尖閣諸島問題、というより尖閣諸島問題で中国が一方的に熱くなっている件、というべきですか。御存知の通り中国はいま多事多端にして物情騒然ですから他に書くことが色々あります。
……ありますし私も早いとこそっち方面へ行きたいのですが、如何せん極上燃料が投下されてしまいました。これです。
●日本、常任理事国入りに再挑戦 安保理改革19日に政府間交渉(共同通信 2009/02/17/16:15)
【ニューヨーク17日共同】国連安全保障理事会改革をめぐり実質的な議論の場となる政府間交渉が19日、ニューヨークの国連本部で開始される。2005年に安保理拡大を盛り込んだ枠組み決議案提出までこぎ着けながら、最終的に挫折した日本は悲願の常任理事国入りに再挑戦する。
第1回交渉では、国連総会のデスコト議長が加盟国に交渉の手順などを記した作業計画を提示する予定で、どのような内容になるのかが焦点。議長は交渉を数カ月で集中的に行う方針を示しているが、国連外交筋は「議長は任期切れの9月までにどこまで進めるつもりなのか注目される」としている。
議長の報道官は政府間交渉について「あらゆる形態がありうる」とする一方、論点は(1)安保理の拡大規模(2)常任理、非常任理の数(3)地理的な配分(4)拒否権(5)安保理の手続き面での簡素化-の5点に集約されるとした。
2005年春に発生した反日騒動、その真因は胡錦涛下ろしに向けて対外強硬派を含むアンチ胡錦涛諸派が仕掛けた政争、と私は考えていますが、表面的には、
「日本の国連安保理常任理事国入りと歴史教科書への猛反発」
という動機でネット世論から現実世界へと反日気運が高まり、ついにかくなってしまいました。
むろん自然に盛り上がったムーブメントなどではなく、その過程ではメディアを通じた様々な煽りがありました。なぜ煽るかといえば、
「反日なら客を呼べる、売れる、儲かる」
という認識によるものです。単に新聞の販売部数が伸びるとかサイトのヒット数が急増して広告が……というだけでなく、「反日」を掲げて胡錦涛政権を揺さぶることで江沢民時代の既得権益を維持したり、予算を分捕ったり、狙っていたポストをゲットしたり。……というのも「儲かる」に含まれます。
煽るメディアの政治的保護者としてアンチ胡錦涛勢力の存在があった、といっていいでしょう。掌握下のメディアを使って敵方のメディアと代理戦争を展開させる、というのは中国政治の権力闘争における最も典型的なスタイルです。
それはともかく。要するに江沢民時代にはそれを繰り返し声高に叫ぶことで対日外交カードや中共政権への不満そらしとして機能していた「反日」は、江沢民が完全引退してからは一貫して胡錦涛による政権運営の足を引っ張る切り札的アイテムとなってきました。
いまでもそれが有効と認識されていることは、前回書いたように尖閣諸島をめぐる問題について中国の顔色がやや紅潮してきたことから察することができます。尖閣問題という「反日」そのものではなく、「反日」カード発動による政争の気配がにわかに高まったことで「紅潮」してきたということです。
その前回紹介した「台湾の活動家が5月に上陸を狙う」という電波系基地外反日誌『国際先駆導報』の記事は掲載当日午後に「新華網」にも転載され、国営通信社による全国ニュースへと昇格しています。
●「新華網」(2009/02/16/15:09)
http://news.xinhuanet.com/tw/2009-02/16/content_10828136.htm
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この記事を改めて読んでみて、さらに他の関連報道にも接して「おや?」と思ったのは、前々回に私が散々くさした「厳正なる申し入れ」が、少なくともメディアやネット世論においては熱烈歓迎されているらしい、ということです。
かつての小泉純一郎・首相(当時)による靖国神社参拝に対する中国政府の反応について、「また抗議・遺憾の軟弱外交か」という怒りの声が中国のネット上では参拝の度に噴出していましたが、
「海上保安庁が尖閣諸島付近にPLH型巡視船を常時配置」
という『産経新聞』による消息筋報道について、外交部が初動にてマニュアル通りの反応に終始し正面からの言及を避けた(日本側の公式発表でないため)ことについても、同様の非難が相次いでいました。
ところが、外交部アジア局が2月10日、北京の日本大使館に対して行った「厳正なる申し入れ」については、
「よく言った!いいぞ!」
という反応に一変したのです。
「釣魚島と周囲の島々は昔から中国固有の領土であり、中国はこれに対して争う余地のない主権を持っている。日本側が釣魚島問題に関してさらなる行動に出た場合、中国側も強い反応をせざるを得ず、日本側はこれを明確に意識すべきだ」
