『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1303

　『解りました。昼めしを終えたら準備に取りかかります』
　ギアスらは、昼めしを早々に終え試乗準備を整える。客人らの到着を待つ。
　待つ間もギアスは忙しい、沖に目をやる、沖行く船の航走状態を観察する、風の状態を推し測る、いい西風が来ていると読みとった。
　彼は、漕ぎかたらに試乗航走の件を伝える。
　『オキテス隊長からの話である。本日の試乗者は、新艇の第一号艇を使用いただいているキドニス浜頭殿である。一同、礼を失することのないように艇上に迎えてくれ。以上だ』
　『おう！』と返事が返る。
　一同が雑談の時を過ごす、程なく、キドニス浜頭を迎える、艇上に案内する。
　『キドニス浜頭殿、待っておりました。この艇の艇長を務めるギアスです。よろしく願います。本日はこの艇の試乗にようこそいらしてくださいました。ありがとうございます』
　『おう！』
　『ここより２０スタジオン余り沖に出て、東に向けて帆張りの航走をいたします。用命の折には声をかけていただくか、オキテス隊長に声をかけてください』
　『おう、心得た！』
　オキテスがギアスに声をかける。
　『おう、ギアス！出航だ！』
　『はい！』
　ヘルメス艇が船だまりの岸壁を離れていく、左手方向からの風を受けて沖へと進む、風に飛ぶしぶきが顔を濡らす、海上の各所に白ウサギが飛ぶ波立ち風景である。
　いい風が来ている、船だまりをあとにして今様タイムで２０分くらい時が経っている、ギアスが方向転換点を選ぶ、操舵のカイクスと目を合わせる。
　『おう！方向を転換する！進行方向を東へ！』
　ヘルメス艇が艇尾を左方向へ振る、舳先が東へ向かう、波を割る。
　『櫂をあげ！全帆、帆張り！』
　『おうっ！』『おうっ！』『おうっ！』
　掛け声が風に飛んでいく、全帆が風をはらむ、ヘルメス艇が波を割る、しぶきが風に舞う。
　キドニス浜頭がスダヌスに声をかける。
　『おう、スダヌス！方向転換なかなかだな、櫂舵の比べると舵の切れがいい！』
　続けて、オキテスに声をかける。
　『オキテス隊長、操舵してみる！いいな』
　『キドニス浜頭殿、艇尾の操舵席のほうへ、どうぞ！』
　キドニス浜頭が同行の一人を連れて艇尾に移る。
　『おう、カイクス、キドニス浜頭殿が操舵される。操舵を代われ！』
　『はいっ！』
　キドニス浜頭が操舵棒を握る。オキテスが声をかける。
　『キドニス浜頭殿、ジグザグ走行をして、舵の切れ具合を試してください』
　『おう！』
　キドニス浜頭は、風をはらんで波を割るヘルメス艇の船速に合わせて舵の操作をする。