かっこいい谷川将棋の話をしよう。
19歳で羽生善治が初のタイトル「竜王」を獲得したのが1989年。(島朗竜王から4-3で奪取)
翌90年、その挑戦者として谷川浩司が登場し、夢の谷川・羽生対決が実現した。谷川は28歳、羽生は20歳。
谷川浩司の2連勝でむかえた第3局、谷川得意の「先手番角換り腰掛銀」を後手番羽生が受けて立った。谷川の攻めに、羽生の反撃__そして、上の図の局面に。
当時のNHK衛星放送は、ほかに用意している番組が少なかったためか、将棋の中継にたっぷりと時間をとってくれていた。
羽生△6六飛。(谷川の▲6七歩に対し、△6六歩▲同歩△同飛となったところ)
この局面で、解説の小林健二(現九段)は、女流の林葉直子を聞き手として、こう言っていた。
「ここは谷川さん、当然▲6七歩とします。それに対し羽生さんは、飛車を引くのは意味がないので、当然△5六飛と飛車を銀と指し違えて攻めるのでしょう。問題はその後です。羽生さんはどう攻めるのか…。」
その解説に、僕は、なるほどなるほどと納得して聞いていた。(△6六飛に▲同金は、△同馬で先手負ける)
ところが、谷川浩司はたっぷり時間を使って長考している。
小林さんは、▲6七歩△5六飛▲同銀その後を考えているのでしょうと言っていたが、谷川浩司に長考があまりに長いので、解説することもなくなって、
「▲6七歩以外の手はちょっと考えられませんね。あえて考えてみるとすれば▲5五銀ですが、これは、だめですね。▲5五銀には、△6八金、8八玉、7九角、9八玉、9七歩、同桂… こうなってしまいますから。」
谷川は、まだ長考している。いったい何を考えているのか…。
やがて谷川は動いた。いつもの、よわよわしい手つき(谷川さんは駒を叩きつけるような指し方はしない)で、▲5五銀。 えっ?
▲5五銀!!
だれもが、おどろいた!! 僕も。小林健二、林葉直子も。
小林「えっ!? ▲6七歩じゃない? ▲5五銀? ええとこれは…」
林葉「でも…これは…、さっきの解説どうりに… なりますよね?」
小林「ええ。ええ、なります。変化の余地はないです。羽生さんが△6八金とすれば必然です…。
林葉「谷川さんは、では、どうして…」
小林「なぜでしょう? … 」
羽生は、しばらく考えて、小林の解説のとおりに、△6八金と指した。そして局面は解説どおりに進む…
△6八金、▲8八玉、△7九角、▲9八玉、△9七歩、▲同桂…
その途中で、小林さんは「あっ、そうか、こうやって受けようというのか!」と言って、▲8九銀という手を示した。その通りだった。△9七歩、▲同桂、△5五銀に、▲8九銀と谷川は受けた。
だが、しかし、谷川の玉はあぶなっかしい。こんなキケンな局面にもっていく必要があったのか? あの時、▲6七歩とすれば、こんなキケンな状態は避けられたはずなのに…。
観ていた僕はそう思った。いったいどうなるのか。谷川浩司はなにを考えてこう指したのか。
僕は、羽生と谷川の次の指し手を見まもった。どきどきした。 どんな結末が待っているのか。
羽生△6七飛成。(金と交換するねらい)
谷川▲同金。
羽生△同金。
谷川▲6一飛。
谷川浩司の▲6一飛が盤上に打ち下ろされた。
「そうか!」 TV解説の小林さんは、それですべて理解したようだった。
▲6一飛。
これで、すでにこの将棋は、谷川浩司の一手勝ちなのだった。
そして羽生には、もう逃れる手段はないのだった。
羽生△8八銀。この手は先手玉の「詰めろ」になっている。これは解きようがない。
だが___。
谷川▲3一飛成。 ズバッと飛車をきった。
以下△同玉。▲5三角、△2二玉、▲3四桂まで、先手勝ち。
後手羽生善治の玉は「詰み」なのだった。4九の香がしっかり働いている。
