『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1302

　オキテスら二人がキドニス浜頭の館の戸口に立つ、用人に来意を告げる、キドニス浜頭が姿を見せる。
　『おう、スダヌス浜頭、どうした？』
　『はい、ニューキドニアの浜から、船舶事業の責任者であるオキテスが来ています。先日話された新艇の新舵の件を話しました。それなら、すぐに浜頭に会うということで同道しています』
　『ほう、そうか。昨日の今日ではないか、事の運びが早い。それでは話し合う、庭にまわれ』
　二人は館の庭へとおもむく、庭は美しく整えられている広い庭である、花の時期は終わっている、花草の葉が風に揺れている。
　庭の一角にはテーブルと椅子が配されている。
　スダヌスが声をかける。
　『おう、オキテス、遠慮することはない、椅子に掛けろ』
　『いいのか？』
　『いい！遠慮はいらん！』
　キドニス浜頭が来る、立ちあがるオキテス。
　『キドニス浜頭殿、新艇を引き渡して以来、無沙汰で過ごしている失礼を許してください』
　『いや、無沙汰、そうでもない、久しぶりといったところだが、三度くらいかな、パン売り場の担当の者が訪ねてくれている。まあ～、君らの気遣いは充分と言える』
　キドニス浜頭がオキテスと顔を合わせる。目を見つめてくる。
　『小耳にはさんだ船の舵のことだ。新しい構造の舵だと聞いている。その操作効果を試したいと考えている』
　『解りました。浜頭の都合がよろしければ、今日、これからでも試乗いただけますが。今日、その新舵構造を装備した船でキドニアに来ています』
　キドニス浜頭がスダヌスに声をかける。
　『ほう、そうか。スダヌス、お前、今日の午後の都合は？』
　『私の都合ですか、浜頭が付き合えといわれるなら、都合を合わせますが』
　『そうか、オキテス隊長、決まりだ、思い立ったが吉日だ！昼めしを終えたら試乗に行く！こちらからは三人で行く、いいかな？』
　『はい、承知しました。準備を整えて待っています』
　『よしッ！決まりだ、よろしく頼む』
　『解りました』
　キドニス浜頭の試乗が決まる。スダヌスとオキテスは、キドニス浜頭の館を辞する。
　『おう、スダヌス浜頭、ありがとう。昼を終えたら船だまりの岸壁のほうへ来てくれ。待っている』
　『おう、了解！』
　オキテスはパン売り場に立ち寄ることなくヘルメス艇を係留している岸壁へと向かう。
　『おう、ギアス、昼めしだが、俺の分もあるかな？』
　『はい、あります。安心してください』
　『今日だが事情これありだが、昼から試乗の航走を頼みたい。客はキドニス浜頭殿だ。乗艇は、スダヌスを含めて四人だ。いいな』
　『解りました。キドニス浜頭と言えば、新艇第一号を納入した浜頭ではありませんか』
　『おう、そうだ！』