頭の中は魑魅魍魎

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『天国旅行』三浦しをん

2010-04-25 | books

「天国旅行」三浦しをん 新潮社 2010年(初出小説新潮2008年6月~2009年8月)

心中を共通のテーマとした短編集である。

<森の奥>富士の樹海で死のうと思う男が出会った人は・・・
<遺言>妻との出会いから最後までを夫の視線から描く、妻へのメッセージとは・・・
<初盆の客>ばあちゃんが死んだ。初盆にばあちゃんがじいちゃんと知り合う前に生んだ子の子(=孫)であるという男性が現れる。彼が語るおばあちゃんとは・・・
<君は夜>中学生だった私は夢見がち。なぜか夢の中では私はお吉で小平さんと恋仲。全てが時代がかっている。段々と夢を見なくなった私は現実で夢と同じような報われないよな恋をして・・・
<炎>女子高生の私の憧れの先輩が焼身自殺をする。その真相とは・・・
<星くずドライブ>(たぶん筑波大学)で彼女と半同棲な大学生の僕。でもどうやら彼女は死んでしまったらしい。幽霊が見える僕は・・・
<SINK>一家心中の生き残りの私。放っておいて欲しい。孤独に生きようとしているのに地元の友達がおせっかいを焼いて・・・

いやいやいや。これはいい。面白いし読ませるし。三浦しをんはどうしてこんなに人の心の裏側を知り尽くしているのだろうか。一文一文が立ち上がってくる。知り合いのMちゃんは3編ぐらい読んで面白くないと言っていたけど、むしろ彼女好みじゃないかと思って再度読むように薦めた。彼女いわくは細切れにちょっとずつ読んだからかもとのこと。短編をさらに細切れにしたら短冊になってしまふ。再読したら、特に4本目以降から凄く面白くなったと言っていた。

私は短編は基本的には好まない。村上春樹の長篇は面白いなと思うけど、短編はやや苦手。なのでちょっとしか読んでいない。ジェフリー・アーチャーとジェフリー・ディーヴァーのジェフリー兄弟は短編が千切れるほど面白いので、短長イケる人もいる。他に夢野久作や逢坂剛など両刀面白い人も数多くいるけど、長篇作家は長篇が面白くてナンボだし、そもそも私は長篇小説が好きなので、読むのもそちら中心になる。中学生の頃星新一、筒井康隆に耽溺していたこともあったのに、諸行無常也。

本作「天国旅行」はビックリするほど気に入った。特に、女子高生が江戸時代(のような時代)に自分がいる夢を見るという描写が実に巧い「君は夜」と頭が良く性格も良い先輩がなぜ死んだかその謎が解かれるプロセスにぞくぞくする「炎」は絶品だ。

腐女子の中の腐女子、三浦しをんがまさかこんなにバケルとは、長生きはするものだ。








天国旅行
三浦 しをん
新潮社

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2 コメント

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読んでみたいです (こなつ)
2010-09-05 23:41:42
三浦しをんさんは神去りなあなあが良かったんですよ。
それしか読んでなかったので次はこの本を読みたいです。
錦繍はとても良かったです。
手紙のやりとりがお話になっていて、元夫婦の思いもかけないあの頃の心情を綴っていて、往復書簡でようやくわかりあえて、救済される。その過程が見事でした。
今はジョン・ハート川は静かに流れるを読んでます。
図書館に置いてなくてアマゾンに注文しました。
もう4分の3は読みました。先が気になります。
暑くて起きだしてPC開いて、ふるちんさんの日記を読み返してます。

なので、ついコメント書いてしまいますが、流してもらっていいです。

こんにちは (ふる)
2010-09-06 13:46:07
★こなつさん、

三浦しをんはエッセイを読まれると小説との落差に愕然とします。
なんというか、あのような人がこんな小説書けるのかと(失礼)
「錦繍」良さそうですね。ジョン・ハートはシブいです。

>なので、ついコメント書いてしまいますが、流してもらっていいです。

私の方はてきとーに短いコメントレスをつけたり長かったりと
てきとーな対応をさせていただいております。てきとーな人間なものですから、
そんな形で失礼させて頂いております。
私のコメントレスこそ、ぜひ流しちゃって下さいませ。

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