「プリンセス・トヨトミ」万城目学 文藝春秋社(初出別冊文藝春秋2008年1月号~2009年1月号)
あの、万城目学「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」に続く関西三部作のラストはタイトルからして不可思議。鹿男は奈良、ホルモーが京都で今回は大阪。さてさてどうなることやら。
そもそもプリンセス・トヨトミって何だ?最初は豊臣秀吉(?)の娘が時空と越えて現代にやって来る話かと思った。表紙を見ると、妙に背の高いスーツを着た女性が大阪城を見上げている。こののっぽスーツ女か?読みはじるとすぐに中学生の男の子が女の子になりたいと心の底から願うのだが、この彼女(?)がそうなのか?予想は全て外れた。
ぬぬぬぬぬー なんじゃこりゃ? ← 読んでいる途中思わず漏らした感想
冒頭に5月の末に大阪はその機能を全て失った。その10日前にはこんなことがあったとある。どうして大阪停止になるのか、読んでいてもなかなかそれが分からない。そのもどかしさがなかなか心地よい。会計検査院の職員が3名で東京から大阪へ出張に行く。その3名のキャラがまた上手いというか笑えるというか。異常なほどアイス好きの上司松平、旭・○○○○ー○という名前の女性、ちびデブの鳥居。謎の社団法人OJOとは何か?それが分かるのは201頁。ずっこけた。
「鹿男あをによし」のトンデモ本的世界観に近いものを感じる。タイトルからして「鴨川ホルモー」のホルモーってなんやねん。鹿男って誰やねん。プリンセス・トヨトミってなんやねん、というタイトルからして怪しく蠢く感じは変わらない。あの「なんでこんな話思いつくねん?」という世界観が受け入れられる人には「めっちゃおもろかったねん!」という作品だ。私も「おもろかったなー」と誰かと話したい派だ。
空掘商店街の描写が上手い。猥雑な造り、目の前に大阪が見えるようだ。人の描き方も含めて、いわば、あったかい。をたまに通り越して暑苦しい大阪を体感しているようだ。大阪って暑苦しいよね?色んな意味で。
大阪の男性人口420万の半分の200万人が○○○の○○を守っている・・・大阪城の秘密、江戸幕府、明治政府の成立、明治天皇、東京に聳え立つ誰もが知っているあの建物・・・まさかと思いつつ、妙にそのトンデモ歴史が説得力を持っているのが怖い&面白い。「鹿男」と同じである。
「大輔は黙って、スカートの裾をいじっている。いざスカートをはいてはじめて、女子がこの仕草をするときの気持ちがわかった。スカートのひだには、人の心に逃避を誘いかける魔力がある」(59頁より引用)
「視界のずいぶん下側から吹いてきた先輩風を、旭は謙虚な笑顔で受け止めた」(98頁より引用)
「視界のずいぶん下側から吹いてきた先輩風を、旭は謙虚な笑顔で受け止めた」(98頁より引用)
さて、
これが世紀の大傑作だとは言わない。終盤の畳み掛けが若干強引との印象を持った。女が男を・・・という終わらせ方は悪くないし爽やかで良かったけれど。これは想像でしかないが、万城目学が映像化を強く意識したつくりにしたのが、文章で読むと強引に感じさせた可能性はある。映像化不可能と思っていた(いや映像化しようと思う人がいるわけないと思っていた)「鹿男あをによし」はドラマになり、「鴨川ホルモー」は映画になった。この「プリンセス・トヨトミ」はそれら2作よりずっと映像化が可能であり、映像化されたのを観てみたいと思うし、ゆえに映像化されるだろうと思う。文章を読みながら、映像が簡単に目に浮かぶ小説が傑作となるとは限らない。ある程度の読者の想像が働く余地が小説にはあるべきだ。
というようなうだうだを万城目学は飛び越えてしまう。万城目イズムとでも言おうか、万城目イズムがばら撒かれている作品なら全て読んでしまいたい。彼女の作る食事なら不味くても旨くてもどっちにしても残さず食べるというのと似てる(万城目=彼女?)
で結局、面白いと言ってしまうのだ。まあ何と言うか、面白がれる人たちだけの「秘めた楽しみ」「クローズド・サークル内の必読本」なんだろうと思う。現実はどうかということと無関係に「この人の作品は売れていても、あたしにしか分からないの。あたしだけがちゃんと分かってあげてるの」的に思う人が多いと、その作家は末永く売れていくはずである。
まあ色々と語ってしまった。しかし、こういう作品が面白いという人を、私は好きである。人間の不完全さとか不完全さがもたらす面白さを楽しめる人だから。
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従来のジャンルではくくれないように思います。
あえて言うなら「壮大な冗談」てとこでしょうか。
これ、凄く楽しみにしているんです。もうお読みになられたんですね~。うらやましいな。
万城目さんの作品は一応全部読んでいるのですが、実は一番好きなのは、エッセイの、ザ万歩計だったりします♪
よく考えてみたら、私も万城目作品全部読んでますね。「ザ・万歩計」も
すごく面白かったです。テイストがどこか似ている森見登美彦作品はまだ
一部しか読んでいないのですが、いずれどーんと読もうと思っております。
TBさせていただきました。
そう、大阪って”暑苦しい”ですよね。言いえて妙!と思いました。
そして、ふるさんの予言通り、というかなんというか。やはり映像化決定しましたね。またまた重要な役に原作とは性別逆転した綾瀬はるかが。万城目ワールドと相性がいいんでしょうか…。
そうですか。映像化決まったのですか。知らなかったです。
性別は逆転しないで欲しかったというかそのままの性別の
映像を観たかったですね。しかしおっしゃる通り、万城目作品の
世界(攻撃的でない、エラソーでない)は綾瀬はるか世界と
親和性が高いように感じます。