おやおやおやおや。……と香港紙の記事漁りをしていて思いました。久しぶりに、実に久しぶりに靖国神社メインのニュースが流れたからです。
●日本の自民党、靖国参拝を誓う(明報電子版 2007/01/17/15:15)
http://hk.news.yahoo.com/070117/12/204cm.html
●日本の与党・自民党が党綱領を決議、靖国神社参拝を誓う(ロイター 2007/01/17/16:22)
http://hk.news.yahoo.com/070117/3/204uu.html
どうやら1月17日に開催された自民党第74回定期党大会の速報のようです。
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●安倍首相、憲法改正に意欲 自民党大会(Sankei Web 2007/01/17/12:07)
http://www.sankei.co.jp/seiji/shusho/070117/shs070117002.htm
(前略)運動方針では、「改革を加速し、炎を燃やし続ける」と宣言し、経済成長戦略や「再チャレンジ政策」による経済活性化を強調。一方、憲法改正や教育改革による公教育の再生、日本の文化や伝統を尊重することに重点を置いた内容が目立ち、改革一辺倒だった小泉純一郎前首相時代とは一線を画した。さらに北朝鮮による拉致事件や核開発に毅然(きぜん)とした態度で臨む「主張する外交への転換」を訴えたほか、「靖国神社の参拝を受け継ぐ」とも明記し、首相の靖国神社参拝への強い意欲をにじませている。(後略)
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●安倍首相:靖国参拝、明言しない考え改めて示す(毎日新聞 2007/01/17/22:17)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20070118k0000m010129000c.html
安倍晋三首相は17日、自民党の07年運動方針に昨年に引き続き「靖国神社の参拝を受け継ぐ」ことが盛り込まれたことについて「恒久平和を祈り、国のために戦った方々のために手を合わせる。私もその気持ちは大切にしていく」と述べたうえで、自身の参拝については「外交問題、政治問題になる以上、私から申し上げることはしない」と明言しない考えを改めて示した。(後略)
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中共は温家宝・首相の4月来日が予定され、安倍首相とは先日の国際会議でフィリピンにて会談したばかり。そのときに事前説明を受けていなければ、中共上層部は突如の「靖国」にさぞや驚いたことでしょう。
確か日本国内の報道だったと思いますが、温家宝の4月来日は靖国神社の春の例大祭とぶつかるよう訪日日程を調整していて、安倍首相はもとより日本の閣僚や国会議員の靖国参拝を牽制しようという肚だとか何とか。
胡錦涛・国家主席の訪日は秋で、これも秋の例大祭の時期を狙うという見方もあったかと思いますが、それはまずないだろうと私は思います。
常識的に考えて、秋来日であれば5年に1度開かれる第17回党大会を優先し、それに合わせてスケジュールが組まれるでしょう。大型人事や世代交代が行われる党大会を片手間で処理できるほど胡錦涛の指導力が磐石だとは思えません。
ともあれ、上述したように香港メディアは「靖国」を速報しました。
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安倍首相はさきの訪欧でEUに対し対中武器禁輸措置の解除反対を表明するなど中共の痛点をチクチクとつつく「遠交近攻」策を行い、外交部報道官を釣り上げたほか、国営通信社・新華社がこれに不快感を示す記事を出すなど、日中関係がちょっと雲行き怪しげな空模様になってきたところです。はいこれが新華社の記事。
●日本の地震への備えをみて、日本の長所に学べ(新浪網 2007/01/16/09:35)
http://news.sina.com.cn/w/pl/2007-01-16/093512050648.shtml
ああ間違えましたこっちが本物。
●中日関係は「曇り時々晴れ」、日本の対中戦略は未だ封じ込めが主流(新華網 2007/01/16/13:50)
http://news.xinhuanet.com/world/2007-01/16/content_5612495.htm
『日本経済新聞』からの翻訳?かも知れませんが、訪欧だけでなく日中関係全体に言及した論評記事です。これによると靖国問題が未だ微妙な雪解けムードにある日中関係のアキレス腱なんだとか。
その記事が出た翌日にドカーンとばかりに「靖国」です。可燃度の高さは説明不要、極上燃料が投下されたといっていいでしょう。防衛庁の省昇格に対外的(外交部報道官談話)には抑制されたソフトな対応を示したものの、安倍訪欧では自国が突つかれているために反応してしまった外交部。
その直後に「靖国」という大ネタ登場とは、偶然なのでしょうけど安倍首相もなかなか揺さぶりが上手です。しかもきょう(1月18日)は木曜日、といえば外交部報道官定例記者会見の日(毎週火曜・木曜)ではないですか(笑)。
中国側がそっとしておいてほしくても、朝日とか毎日とか共同とかいった自称働き者どもが「御注進こそ中国様への忠義」と信じて、空気を読まずに質問してくることは必至だ(笑)。これは楽しみなことになりました。
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そういえば新華社は昨日(17日)も小島朋之・慶応大学教授による日本誌への寄稿文を転載しています。中共が余計な編集を行っていないのか、中共系メディアとしては珍しく傾斜することのない文章です。……で、この記事にも、
「日本の首相が靖国神社を参拝するかどうかが今後の日中関係の焦点のひとつ」
となっています。
●日本の専門家:中日「戦略的互恵関係」を左右する9つの要因(新華網 2007/01/17/16:02)
http://news.xinhuanet.com/world/2007-01/17/content_5617841.htm
それから人民解放軍機関紙の『解放軍報』も同じ日に署名論文を掲載。日本の軍事面における動きにかなり神経質になっている様子がうかがえます。やっぱり直接的には日米の離島奪回演習と防衛省、それにF22ラプター戦闘機の沖縄配備あたりがイライラの原因でしょうか?
