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月刊イオがおくる日刊編集後記

社会権規約委の勧告が意味するもの

2013-05-24 09:07:11 | (相)のブログ
 すでに各種報道やSNSなどを通じて伝えられているように、国連社会権規約委員会第50回会議(ジュネーブ、4月29日~5月17日)の会期中に行われた同規約の履行状況に関する日本政府報告書審査の結果が同委員会の「総括所見」(concluding observations)として発表された。
 
 同文書には締約国に対する委員会側からの懸念事項と勧告がまとめられているが、日本政府による朝鮮学校の「高校無償化」制度からの除外や「日本軍慰安婦」問題に関しても勧告が出た。このたび社会権規約委員会で勧告が出されたというニュースは、最近の「日本軍慰安婦」問題に関する政治家の相次ぐ暴言や排外主義団体によるヘイトスピーチの問題とあいまってマスメディアでも少なからず報じられた。
 すでに目にした方々も多いと思うが、以下、総括所見から上記2つのイシューに関する部分を抜粋して紹介する(日本語訳は「社会権規約NGOレポート連絡会議」によるもの。原文は以下のurl
http://www2.ohchr.org/english/bodies/cescr/docs/co/E-C-12-JPN-CO-3.doc で入手できる)

 26.委員会は、「慰安婦」が受けてきた搾取により、彼女たちによる経済的、社会的および文化的権利の享受ならびに彼女たちの賠償請求権に対する悪影響が永続していることを懸念する。(第11条第3項)
 委員会は、搾取の永続的影響に対応し、かつ「慰安婦」による経済的、社会的および文化的権利の享受を保障するため、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、「慰安婦」にスティグマを付与するヘイトスピーチその他の示威行動を防止するため、締約国が「慰安婦」の搾取について公衆を教育するよう勧告する。

 27.委員会は、締約国の高校教育授業料無償化プログラムから朝鮮学校が除外されていることを懸念する。これは差別である。(第13条、第14条)
 差別の禁止は、教育のあらゆる側面に全面的かつ即時的に適用され、また国際的に定められたすべての差別禁止事由を包含していることを想起しつつ、委員会は、高校教育授業料無償化プログラムが朝鮮学校に通う子どもたちにも適用されることを確保するよう、締約国に対して求める。


 今回の社会権規約委員会に先立って、第2回人種差別撤廃委員会(10年2月)と第3回子どもの権利委員会(10年5月)でも「高校無償化」問題と関連する内容が文書に盛り込まれたが、安倍自民党政権によって朝鮮学校が正式に制度の対象外とされた後、この問題で勧告が出るのは初めてだ。
 国連の人権条約委員会が日本政府による「無償化」制度からの朝鮮学校排除をDiscrimination(差別)であると明確に指摘し、朝鮮高級学校に通う生徒たちにも制度を適用するよう勧告した意味は決して小さくない。そもそも「高校授業料無償化・就学支援金支給制度」は社会権規約第13条の履行という文脈から出てきたものだ。規約の理念を捻じ曲げた省令改悪→朝鮮学校不指定という日本政府の措置が委員会から「ダメ出し」を受けたことは、この「朝鮮学校外し」という措置の不当性をこの上なく明確に示したといえないだろうか。

 総括所見の英文に目を通しながら、先日、朝鮮学校全国オモニ会連絡会の代表団に同行してジュネーブを訪れたときのことが再び思い出された。オモニ代表団の目的は日本政府の朝鮮学校差別の現状を訴え、その是正のための世論を喚起することにあった。その意味では、今回の勧告はオモニたちの活動の一つの結実だといえる。
 たぶん、彼女たちが現地まで行かなくとも勧告は出ただろう。しかし、オモニたちの現地での活動には大きな意義があったと思っている。彼女たち自身を、そして彼女たちをジュネーブへ送り出した他のオモニや同胞たちを奮い立たせたという意味でも。

 今月31日、「高校無償化制度」の即時適用と補助金復活を求める院内集会が衆議院第二議員会館で行われる(14:30~16:30)。テーマは、国連社会権規約委員会での日本政府報告書の審査結果と今後の課題。
 勧告に法的拘束力はない。過去の事例からいっても、日本政府が今回の勧告を進んで履行する考えがないのは明らかだ。運動側も、出された勧告を現在係争中の裁判をはじめ今後の取り組みにどう活かすか知恵を絞っていくことが求められている。
 たいそうなタイトルがついていますが、文章の内容が伴っていなくてすみません。本当の意味での解説や分析は専門家の方々によって後ほどなされると思います。(相)

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