あの△6六飛の局面(上図)で、谷川はここまですべて読みきっていたのだった。 (あの局面で、受けを手抜きして「攻め」を考えているなんて!) いや、もっと前…▲9四竜としたときから、この寄せを描いていたのかもしれない。
この期の竜王戦は、4-1のスコアで、谷川浩司が羽生善治を破って、「竜王位」に就いた。 谷川の「光速の寄せ」が、あざやかに炸裂したシリーズだった。
最終局後のインタビューで羽生はいった。「全局を通じて、終盤で読み負けていました」と。
投了図(▲3四桂まで)
19歳で羽生善治が初のタイトル「竜王」を獲得したのが1989年。(島朗竜王から4-3で奪取)
翌90年、その挑戦者として谷川浩司が登場し、夢の谷川・羽生対決が実現した。谷川は28歳、羽生は20歳。
谷川浩司の2連勝でむかえた第3局、谷川得意の「先手番角換り腰掛銀」を後手番羽生が受けて立った。谷川の攻めに、羽生の反撃__そして、上の図の局面に。
当時のNHK衛星放送は、ほかに用意している番組が少なかったためか、将棋の中継にたっぷりと時間をとってくれていた。
羽生△6六飛。(谷川の▲6七歩に対し、△6六歩▲同歩△同飛となったところ)
この局面で、解説の小林健二(現九段)は、女流の林葉直子を聞き手として、こう言っていた。
「ここは谷川さん、当然▲6七歩とします。それに対し羽生さんは、飛車を引くのは意味がないので、当然△5六飛と飛車を銀と指し違えて攻めるのでしょう。問題はその後です。羽生さんはどう攻めるのか…。」
その解説に、僕は、なるほどなるほどと納得して聞いていた。(△6六飛に▲同金は、△同馬で先手負ける)
ところが、谷川浩司はたっぷり時間を使って長考している。
小林さんは、▲6七歩△5六飛▲同銀その後を考えているのでしょうと言っていたが、谷川浩司に長考があまりに長いので、解説することもなくなって、
「▲6七歩以外の手はちょっと考えられませんね。あえて考えてみるとすれば▲5五銀ですが、これは、だめですね。▲5五銀には、△6八金、8八玉、7九角、9八玉、9七歩、同桂… こうなってしまいますから。」
谷川は、まだ長考している。いったい何を考えているのか…。
やがて谷川は動いた。いつもの、よわよわしい手つき(谷川さんは駒を叩きつけるような指し方はしない)で、▲5五銀。 えっ?
▲5五銀!!
だれもが、おどろいた!! 僕も。小林健二、林葉直子も。
小林「えっ!? ▲6七歩じゃない? ▲5五銀? ええとこれは…」
林葉「でも…これは…、さっきの解説どうりに… なりますよね?」
小林「ええ。ええ、なります。変化の余地はないです。羽生さんが△6八金とすれば必然です…。
林葉「谷川さんは、では、どうして…」
小林「なぜでしょう? … 」
羽生は、しばらく考えて、小林の解説のとおりに、△6八金と指した。そして局面は解説どおりに進む…
△6八金、▲8八玉、△7九角、▲9八玉、△9七歩、▲同桂…
その途中で、小林さんは「あっ、そうか、こうやって受けようというのか!」と言って、▲8九銀という手を示した。その通りだった。△9七歩、▲同桂、△5五銀に、▲8九銀と谷川は受けた。
だが、しかし、谷川の玉はあぶなっかしい。こんなキケンな局面にもっていく必要があったのか? あの時、▲6七歩とすれば、こんなキケンな状態は避けられたはずなのに…。
観ていた僕はそう思った。いったいどうなるのか。谷川浩司はなにを考えてこう指したのか。
僕は、羽生と谷川の次の指し手を見まもった。どきどきした。 どんな結末が待っているのか。
羽生△6七飛成。(金と交換するねらい)
谷川▲同金。
羽生△同金。
谷川▲6一飛。
谷川浩司の▲6一飛が盤上に打ち下ろされた。
