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『君たちはどう生きるか』吉野源三郎、こんな名著を読んでなかったとは

2008-03-15 | books

「君たちはどう生きるか」吉野源三郎 岩波文庫 1982(原著 新潮社 1937)

どうやらこの本を読んだ、読まされた人は多いらしい。読書感想文でも書かされたのだろうか。しかし、俺はつい最近までこの本の存在を知らなかった。こんなすごい本を知らなかった自分に驚いた。

1937年に山本有三が編纂した「日本少国民文庫」の中で配本された。戦前に出された少年向けの読み物なのだ。しかし、解説の丸山真男の文章を読むと、丸山は勿論、鶴見俊輔もこの本に薫陶を受けたことが分かる。

大方の人にとっては、釈迦に説法。言わずもがなかも知れないが、「君たちはどう生きるか」では:中学校1年生のコペル君が学校で起こる出来事、日常で疑問に思ったこと。そしてそれに答えるおじさんの手紙で構成されている。

コペル君が学んだことには、人間とは単体で成立しているのではなく、網目のように他者と関わりを持って生きていること(網目=ウェブだとすれば、WWW=ワールド・ワイド・ウェブも同じ文脈で解釈することが出来る。戦前の考えが今でも通用するという好例)人間の値打ちは着てる服や住んでいる家で決まるのではないということ。子供は何も生み出すことをせずただ消費するだけ。しかし、大人でも他人の役に立つ物事を生み出していない者は数多くいる(現代の消費社会への痛烈な批判と受け取れる)人間はなぜ心の痛みを感じるのか。自分中心(=天動説)から世界中心の世界観(=地動説)を持つことの重要性(天動説、地動説から持ってくるあたり、うまい)子供は自分が中心で物をとらえるのは当然だが、大人になってもそれから逃れられない者がいる(完全に現代でも通用する話)

こんな風に、コペル君の眼を通して、おじさんの眼を通して、自分という人間のとらえ方、世界の見方を教えてくれる。

こんな名著に出会うのが遅すぎたのだろうか?
ガキの頃に出会っていれば、その後の人生が変わっただろうか?(これはイエス)

しかし、何に触れるにしても、遅すぎるなんてことはない。この歳になっても、「おー!」と思える心を自分が持っていることに、むしろ安心した。

また、この「君たちはどう生きるか」の中に出てくる様々な考え方は、俺が長年かかって作った哲学、あるいは考え方の枠組み(パースペクティブ、パラダイム)のようなモノと一致する部分が多い。長年かかってやっと身につけたモノなのだから、この本ともっと早く出会っていれば、その考えを踏まえて、後の人生の中で次のステージに進めたのでは、と思うと、出会うのが遅すぎた、とも言える。

しかし、まあ女性に対する口説き文句じゃあるまいし、「君ともっと早く出会いたかった」などと言っても、何も始まらない。何も生み出さない。



君たちはどう生きるか (岩波文庫)
吉野 源三郎
岩波書店

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小学生や中学生のお子さんに薦められる「もしかすると我が子が読んだら、それまでのばかちんから別人に生まれ変わっちゃうかも知れない」本であり、大人には「ただなんとなく生きてきて、俺/あたし、こんなんでいいのかな?的疑問を吹っ飛ばしてくれる可能性が高い」本である。







今日の教訓





タマゴさん、
黄身たちは
どう生きるか?
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6 コメント

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ネコに小判? (あお空)
2008-03-15 15:11:43
煮るなり焼くなり好きにしてください。

タマゴより。

それはそうと、これは昔々に読みました。
たぶん中学か高校の時くらい。たぶん読
まされたたぐいだったと思いますが。

でも、きっと大人になったからこそ理解
できるということもあるんでしょうね。
わたしはその当時、感銘を受け、かつ、そ
の後の行動に落とし込めたのかどうか、
ちーっとも憶えてません。
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どうもです (ふる)
2008-03-18 11:47:38
★あお空さん、

「読まされた」生き証人がここにおられましたね(笑)
大人になってから、あるいは大人にならないと分からないことって結構多いですよね。
白身魚の寿司の旨さとか?(やや方向性が違うような)
私も感銘を受けたのに、後の人生に何の影響も及ぼしていない本がたくさんあるはずです。
阿佐田哲也の麻雀放浪記とか?(かなり違うような)
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確かに! (自信はあっても、最終的に出来ない若者)
2012-03-27 18:56:25
自分もこんな本読んでも変わらないよ。と思っていたけど、読んだらめっちゃ感動した!

タイトルが重いと思っていたけど、内容も重かった…しかしとても考えさせられる物があった。

これからの人生が変わる本だった。
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こんにちは (ふる)
2012-03-29 11:34:59
★自信はあっても、最終的に出来ない若者さん、

おっしゃる通り、良い本でしたね。

真の名著は、70年の時を超えても何ら、味が希薄になることはないのですね。
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Unknown (サブロー)
2012-10-03 23:41:09
小学6年生の時に、学校の図書館でこの本と出合いました。残念ながらはじめの数ページを読んで挫折しています。
覚えてる事といったら、手ぬぐいを半分にちぎってハンカチ代わりに使ってる少年の描写部分だけ・・^^;
もし読了していたら、も少しまともな人間になっていたでしょうか?多分、私は変わってないと思います(笑) 実に、50年近い歳月が経ち、ふとこの本のタイトルを思い出し、ネット検索した次第です。 今度、探して読了してみようと思います。 やはり良い本だったんですね。 タイトルだけでも覚えておいて良かったかな
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こんにちは (ふる)
2012-10-04 13:32:26
★サブローさん、

>やはり良い本だったんですね。 

私のような者が良い本であると思っても他の人にとっては塵でしかないこともまたよくあるやに思います。

>もし読了していたら、も少しまともな人間になっていたでしょうか?多分、私は変わってないと思います(笑)

三つ子の魂、と言いますが、生まれつき持った人格(あるいは他の事)は決して変わらない、と仮定すれば後天的に学んだ何かが自分を変えることはない、と言えるのでしょう。
しかし、だとすれば学ぶことで自分を変えることはできないということになりますが、何かを読んだり聞いたりして自分を変えることは、可能だと私は考えます。
本の中に自分を変える何かが存在するのではなく、その本を読んで刺戟を受けそして変わるものが自分の中に存在するのではないでしょうか。えらそーな物言い失礼致しました。
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