、ドックス、おはよう、いい朝だ。どうだ？目が輝いているのう』
　『おはようございます。いい朝です。隊長！今日、アサイチ、試作船台を見てください』
　『おう、了解！試作船台、出来あがったのか？』
　『はい、出来あがりました。よろしく願います』
　『解った。図面もできているのか？』
　『それはまだです。作成してすぐに届けます』
　『おう！了解』
　ドックスは、建造の場へと足を運ぶ、木板を手にしている、試作船台に向かって立つ、船台の構図を木板に描く。
　彼は９月末に完成する戦闘艇３艇、新艇１艇を頭中に、そのイメージを想起させながら、木板上に木炭を走らせた。
　作業員を招集して朝礼を終える、ドックスがオキテスの席へおもむく。
　『オキテス隊長、船台の図面を届けに来ました。試作船台は、昼前に出来あがります』
　『おう、解った。パリヌルスもつれて、出来あがった船台を見る』
　『船台構築の段取りは、承認ののち、本日午後から、船台の構築に取り掛かり、月内に全船台の構築を終えます』
　打ち合わせを終えたドックスは、建造の場へ歩を向ける。
　オキテスは、その自信にあふれた背中を見送った。