会場に来られた方々がまず驚くのは「色の美しさ」。瑞々しく、豊かで、鮮烈な色彩は、思い切りのよい筆致や色の選択によりますが、とろりとした、油彩ならではの輝きにもよるのでしょう。絵の具と油と筆に心身を委ねるように、目的を持たずに始められた画面は、時には何かを連想させもしますが、それもあえて拒絶せず、それが純粋な抽象画ともどこか違うところではないでしょうか。そしてそれがまさに生成途上を思わせるゆえんでもあります。
思いのままに描き、激しく絵の具や筆をぶつけるように描くことがあっても、観る人を捉えるのは、心の奥底に蠢いている、あるいはふっと沸き起こってくる、どこか懐かしい記憶にふれあうところがあるのだと思います。
さらにそんな心の動きを瞬時にとどめたような作品群が、紙に鉛筆や油彩、水彩などを使った作品です。伸びやかでいて、繊細、油彩画との絶妙なバランスをお楽しみください。