A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【Disc Review】灰野敬二  ジョン・ブッチャー『光  眩しからずや』

2018年01月24日 00時58分43秒 | 灰野敬二さんのこと


KEIJI HAINO JOHN BUTCHER - Light Never Bright Enough
灰野敬二 ジョン・ブッチャー『光  眩しからずや』

LP/CD Otoroku ‎– ROKU018

Keiji Haino : Vocal, Guitars, etc.
John Butcher : Saxophones and Feedback

Recorded live at Cafe OTO on the 9th July 2016 by Luca Consonni.
Mixed by John Butcher.
Mastered by Giuseppe Ielasi.
Photography and design by ORGAN.

陰陽二元論の交わりを約束する眩しからぬ光の導き。

イギリス前衛ジャズ界のベテラン・サックス奏者ジョン・ブッチャーと灰野敬二が初めて共演したのは2016年1月9日(土)香港The Empty Gallery。同年7月9日(土)ロンドンCafe Otoで2度目の共演を果たした。本作はCafe Otoでのライヴ録音。各500枚限定のLPとCD、そしてダウンロードで2017年12月にリリースされた。収録曲はLPよりもCDとダウンロードが3トラック多い。

ジョン・ブッチャーについては余り詳しくないが、他のアーティストとの共演アルバムや昨年12月にCafe Otoで観たライヴの印象では、変化の少ないロングトーン中心で、フレージングやメロディではなく、音色や波形の起伏でアンサンブル全体をコントロールするドローン演奏家のイメージが強い。西洋の即興シーンでは、このようなドローン系の演奏に特化したアーティストやファンが少なからず存在する。例えばサーストン・ムーアのギターはノイジーではあるが、空間を切り裂くのではなく塗り潰すプレイと言える。一方で灰野の演奏は、ギターでもエレクトロニクスでも、もちろんパーカッションでも一音と一音の違いを意識した演奏であり、息継ぎやブレイクのない一続きの長音だとしても音と音の間に意志を集中させるという。それは音量や音数の大小ではなく、音楽創造過程に於ける「間」の意識であり、日本的に言えば「侘び寂び」の表出と言えよう。では西洋的な「塗り潰し(ドローン)」との差異の源は、一神教のキリスト教の原罪主義と、八百万の神の神道の祭祀主義の意識の違いだ、などと論議し出すと怪しい方向へ話が逸れるので、これ以上論を進めるのは辞めておこう。

もしブッチャーがドローン演奏に固執したとしたら、変化を潔しとする灰野のプレイが孤軍暴走し、コラボというよりフロントとバックに従属し溶け合うことなく分離したまま平行線の可能性がある。筆者が35年前にやっていた即興ユニット「OTHER ROOM」はメンバーがそれぞれ別の部屋で演奏する態度・意識で自主的/自己中心的な即興アンサンブルを目指したが、お互いを無視する強度に欠けて往々にして馴れ合いになった。そんな生半可な演奏を引合に出すのも憚られるが、自覚した演奏家にとっての「自主性」とは、交わりを作らないことでは勿論ない。交わるからこそ自覚した独立/孤立が意味を持つのであり、最初から接点がないところに自主も自覚も自己中心も有り得ないのは自明の理である。その意味では『光 眩しからずや/Light Never Bright Enough』というタイトルは、演奏空間に於けるブッチャーと灰野の接点との関係を見事に言い表している。どんなに明るい光であっても、二者が接点を保ちつつ別の方向へ離れたり付いたりする限りは、障壁にはならないし、逆に目的地にもなり得ない。眩しからぬ光こそ、両者のコラボレーションが変化し成長し続ける要因であり動機であり希望なのである。

灰野は歌、ギターetcとクレジットされているが、ポリゴノーラやパーカッション、チャイニーズオーボエなど多種の演奏。聴く限りは明確な歌詞は歌っていない。だからといってインストゥルメンタル・コラボレーションとは言い切れないのが、灰野の「歌/Vocal」なのである。このアルバムで聴けるブッチャーのプレイは、筆者が勝手に貼った「ドローン演奏家」のレッテルが、如何に浅はかで如何に上っ面で愚かな聴取態度に基づいていたか猛反省し、リスナーとしての自覚を取り戻すための絶好の導きとなったことを付け加えておきたい。

ブッチャーは
肉屋じゃないかと
早とちり


コメント
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