●日本は最近ちょっと忙しげだ(解放軍報 2007/01/17)
http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2007-01/17/content_708418.htm
そして、よりによってこれらの記事が掲載された日に「靖国」なのです。
アキレス腱ブチブチ?
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さて、香港メディアが速報した「靖国」、ネタがネタだけに中共系メディアも次々とこれに続いたかと思いきや、さにあらずなのです。
いや、自民党党大会のニュース自体は香港メディアより約6時間遅れて17日夜に各メディアが報道しました。この「時差」が微妙なのですが、まあ速報といっていいでしょう。
ところが、その記事の中身がみんな同じなのです。それでたぐっていったところ、行き着いたのが新華社電。
●日本の自民党、今年の重点目標は「改憲」(新華報業網 2007/01/17/21:03)
http://www.xhby.net/xhby/content/2007-01/17/content_1518833.htm
私が調べた限りではありますが、どのメディアのニュースも、自民党党大会についてはこの記事を使っていました。一部を端折ったり、リードだけ使った短信タイプもありましたけど、使っている部分は新華社電の一字一句そのままです。
問題はこの記事に「靖国神社」という言葉が全く出てこないことです。
●安倍首相、靖国神社参拝に関しては相変わらずの「曖昧戦術」(共同通信 2007/01/17/22:03)
http://china.kyodo.co.jp/modules/fsStory/index.php?sel_lang=schinese&storyid=37893
……と忠犬がキャンキャン吠えています。自民党の活動方針で靖国神社参拝の継続が明記されたこと、安倍首相が自身の参拝については明言しないと表明したことが短い記事に巧みに織り込まれています。
でも、中共系メディアはこれをスルー。
こうなると中共当局による報道統制の可能性が高まってきます。「靖国はNG」ということです。新華社の記者は党大会を取材していたでしょうから、党大会終了後から新華社電(新華報業網)が配信されるまでの半日近く、この間に対策が協議され、
●とりあえず第一報に「靖国」は織り込まない。
●そのお手本である新華社電のみを自民党党大会についてのニュースでは統一使用すること。
……との判断が下り、各メディアに内部通達が出されたのだろうと思います。
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ところが、前述したように香港メディアは速報しています。その6時間ばかり後の17日夜に新華社が「お手本原稿」を配信していますが、18日未明になって一応香港メディアである親中紙『大公報』電子版が「外電総合」という形で自民党党大会を報じ、しかも「靖国」をメインに据えるという記事を掲載しました。
●党大会で綱領決議、自民党が靖国参拝を誓う(大公報電子版 2007/01/18/01:37)
http://www.takungpao.com:96/gate/gb/www.takungpao.com/news/07/01/18/YM-680024.htm
これは簡体字版ですから中国国内からもアクセスできるのではないかと思います。もちろん香港紙ですから『大公報』も繁体字がデフォであり、繁体字版でも同じニュースを読むことができます。記事の種類からいえば電子版だけでなく、今日18日付の『大公報』にも掲載されている筈です。
他にも『明報』と親中紙筆頭格の『香港文匯報』が紙媒体で掲載しているようです。
●『大公報』(2007/01/18)
http://www.takungpao.com/news/07/01/18/YM-680024.htm
●『明報』(2007/01/18)
http://hk.news.yahoo.com/070117/12/20541.html
●『香港文匯報』(2007/01/18)
http://www.wwpnews.net/news.phtml?news_id=GJ0701180021&cat=004GJ
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『香港文匯報』『大公報』という親中紙が足並みを揃えて怒号しています。
「中国と韓国は靖国神社を軍国主義の象徴だとみなし、日本の公人による参拝にずっと反対してきた。温家宝首相が4月に訪日することになっているが、両国関係の修復作業は歴史問題に関する紛糾によって水泡に帰する可能性が未だ残っている、と中国側は警告していた」(香港文匯報)
というノリなので、中国国内でも一拍おいてから騒ぎ始める可能性が高いです。前夜の新華社電で国内的に時間稼ぎをしつつ反撃策を練り(日本側との非公式な折衝もあったかと思われます)、恐らく外交部報道官の定例記者会見におけるコメントが中共政権による外向けの正式な態度表明となって、一番槍をつけることになるでしょう。
EUの対中武器禁輸措置解除反対で反応した外交部ですから、まさか「靖国」に言及することなく「なかったこと」扱いにするとは考えにくいです。スルーしたらしたでサプライズですけど、それでは胡錦涛の統率に傷がつきかねませんし、軍部が収まらないのではないかと。
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最後におさらいしておきますが、中共政権による靖国神社参拝への容喙は明確な内政干渉であり、「日中間で取り交わされた3つの政治文書」である「日中共同声明」「日中平和友好条約」「日中共同宣言」のいずれもが禁じている行為です。
靖国神社に関する一切は日本の国内問題であり、中共政権がこれに口出しすることは前記3つの政治文書の全てに違反していることになります。またA級戦犯がどうのこうのということは、サンフランシスコ講和条約に調印していない中共政権には言及する権利も資格も全くないことを付記しておきます。
……と、日本政府はそろそろ腰を据えるべきではないでしょうか。日本と中国では「友好」の定義が違うのです。また当ブログが再三強調しているように、中共政権は一党独裁という本質において北朝鮮と全く同じであり、さらに民度の低さや全く異なる価値観を奉じていることも関係して、日本とは全く次元の違う世界に呼吸する国だといっていいでしょう。
北朝鮮がそうであるように、中国もマトモな対話が成立する相手ではありません。ですから「なんちゃって対話」と圧力を使い分けてあしらいつつ、日本は日本がやるべきことを進めればいいと私は思います。真の友好を願うなら目先の利害にとらわれることなく、30年くらい喧嘩することになってもいいじゃありませんか。
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