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Acoustic Live Bar harness
工藤冬里
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フォークシンガーとしても活動する割礼のベーシスト鎌田ひろゆきがプロデュースするアコースティック専門ライヴバー、阿佐ヶ谷ハーネスで工藤冬里のソロライヴ。マヘル・シャラル・ハシュ・バズにも参加する女性ギタリスト鈴木美紀子が共演。開演前からステージで「クライ・ミー・ア・リヴァー」の練習をしている。徐々に客が到着し開演時間になると「じゃあはじめようか」とスタートするが、今まで練習していたわりには上手く行かず、何度もやり直す。
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(写真の撮影・掲載については出演者の許可を得ています。以下同)
冬里がPCで歌詞を探すが中々見つからない。鈴木と客はじっと見つめながら無表情で待っている。どうにも見つからず「これ以上時間が掛かるとお客さんに怒られる」と一番前に座っていた女性客に探すように頼んで、ギターで延々と同じフレーズを繰り返す演奏。女性客はPCのパッドをスクロールするばかりで、いつまで経っても見つからない様子。横にいた客も一緒になってPCと睨めっこしている。暫くして「見つかりました」とPCを冬里の前の椅子に放置。
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突然歌謡曲を歌い出し、鈴木も一緒に唱和する。冬里は「誰かギター弾ける人いない?」と自分のジャズマスターを客に渡そうとする。当然客は誰も弾こうとはしないので「あ、そう」と何事もなかったように弾き続ける。陽気な曲調と何となく気詰まりな苦笑のギャップが、曲の白々しさを倍化させる。鈴木はとても楽しそう。
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「次はどの曲やろうか」と言って譜面を横の椅子の上から一枚一枚取り上げては譜面台に置いたり椅子に戻したり。譜面を見ながら「この曲できる?」などと話しかけるが、鈴木は「まあ」とか「たぶん」とか煮え切らない答え。「それじゃ君が作った曲をやろう」と言ってコードを弾き始める。鈴木が合わせようとするが所々間違い、その度に演奏を止めて最初からやり直し。終いに「思い出しました」と鈴木が言うが演奏はなんとも頼りない。
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終始上記のような進行で、演奏を聴くというより、どうしようもなく実りのない練習に付き合わせれたような無常感を感じる。しかし他の客は見る限り余り気にしてはいない様子。かと言って満足の笑みを浮かべる訳でもなく、淡々と飲み物を頼んだり、物販CDを手に取ったりして、三々五々帰っていく。
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昔読んだSF小説で、ある日家でちょっとした違和感を感じた主人公が、家人や隣人にズレを感じるようになり、街中が異星人と入れ替わって自分を陥れようとしているとの危機感を募らせ逃れようともがくストーリーがあったが、もしかしたら今日のライヴは、他の客も全員グルになって筆者を騙そうとしたのではないだろうか?また、テレビ番組で出演歌手に一般席から選ばれた観客が突然一斉にダンスをはじめた、という演出が話題になったが、同じようなヤラセに嵌められたのではないだろうか?-----そんな不安に苛まれる。「存在の齟齬」とでも呼ぶしかない日常生活の地層のズレに絡めとられたまま、休日は快速が止まらない阿佐ヶ谷駅から各駅停車に乗り込んだ。休日の夜はやけに空いていた。
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小説では
異星人は
主人公の方だった
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