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親になるってどういうことやねん『朝が来る』辻村深月

2015-07-14 | books
子供が欲しいのにできない夫婦はもうすぐ40歳。特別養子縁組を希望した。特別養子縁組とは、普通養子のような実の親と養親との契約関係のようなものは違っていて、子供の実の親との親子関係を裁判所が消滅させ、養父母の子の関係を確立させるもの。

特別養子として朝斗を我が子として育てることになった佐都子と清和の夫婦。武蔵小杉の高層マンションで幸福に暮らして6年。突然現れた女は、「私の子を返してください」と言う。その女が本当の母親には見えなかった。朝斗に会う時に、生みの母親に会っているのに、その人とは別人のようだったから。ではこの女は誰なのか…

最初は、正直言ってうんざりするような話なのかと思った。子供を欲しい親の苦悩、はある程度想像できるのでそれ以上のものでないと面白くない。特別養子縁組には詳しくないのでその話が出て来たら急に面白くなってきた。しかし、この小説がただものではないのは、伊都子サイドからの第一章「平穏と不穏」と第二章「長いトンネル」が終わった後、やって来た不審な女から描いた第三章「発表会の帰り道」が、ものすごく読ませるからなのだ。

ネタバレを避けて詳しいことは何も書かないけれど、伊都子の抱える苦悩とこの女の抱える苦悩の交差。うーむ。うーむ。

「まず、よく説明会にいらっしゃるご夫婦に聞くと、こう仰る方がいるんですよね。『”普通”の子がほしい』と。ですが、よく考えてください。”普通”の子は、”普通”の家にいるんです。うちの団体を頼ってくるということは、何か事情があるということです。養親になる際には、実親さんの妊娠経過は家庭環境にどんな事情があっても問わない、という覚悟をしていただくよう、お願いしています」

「お母さんたちが、どんな気持ちでいたと思うの!」
そう言われても、ひかりには答えられない。答えないひかりを、母が睨みつける。
この人は - と思う。
この人は、ひかりのために何かを言っている、わけではない。
ただ、気持ちを落ち着けるために、自分を頷かせたいだけなのだ。

私のような下賤な者にも優しくしてくれる人がいて、その人はゲイなのだ。その人に優るとも劣らないパートナーがいて、その二人は何人も養子として迎え入れ、育てている。その二人を見ていると、男性と女性の遺伝子を持ったカップルじゃないと親になれないというのはおかしいような気がしてくる。この二人が親だったら、私ももう少しまともな人間になれたような。

なんてことを思ったり。たぶん読む人それぞれが様々なことを連想する、間口の広い作品。テーマがすごく重たいのに爽快。面白いんだけどそれだけじゃない、とても良い作品だった。

みんなが親になるわけじゃない。でもみんな誰かの子供なんだ。

朝が来る

今日の一曲

養子を歌う美しい曲。Steven Curtis Chapmanで"When Love Takes You In"



では、また。
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