ギャラリーと図書室の一隅で

読んで、観て、聴いて、書く。游文舎企画委員の日々の雑感や読書ノート。

訃報・佐藤伸夫さん

2021年08月26日 | お知らせ


佐藤伸夫画集『海からのおくりもの』玄文社 2014年刊

窓から見える鯨波の海は日々刻々表情を変える。不自由な体で、いや不自由だからこそ、その変化を佐藤伸夫さんは人一倍鋭敏に感じ取り、表現してきたのではなかっただろうか。移動が制約されればされるほどその視線は、深層をのぞき込むようにひたすら深く潜行する。佐藤伸夫さんの、吸い込まれるような青はそうして生れたのではなかっただろうか。
8月20日、佐藤伸夫さんが71年の生涯を閉じられた。まさに「描くことは生きること」を体現した人だったと思う。



2010年6月 佐藤伸夫展「あおい海」(柏崎市駅前・旧游文舎) 会場入り口にて



同 会場にて



文芸同人誌「北方文学」表紙

「北方文学」の表紙やカットにも、長らく絶妙の作品を提供し続けてこられた。
様々な画材を試み、塗り込んだ色の深さ、豊かさ。一方で実に単純な線や形から何とも味わいのある小品が無数に生れる。変化することを厭わず、決して停滞することなく、さりげなく、けれども鮮やかに既成概念を打ち破っていく。
15歳で療養のため柏崎を離れたけれども、21歳の時に戻って来たと聞く。大好きな柏崎はしかし、2007年7月16日大きな地動に揺さぶられた。その衝撃も癒えぬ間に起きた東日本大震災と原発事故。「地球が産んだ炎人」「原子のごみは空へ海に散らし」(佐藤伸夫「手紙(KK宛て)」より)という憤りの中で描かれたのが冒頭の画集の表紙の作品だ。そんな中でなお深海の声を聴き、「海からのおくりもの」として描き出し、わたしたちに届けてくれたのだ。

謹んでご冥福をお祈り致します。

游文舎企画展野外篇「夏の庭2021」いよいよ最終日

2021年08月15日 | 游文舎企画


十五日間の会期も終に最終日を迎えました。今朝の会場です。小雨ですが日に日に生気を取り戻していく芝生に負けず、作品も十五日間の激越な天候に耐え、存在感を放っています。会期前半は猛暑、九日のパフォーマンスの直後に台風対策としてブルーシートを掛けたり、あらかじめ作品を倒しておくなどして、瞬間最大風速二十五メートルあまりの風を迎え撃ち、後半は雨続きで残念ではありましたが、多くの方に御覧いただくことができました。遅ればせながら九日の即興組の写真を掲載致します。







昨年参加され、今年も参加予定だった本間惠子さんの追悼公演として、急遽決まったものですが、たくさんの方からお集まりいただき、本間さんの作品を思い出しながら、パフォーマンスに見入りました。本間さんの作品を思い出させ、土地の記憶と重ね、時には飛び入りの幼児に向き合って童心に帰り、最後は夕焼け小焼けの演奏に合わせて静かに木の陰に歩いて行く・・・様々な思いを呼び起こし、余韻を残し、即興の力を改めて感じるひとときでした。炎暑の中、演じられた方々、熱心に御覧になられた方々、ありがとうございました。

「夏の庭2021」展、始まる

2021年08月03日 | 游文舎企画
暑さ厳しい折ですが、「夏の庭2021」展が始まりました。作品をご紹介します。
持ち味を生かしつつ、時代を映し出し、それぞれの生き方をにじみ出させ、有機的な空間が生れました。
「危険な暑さ」と言ってもよい日が続いていますが、6過ぎまで開場しています、どうぞ少しでも暑さが和らいだ頃、ぜひお出かけ下さい。




猪爪彦一「夏の扉」 空間を仕切る古い木戸。その向こうにはどんな世界があるのでしょうか?




井上智子「反転の小宇宙」 反転された植木鉢。どうしても裏返してみたくなる・・・。




荻野弘一「内なる川」(右)  どっしりとした石と軽やかな造形。悠久の時間を感じます。

たかはし藤水「そのあと」(左)  ものは何も置いてありません。「痕跡」だけです。心に残る「あと」です。




佐藤郷子「風のゆくえ」 儚そうでありながら、強靱な飛翔の力が伝わってきます。




霜田文子「川の記憶」  歴史が堆積した地図をイメージした作品は、幾たびも変遷した川の記憶と重なります。




杉崎那朗「運動の出現」「太陽に向く人」「聳える人」 鉄板を折り曲げ溶接するという手法による、野外展にまさにふさわしい力強い作品です。




関根哲男「草上のアーティスティックスイミング」 一糸乱れぬ美技?赤ふんのスイマーの大胆な足技が草上で躍動します。




田端優子「風の夢」  遙かな夢を追い続ける視線は、同時に周囲の空気を一身に集めています。




茅原登喜子「このこのためにならすはな」  子供の人気№1.身近なものでこんなことができるなんて。




深澤三枝子「嚇(かく)」 からすなぜなくの? 人間への鋭い警鐘です。




そして初日夕方丹羽洋子さんのコンテンポラリーダンスも行なわれました。様々な動き、練られた構成。観る人それぞれの心に小さなモノガタリが生れます。7日午後5時半から最上演します。ぜひご高覧下さい。