「川の神さまがひゅんひゅん鳴いて、村々の小さな谷という谷を伝って川に下んなはるという「夜さり」の雰囲気はひどく神秘的だった。わたしは年寄りたちの話に息をひそめ、幼い畏怖をあらわして小鳴り聞いていた。」
「「川の神さまは、どげんひと?」「うん」「こまんかひと?ふとかひと?」「うーん、こもうもならす、ふとうもならす」「河童な?」「しーっ」「山童な?」老婆たちは口に指を立てて首を振る。「神さんな、見ちゃあならんと」」
「「山に成るものは、山のあのひとたちのもんじゃけん、もらいにいたても、慾々とこさぎ取ってしもうてはならん。カラス女の、兎女の、狐女のちゅうひとたちのもんじゃるけん、ひかえて、もろうて來」 おもかさまがささやくように、いつもそういう。まだ人界に交わらぬ世界の方に、より多くわたしは棲んでいた。」
(以上『椿の海の記』第一章「岬」より)
7月22日、23日、俳優井上弘久氏の独演(カリンバ弾き語り)『椿の海の記』が上演されます。『椿の海の記』は、水俣病患者の心の声を丹念に描いた『苦海浄土』で知られる石牟礼道子が、4歳の自分・みっちんを主人公にした自伝的小説です。盲目で神経殿(しんけいどん)=精神を病んだおもかさま(祖母)に寄り添うみっちん。神や動植物、人間を一続きに見るみっちんの視点から語られる不知火の海、家族、水俣の人々。自身の原点を描いた名作です。
井上氏は1952年東京生まれ、1979年より劇団転形劇場に所属、国内外で舞台を踏んだ後、1990年より劇団U・フィールドを主宰、構成・演出も務め、同劇団解散後、2013年より文学作品を一人で舞台化する「朗読演劇」をしています。
『椿の海の記』は2018年より上演開始、3年をかけて全11章の連続公演を果たし、現在全国行脚公演中、新潟県では初めての上演となります。
7月22日(土) 午後3時開場、3時30分開演
7月23日(日) 午後1時開場、1時30分開演
観覧料2000円
駐車場あり
定員各回30名 お早めにご予約ください。(チケットはありません。ご予約の上、当日受付にて観覧料をお支払い下さい)
お問合せ、お申込み 0257-32-1238