頭の中は魑魅魍魎

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『学問』山田詠美

2009-10-04 | books

「学問」山田詠美 新潮社 2009年

食わず嫌いであった、山田詠美。なぜ食おうとしなかったのか今となっては分からない。山田詠美=日焼けした林真理子かと思っていたが・・・・・・

田舎に越してきた、仁美(後にフトミとあだ名される) 友達となった心太(テンちゃん)千穂(チーホ)無量(ムリョ)たちと繰り広げる、由緒正しいニッポンのコドモの世界。

いやいやいやいや。これはまいった。寝食を忘れて読み耽ってしまった。成長しながら色んな事を学ぶ主人公たち。笑えるエピソードも多いし、考えさせられるエピソードも多い。性に関わることがメインテーマの一つではある。そこを中心に読むと、<青春&エロティックな妄想>小説となるのだろう。私はテンちゃんの言動から<こうあるべき人の姿>のようなものを読み取るのをメインにした。

テンちゃんの言動は本当にいい。仁美の通う英語の塾に顔を出したとき、この塾に誘おうとする子に「テンちゃんちはお金ないから誘ってちゃ悪いよ」と言っているのが聞こえると、

「おれ、金以外だったら、いっぱい持ってるんだけどさあ、それじゃいかんら?」


とテンちゃんは言う。おお、なんていい台詞なんだ。私自身、子供時代ひどく貧しかったので、こういう台詞は身に染みる。

小説全体の構成も巧い。4人組が大人になる以前をたっぷり描き、それ以降大人になってからに関しては直接描かずに、彼らがどんな死に方をしたか週刊誌のコラム風に各章の冒頭に一人ずつ短く第三者風な描写があるだけ。冒頭、仁美の死に方が出てくる(冒頭だからネタバレではあるまい)
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20080807_1.html より引用する。


元、高校教諭の香坂仁美(こうさか・ひとみ)さんが2月14日、心筋梗塞のため死去した。享年68。
 1962年、東京生まれ。七歳の時に父親の転勤に伴い、静岡県美流間市(現、みるま市)に移り住んだ。美流間文科大学卒業後、美流間学院高校で教鞭を執り、定年まで勤め上げた。退職後は、自宅に、私塾香坂スクールを開き、その経営に尽力した。美流間の子供たちの教育に心を砕き、そして、まっとうした一生であった。美流間の風物を描いた随想集も出版している。
 喪主は、香坂スクールの講師で、同居人でもあった山本拓郎さん(35)。葬儀告別式の挨拶では、隣で気持良さそうに眠っていると思ったら死んじゃってた、と号泣し、参列者の涙を誘っていた。山本さんは、かつて、香坂さんの教え子でもあった。

週刊文潮三月一日号
「無名蓋棺録」より



この山本拓郎って一体誰だ?と思いながらその謎は一向に解けない。それがラストで分かると色んなモノが込み上げて来た。「学問」というタイトルも実にいい。山田詠美はチャラチャラした姉ちゃんだと思っていたら違った。勿論林真理子とも違う。どちらも女性読者が多いのではなかろうか。しかし女性に独占させてはいけない。立ち飲み屋に女性が侵食して来たら、詠美には俺たちが侵攻してゆくのだ。







学問
山田 詠美
新潮社

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