頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『ソロモンの偽証 第II部 決意』宮部みゆき

2012-10-10 | books
「ソロモンの偽証 第II部 決意」宮部みゆき 新潮社 2012年(初出小説新潮2006年8月号~2009年8月号)

第I部の続編。Previously on ER(前回のドラマERでは)みたいな第I部の紹介は全くないので、第I部を読まないと意味不明。今回は(前回の主役、刑事の娘の)藤野涼子が、不良の大出俊次の裁判を行おうとする。学校で。学校で裁判?そう、柏木卓也殺害の容疑で。まずは、弁護人、検事、陪審員の選定から…

およ?あまり面白くない展開が延々と続く。しかし、我慢して読んでいたら、161頁になって光が射してきた。それは、前回大きな批判にさらされて辞任した森内先生が、郵便受け事件について調査事務所に頼んだ真相について知るところ(第I部を読んだ人なら何のことかお分かりのはず) そして、この郵便事件から突然面白くなるのもまた第I部と全く同じ。なるほど。

ほーらほーら、我慢していれば、すぐに痛くなくなる。苦痛はいつか快感へ。読書とはアレと同じなんだね。(アレってなんやねん)

話を本書に戻すと、一見、おこちゃまによる、フワフワしたこども裁判ノベルのように見えるけれど、実は巧妙にできた警察小説なのだ。

結局一冊まるごとかかって、裁判に至る弁護側・検察側それぞれの調査が丹念に描かれる。それが中学生によるものだと考えると、おままごとに見えてしまうのだけれど、じっくり読めば、大人のしかもプロによる調査と変わらないことが分かる。警察小説も、探偵が謎を解くミステリーでも、犯人が誰だか分かるだけでなく、それ以外の味があるはずだけれど、本書は、事件の真相が明らかになるにつれて分かる、人間の闇の深さや、真の強さ、あるいは正義とは何かという哲学的な問いに対する解答など、醸し出す味は複雑だ。特に、「嘘」とは何なのか。深く考え込まされる。人間を煮込んで、人間をダシするとこんな複雑な味になるのかも知れない。

同じ事件について、湊かなえ氏のような作家が書くと、もしかするともっとずっとコンパクトにまとめられてしかも高校生やあまり小説を読まないタイプの人には受ける、キラキラした作品になるのかも知れない。しかし少なくとも私はそんな作品をあまり読みたいと思わない。宮部みゆきが只者ではないのは、決してフワフワと物語を浮遊させず、強いリアリティとリーダビリティを以て、この重厚長大な話を読ませるからだ。

宮部みゆき、すごいよ。

では、また。


ソロモンの偽証 第II部 決意
コメント (10)    この記事についてブログを書く
« 『光圀伝』冲方丁 | トップ | 『ものがたり宗教史』浅野典夫 »

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (midori)
2012-10-10 20:42:41
こんばんは。
へへっ‥、『赤めだか』でした!!

そうなんですねぇ、光圀さん諸国漫遊をされてたのですね。昔の旅はきっと丈夫な足が何より必要だったんでしょうね!‥え‥?光圀さんは駕籠?(漢字あってるかな?)田舎育ちの私は足腰には少々自信ありですがっ‥関係ないですね^^ごめんなさい。

宮部みゆきさん‥時代物意外も、もっともっと読んでみようと思いました!!
『昭和水滸伝』是非読みたいです!あんまり痛くないですか?先日、井上ひさしさんの江戸小説集『京伝店の烟草入れ』という、なんとも面白そうな本も注文したんですがっ‥どんどん読まなければならないこの追い込まれた感じ‥、嬉しくって幸せです♪♪

返信する
こんにちは (ふる)
2012-10-12 13:15:50
★miroriさん、

>そうなんですねぇ、光圀さん諸国漫遊をされてたのですね。

とのことですが、

>水戸藩の藩主光圀が諸国を漫遊したというのは、フィクションだそうですね。

と別の記事のコメント欄に書いたように、水戸光圀は諸国の漫遊をしていません。諸国の漫遊をしたという物語が後になって作られたようです。

>あんまり痛くないですか?

とのことですが、痛いというのが何を意味しているのか、私には分かりませんでした。すみません。
返信する
Unknown (midori)
2012-10-12 15:52:18
こんにちは。
な、なんと、誠に申し訳ございません。私、勝手にフィクションに『ノン』を付けて読んでおりました… 子供の頃から勝手に読み間違い、日常茶飯事です。反省‥

痛くないですか?というのは、主語がなくてはわかりませんよね、ごめんなさい。ちょっと調べましたら任侠っぽい作品のようでしたので、もしや、物凄くそれはそれはとてつもなく酷すぎる読者もメチャメチャ痛いーって顔が歪んでしまうような殺人や暴力シーンが沢山あるのでしょうか?とお聞きしたかったんですぅ…うぅ…すみません!!

