頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『蛇行する月』桜木紫乃

2013-11-16 | books
釧路の高校を卒業した仲の良かった女性たちと周囲のその後を描く連作短編集。

・ホテルの仕事に嫌気がさした清美の1984年
・フェリーの乗務員桃子が、東京へ駆け落ちした順子に会いに行った1990年
・和菓子屋の一人娘として育ち婿を得た。真面目だったはずの夫は、若い店員順子を妊娠させ二人で東京に逃げた。夫がいなくなった後の店を切り盛りしてきた弥生の1993年
・高校時代順子が告白したのにそれには応えなかった現国教師谷川と、35歳になってやっと結婚できるようになった美菜恵の2000年
・パートをしながら一人で苦しい暮らしをする順子の母、静江の2005年
・ずっと独身を通している看護師直子の2009年

主役にはならないにもかかわらず、順子の存在が大きい。和菓子屋と不倫関係になり、子供が出来て東京に駆け落ちする。夫は食堂をはじめるが生活はかなり厳しい。化粧もせず服装もみすぼらしい。そんな順子なのに、同級生から見るとまぶしく見える。その、彼女らの気持ち。痛々しいほどに胸に突き刺さる。それだけはなく、ラストの順子の言動。熱くなった。そしてせつないせつない。

気に入った言葉や気になった言葉は、

女同士の集まりは楽しくて、自分だけは不幸じゃないと思う「根拠のない自信」であふれていた。

谷川先生だなぁって、なんかわかるような気がする。いるよ、常に答えを出さない男って。ぜんぶ女に丸投げ。でも、結婚するならそういう男のほうがいいと思うけどな。長続きという点では、いちいち手応えのない男がいちばんなんだ。

結婚するなら答えを出さない男がいい。そうでないと思っていたこともあったけれど、もしかするとそうなのかも知れない。また、答えを出さない男と答えを知らない男は似ているけれど違う。

そんなこと言われたって、と思う。そんなこと言われたって、何度失敗したって、学べないものは学べない。男だって、どうして出会ったときと別れるときであんなに人間が変わってしまうのか、今だってよくわからない。

自分の役回りを理解していると、そうそう大きな間違いをしなくて済むんですよ。

女性を描くのには、連作短編で関係のある異なる人物を使っていくのが実はベストなのではないかという気がしてきた。そしてそんなやり方で女心を描く、桜木紫乃は達人の域に達している。

今日の一曲

PVが発表されたばかり。椎名林檎で「熱愛発覚中」



では、また。

LINK
コメント (2)    この記事についてブログを書く
« 『遺産 The Legacy』笹本稜平 | トップ | 『祈りの幕が下りる時』東野圭吾 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
せつない (パール)
2014-02-15 22:28:41
桜木作品を読むと、そのあと、登場人物の幸せを祈ります。輝君がどうぞしあわせでありますように…

>自分だけは不幸じゃないと思う「根拠のない自信」
それはまだ、若いから…

女性の“いき方”が『多様化』して、どの選択肢を選んでも、少しだけ後悔して、誰かと比べることで「自分だけじゃないんだ」「私の方がまし」と少し安心だけ安心している世代に、順子という天使が舞い降りたのではないか…と思いました。
作品の中の男たちは、存在感が薄いけれど、薄い方というのは、女の“いき方”を邪魔しない分、ましなのかもしれません。
こんにち (ふる)
2014-02-17 14:55:03
>パールさん、

他人と比べることで感じる「相対的」な幸福と不幸があり、誰とも比較せずに感じる「絶対的」な幸福と不幸があるのかも知れませんね。どちらが正しいとか、エライということでもなく。

相対的にしか感じることができないとツマラナイ人間になってしまうような気がしますし、絶対的にしか感じられない人は付き合いにくいような気もします。

コメントを投稿