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『ガソリン生活』伊坂幸太郎

2013-04-04 | books
運転手は望月良夫、20歳、大学生。助手席には弟、望月亨、10歳。ボクは緑のデミオ。二人を乗せて走る。乗せてくれと言うから乗せてあげたキレイな女性は、元女優さんでとても有名な人だった。マスメディアがまだ追いかけてくるんだって。その後すぐにその女性は亡くなってしまったんだ。車がトンネルで大破して。まるでダイアナ妃みたいだ。ところで、妙に大人びている亨はお姉ちゃんのことを心配している。姉ちゃんは悪い男とつきあっているみたいだ。それにどうやら亨はいじめにあっているみたい。色々大変だ。お姉ちゃんのトラブル、亨のいじめ、元女優の死、様々な出来事が絡み合ってゆくと…頑張れ亨、ボク緑のデミオが応援するぞ…

相変わらずの伊坂ワールド。それに車が自ら考え、他の車と会話するというまさかの設定が加わるだが、意外なほどこれに違和感がない。

しかし、その設定にエキセントリックさを持って行かれてしまったのか、伊坂独自のストーリーののエキセントリックさが若干減免してしまった気がしなくもない。

とは言っても、きらきら光る言葉があちこちにあることには変わりない。

「クラクションが大きな音で鳴らされるのは、その音により、何かを知らせるためではなく、運転手の怒りや苛立ちを表明するためなのだよ」(48頁より引用)


確かに。運転中にクラクションを鳴らされると、拡声器を手にして、ごらぁわしにけんかうっとんのかぁ!と叫びたくなるが、車に拡声器を積んでいないので叫べない。

「一部の科学者は、『宇宙を構成する基礎単位は水素だ』と主張するが、それには賛成できない、とな。『水素はあちこちに存在しているから、というなら、水素より数多く転がっているのは愚かさだ。愚かさが、宇宙の基礎単位だ』とフランク・ザッパは言った」(50頁より引用)


うまい。負けずに、言い換えてみる。水素より数多く転がっているのは、うっかりとちゃっかりとがっかりだ。うっかりとちゃかりとがっかりが、宇宙の基礎単位だ。

あのね。人間のやることの九十九パーセントは失敗なんだってさ。だから、失敗するのは普通の状態なんだ。フラック・ザッパが言うには、失敗するのを死ぬほど恐れているのは、自分を最高に恰好いいと思っている自惚れた人間なんだって。(384頁より引用)


確かに。負けずに、言い換えてみる。あのね。人間のやることの九十九パーセントはひまつぶしなんだってさ。だから、ひまをつぶしているのは普通の状態なんだ。フラック・ザッパが言うには、ひまつぶししていると認めるのを死ぬほど恐れているのは、自分を最高に忙しいと思っている自惚れた人間なんだって。

では、また。

「ガソリン生活」伊坂幸太郎 朝日新聞社 2013年(初出朝日新聞2011年11月2日~2012年12月10日)

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