頭の中は魑魅魍魎

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『動的平衡』福岡伸一

2009-10-25 | books

「動的平衡」福岡伸一 木楽舎 2009年(初出ソトコト)

これだけの知的刺激に満ちた本は久しぶりに読んだ。

名作「生物と無生物のあいだ」や未読の「できそこないの男たち」「世界は分けてもわからない」でお馴染みの福岡先生。私は彼の語り口が好きで、自分が知っていることをこれ見よがしに上から目線で語るでもなく、淡々と柔らかい風のような文体で語る様が実にいい。

未読の人の興を削がないように、一部だけ書いて後はメモっぽくしておく。

・我々は、歳をとると、子供の時より時間が経つのが早く感じると言う。福岡先生は、体内時計が早く進むのではなく、むしろ歳をとると遅くなるので、1年経ったのに半年にしか感じていない → 半年経ったと体感的に思っていたのに、実際は1年も経っていた! → 歳をとると時間が経つのが早い! → と思い込むのだと言う。それを含めて、人間のバイアスが記憶を作り、記憶を歪め、目に見えていない物を作り出すとのこと。虹はくっきりと7色あるわけではないので、文化というバイアスが7色に見せているに過ぎないのだと。

・我々はちくわである。食ったものが通過する管に過ぎない。

・たんぱく質の合成と分解を同時に行うのが動的平衡である。

・我々は大量の食物を分解して、バラバラにして吸収している。だから60グラムのたんぱく質を摂取して、糞から10グラムのたんぱく質が出てきたからと言って、50グラム体内に残ったという計算は出来ない。消化酵素もたんぱく質なので、それと分解された食物がどろどろと溶けたカオスだから。

・コラーゲンやヒアルロン酸を摂取しても肌に塗っても無駄である。食べたコラーゲンがコラーゲンになるのではないから。コラーゲンは分解されれば別のアミノ酸になり、それがコラーゲンに再構成されるわけではない。何かを肌に塗って皺が目立たなくなったら、それは皺にそれが埋まって皺を隠しているに過ぎない。日本人が普通に食べている食事をしていれば、コラーゲンは自分で製造できるのだ。

てな感じ。ダイエットに関してはドカ食いではなくチビチビ食いがなぜ良いか科学的に説明してくれている。

というようなテクニカルでプラグマティックに役に立ちそうな話も面白かったが、それより動的平衡という概念を通して高くて遠い哲学の世界に連れて行ってくれたのが最大の収穫であった。考えさせられること多し。



我々はちくわ。ちくわがバイアスによって別のちくわに何か違うモノを見い出してしまうのが恋。

わ~た~し ち~く~わ~
どこまでも~ ち~く~わ~




動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか
福岡伸一
木楽舎

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