「そうか!」 TV解説の小林さんは、それですべて理解したようだった。
▲6一飛。
これで、すでにこの将棋は、谷川浩司の一手勝ちなのだった。
そして羽生には、もう逃れる手段はないのだった。
羽生△8八銀。この手は先手玉の「詰めろ」になっている。これは解きようがない。
だが___。
谷川▲3一飛成。 ズバッと飛車をきった。
以下△同玉。▲5三角、△2二玉、▲3四桂まで、先手勝ち。
後手羽生善治の玉は「詰み」なのだった。4九の香がしっかり働いている。
あの△6六飛の局面(上図)で、谷川はここまですべて読みきっていたのだった。 (あの局面で、受けを手抜きして「攻め」を考えているなんて!) いや、もっと前…▲9四竜としたときから、この寄せを描いていたのかもしれない。
この期の竜王戦は、4-1のスコアで、谷川浩司が羽生善治を破って、「竜王位」に就いた。 谷川の「光速の寄せ」が、あざやかに炸裂したシリーズだった。
最終局後のインタビューで羽生はいった。「全局を通じて、終盤で読み負けていました」と。
投了図(▲3四桂まで)
長考しても詰み筋じゃなかったら、と思うと凄いリスクなのに。
投了図以下でも20手以上?かなり長い詰みなのに、それをあの時点で読めるのは、感動するしかありませんね。
40代の谷川浩司はどうなるんでしょうかねえ。
中原16世名人は40代で名人になったし、加藤さんも。坂田三吉も40代でさらに強くなりました。
大概の人は弱くなりますが、さあ、羽生世代はどうでしょうか。
(1)△13玉に対して
▲25桂△12玉(△24玉は▲35角成)▲22金△同金▲同桂成△同玉▲92竜とします。後手は合駒しますが、持駒は「飛金金桂」。どれを合駒しても▲同竜ととって詰みます。たとえば△32桂合ならば▲同竜△同玉▲42角成△22玉▲34桂△12玉▲22金まで。
(2)△12玉にたいして
▲22金に、△13玉は▲25桂△24玉▲35角成まで。なので▲22金△同金▲同桂成となりますが、(イ)同玉は、▲34桂以下詰みです。(ロ)△13玉とここで逃げて▲25桂に△22玉と桂馬を使わせてから成桂をとる手がありますが、ここで▲92竜とすれば、あらふしぎ、(1)の変化と同じ図になっています。後手なにを合駒しても▲同竜以下。
以上がご質問にたいする僕の答えですが、「投了図」以下の詰みは盤に並べるとそう難しくない詰みです。
ところで、僕がこの将棋を並べたとき、この「投了図」の少し前、▲53角に(羽生さんは△22玉と指しましたが)そこで後手が合駒した場合はどうなるんだろうと思いました。それでその変化についても今回考えてみました。以下その検討結果を書いてみます。
▲53角に、
(1)△42金打には、▲91竜とします。
対して(イ)△22玉は、▲34桂△12玉▲22金△同金▲同桂成△13玉▲25桂△22玉▲31竜△同玉▲42角成以下。(ロ)△41飛合(これしか持駒がない)ならば、同竜ととって、△41同玉に▲61飛△51飛▲同飛成△同玉▲62金△41玉▲51飛まで。
(2)△42飛合には?
これは▲同香成△同金▲同角成と清算して詰み。(他にも手があるかも)
以下△42同玉▲34桂。ここで「飛金金桂」と持っているのでどう玉が逃げても詰みます。例えば△51玉には▲52金△同玉▲32飛のようにして。
どうも後手の合駒がわるいようです。すると、「もし羽生さん側の持駒に“一歩”があれば“42歩合”で詰まなかったのではないか?」と思われます。(ここは未確認)
谷川さん決断の▲55銀のときには羽生さんは“一歩”をもっていたのですが、それを攻め(97歩)に使っています。
谷川さんはそれを読み切っていたわけですね。
もしまちがいがあればご指摘ください。