『時の娘』人名を覚える事に少し苦しみながらも、とても面白く読み終える事が出来ました!!宮部みゆきさん、『ソロモンの偽証』の前に、古書店・おじいちゃん・孫という設定に惹かれて『淋しい狩人』を購入しました。ホントは長編が好きなので、次はソロモンに挑戦したいと思います。

では、失礼します。
返信する
こんにちは (ふる)
2012-10-14 14:47:57
★midoriさん、

「昭和水滸伝」は、正義が悪をやっつける痛快な物語です。
「仁義なき戦い」のような作品とは違うように思います。
しかし、ブルース・リーの映画が「痛い」作品と感じられる人には、痛いのかも知れません。

「淋しい狩人」は読んだような気がするのですが、内容を全く覚えておりません。
「時の娘」楽しんでいただけてなによりです。
返信する
Unknown (midori)
2012-10-14 19:38:33
こんばんは。
ブルー・スリーはちょっと苦手ですが、しかし‥、友達がアイドルの切り抜きを下敷きに挟んでいた頃、私だけ『酔拳』等を観て夢中になりジャッキー・チェンの切り抜きを挟むくらい大好きでした。そして、正義が悪を退治ッ!の痛快小説はとても好きなので『昭和水滸伝』も是非読ませて頂きたいと思います!!
ありがとうございました。
返信する
こんにちは (ふる)
2012-10-16 14:09:09
★midoriさん、

どういたしまして。
「昭和水滸伝」の作者、藤原審爾の「新宿警察」が、「この警察小説がすごい!ALL THE BEST」でトップ10に入っていました。未読ですが。
返信する
Unknown (midori)
2012-10-17 07:40:44
おはようございます。
トップ10‥ふるさん、藤原審爾さん、凄い作家さんなのですね。『昭和水滸伝』一昨日、本屋さんに立ち寄り注文しました!それから、以前ブログでご紹介されてた司馬遼太郎さんの『夏草の賦』を購入して今読んでます。私にとって初の司馬遼太郎さん作品‥凄く難しい文章のイメージだったのですが、とても読みやすくてビックリです。また色々読んでみたいです!宮部みゆきさん、『淋しい狩人』人情味溢れる素敵な主人公達に、少しドキドキハラハラ‥時に涙し、大部分ほっこりさせてもらいながら楽しく読み終えました。いよいよ次は『ソロモンの偽証』をッ!!
さて、今日は午後に『赤めだか』『ま・く・ら』が届きます。幸せな読書三昧の秋‥満喫中です!
ふるさん、いつも長々とすみません。
ありがとうございました。

返信する
こんにちは (ふる)
2012-10-18 14:05:18
★midoriさん、

読書の秋を満喫されているそうでなによりです。
今年は秋が少なめで、夏から急に冬のように寒くなったりしてますが。
司馬遼太郎作品がまだ一冊とは少しうらやましいです。
これからまだまだたくさん楽しめるのですから。
返信する
Unknown (midori)
2012-10-19 09:30:00
こんにちは。
司馬遼太郎さん、何度も読みたいと思いながらも今まで読まずにきてしまいました。今回、ふるさんのブログを見させて頂いてから、初めて手に取り読み初めて本当に良かったです!!ありがとうございました。

『夏草の賦』を読んでいて驚き「えぇっ‥知らんかった‥そうなんや‥」と思わず呟いてしまったのが、長曽我部元親の先祖が『秦の始皇帝』だという文章でした!! ビックリです‥。しかし、ホントはすでに日本史等で習っていて常識的な事柄なのに、私がちゃんと勉強していなかっただけなのでしょうか…。有り得ます‥92ページ『わずか5歳のあの子を戦場に…』の戦場を『銭湯』と読んでしまうような私なのですから‥

それにしても、朝晩本当に寒くなりましたね。ふるさん風邪ひかないように気をつけて下さいね!
では、失礼します。

返信する
こんにちは (ふる)
2012-10-20 13:50:27
★midoriさん、

私も日本史には疎いです。
秦氏など遠い昔に、朝鮮からやって来た優秀な技術者がたくさんいたそうですね。
返信する

コメントを投稿