というのが、そのポイントである模様。日本のメディアはこの部分について、
「日本側に冷静な対応を求めた」
「けん制した」
と軽く流しているのですが、中国の自称愛国者どもにとっては溜飲が下がったようで。「次に同じことをやったら無事では済まないと思え!」というノリが受けたのでしょうか。
●「人民日報日本語版」(2009/02/12/11:41)
http://j.people.com.cn/94474/6591314.html
●尖閣の巡視船配置で申し入れ=中国(時事ドットコム 2009/02/11/17:56)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009021100353
●尖閣諸島めぐり申し入れ 中国が日本に(共同通信→MSN産経ニュース 2009/02/11/21:32)
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090211/chn0902112134006-n1.htm
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「日本に対し強い反発で最後通牒:東海艦隊は衝突に備え待機態勢!」
という威勢の良すぎる記事まであったようです。「あったようです」というのは現在は削除されているからで、出ていた場所は中国中央テレビ局(CCTV)のニュースサイト。
http://news.cctv.com/military/20090217/101583.shtml
あれこれ検索してみたら「新浪網」のブログに似たようなものが転載されていました。たぶんこれではないかと。
●中国強烈反応対日発最後通牒:中国東海艦隊作好衝突準備!(2009/02/17/09:39)
http://blog.sina.com.cn/s/blog_4b773c640100bvit.html
糞青(自称愛国者の反日信者)が反日掲示板に書きなぐって満堂の喝采を浴びそうなノリと内容です。プロの記者が書いたのでしょうけど、30歳前後から下は江沢民による反日風味満点の愛国主義教育を受けて成人していますから、血潮をたぎらせていたのであれば、まあこんなもんでしょう。海上保安庁の巡視船に対抗して中国海軍を出す、という発想からしてイタいような気がするのですが……。
そのCCTVの軍事関連ニュースのページに飛んでみると、
「日本が艦艇を出動させ魚釣島の実効支配に動いたら、中国はどう対応すべきか?」
というアンケートが。結果は言わずもがなですね(笑)。

(1)ドカンと一撃浴びせておいてから協議……1742票
(2)極めて強硬な姿勢で恫喝することで手を引かせる……1628票
(3)こちらも武力で臨み盛大に一戦交える……1396票
(4)放置して対立の激化を避ける……59票
●「央視網軍事社区」
http://news.cctv.com/military/
http://www.cctv.com/vote/see11174.shtml
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……と、いい感じになってきたところへ「日本が常任理事国入りに再挑戦!」という報道が流れるというタイミングの妙はどうでしょう。
社会状況だけでもう必死なのに、尖閣問題を持ち出されて何となく盛り上がってきたところに、この極上燃料。このネタにも飛び火して炎上となれば、最近かの江沢民がアップを始めている模様なので胡錦涛にとってはかなり苦しい展開になりそうです。
この「常任理事国」ニュースは日米外電総合という形で、英字紙『チャイナ・デイリー』電子版を通じて中国国内にも速報されています。
●国連改革、日本が安保理常任理事国入りを要求へ(新浪網 2009/02/17/17:58)
http://news.sina.com.cn/w/2009-02-17/175815176651s.shtml
そしてこちらにもアンケートが。「あなたは日本の常任理事国入りを支持しますか?」という設問への回答は……

……ええ、全くお約束の通りでした。というよりこれからの展開が楽しみ?(笑)
http://survey.news.sina.com.cn/voteresult.php?pid=30799
国内の状況が大変だというのに、こんなことやっていて大丈夫?と他人事ながらつい心配してしまいます。2005年春の反日騒動だって当局の予想を超えて盛り上がったため、「中共人」たちは身の危険を感じて喧嘩している同士で慌てて手打ちを行い,全力で鎮静化に努めたという経緯があります。
あれから4年。現今の経済・社会状況は当時と全く比較にならぬほど悪化しているというのに、庶民を盛大に踊らせて政争を繰り広げる余裕があるのでしょうか?
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こと尖閣問題については領有権争いですから、胡錦涛や外交部にしても日本に譲歩するつもりは少しもないでしょう。ただし、いま現在において日本にどう対応してみせるか、という「強硬度」についてはネット世論との間に相当な隔たりがあるように思います。
日本の常任理事国入りに至っては「100%反対!」ではなく、反日騒動時の初動期に示したように「容認もやむなし」というのが胡錦涛の本音かも知れません。……とはいえ、世論や政敵が盛り上がってしまうと、未だに「番長」ではないだけに胡錦涛は涙目になってしまうかも知れません。というより、本当に盛り上がってしまえばその線が濃厚。
「続報に期待」と前回の文末に書いたら、とんでもない展開になってしまいました。(・∀・)
最後に尖閣関連情報。
5月に魚釣島上陸を目指す台湾の活動家グループ「中華保釣協会」は船の準備も整い、香港の団体も参加する見通しとのこと。中国本土からの参加も求めるとのことですが、これについては本土の総本山「中国民間保釣連合会」の童増・会長が香港紙の取材に応じ、
「中国国内でも非常に盛り上がってきている。当局も協力的だし、中国と台湾の関係も良好だ。それに馬英九も活動家上がりだ」
などとコメント。「ここ10年来で最大規模の民間によるアクションとなる可能性が高い」と強い期待を示しています。長らく御無沙汰していた童増ですが、口の軽さは相変わらずのようです。
「当局も協力的」なんて軽々しく言っちゃうあたりが何となく憎めなくもあるのですが、ここは「中国当局内の有力者には『反日』に協力的な者がいる」と読んでおくべきでしょう。
●台湾の団体が尖閣上陸計画(共同通信→MSN産経ニュース 2009/02/17/17:01)
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090217/chn0902171702005-n1.htm
●『蘋果日報』(2009/02/17)
http://www1.appledaily.atnext.com/
あとこれも。
●侵入は主権示すため 中国、尖閣諸島問題で(共同通信→MSN産経ニュース 2009/02/17/13:19)
新華社電によると、国家海洋局の孫志輝局長は17日までに、昨年12月に尖閣諸島(中国名・釣魚島)沖で中国の海洋調査船が日本の領海に侵入したことについて「実際の行動で中国の立場を示した」と述べ、中国の主権を主張することが目的だったことを明らかにした。
16日に北京で開かれた海洋局関連会議の中での発言。孫局長は、昨年1年間で中国が主権を主張する海域で延べ200隻余りの船舶、同140機余りの航空機を出し監視、警戒などの活動を行ったと指摘した。
なるほど。海洋調査とか言っていたのに、やっぱり本当の目的は示威活動だった訳ですね。それにしても、こういうニュースが中国国内に流れることで、いよいよ「反日」気運が高まっていくのでしょう。
……天意?
【追記】上の「侵入は主権示すため 中国、尖閣諸島問題で」というニュースについて元ネタである新華社では当該記事が削除されていました。転載された先でも削除されているケースが多々。政治臭がプンプンしますね。下は現時点で残っていたものひとつ。(2009/02/18/16:19)
●2008年我国海洋維権航程近50萬海里(新華網→温州網 2009/02/16/21:36)
http://news.66wz.com/system/2009/02/16/101144204.shtml