(TOCANA2/17,2017より転載)
http://tocana.jp/2017/02/post_12380_entry.html
人類に共通する最大の死をもたらす病は「ガン」ではなく「老化」である。歴史を通じて老化による死だけは誰も治療することができなかった。その老化に対する治療法が、我々が生きている間に現実になる可能性が出てきた。
■1980年代にテロメアの存在が注目される
画像は、Thinkstockより
実は老化を引き起こす原因と、老化を止める方法は1980年代にすでに発見されている。我々の細胞の遺伝子にはテロメアと呼ばれるカウンターが備わっている。細胞が分裂するたびにテロメアが短くなっていき、短くなるほど細胞分裂のペースは遅くなる。子どもの頃あれほど簡単に治った擦り傷が、中年になると傷口がふさがるのに時間がかかるようになるのは、テロメアが短くなるせいだ。
そしてテロメアがある短さに到達するとそれ以上細胞は分裂しなくなる。生涯を通じて50回ほど細胞が分裂すると、そこでその細胞はそれ以上、分裂しなくなるのだ。新しい細胞が古い細胞にとってかわる新陳代謝が起きなくなり、体は老化した細胞ばかりになって、老人となり人は死んでいく。
その老化した細胞の遺伝子のテロメアを書き換える方法も発見されている。テロメアというカウンターをハッキングして、長さを長く戻す。そうすると老化したはずの細胞がふたたび細胞分裂できるようになる。
1980年代にこのことが発見されると、いよいよ人類が老化しない時代がやってくると大いに期待されたものだ。しかしその期待はあっという間に打ち砕かれた。
■老化の次に出てきたガン問題
テロメアをハッキングした細胞は高い確率でガンを引き起こすのだ。
老化をテロメアの書き換えで克服した人は、確実にガンになる。つまり老化の治療によって、老化の次の二番目に死に至る病を引き起こすのだ。それがこれまで老化治療が突き当たってしまっていた壁だった。
だが、そのガンの治療に革命が起きているのが現在だ。小野薬品が発売した夢の新薬と呼ばれる「オプジーボ」は、肺ガン患者の2割に対して、増殖を抑えるだけでなくガン細胞がほぼ消えてしまうという画期的な結果を出したことで話題になった。
実はオプジーボの成功は、ガン治療革命のひとつの側面でしかない。なぜオプジーボが2割の患者に効いて、言い換えると8割の患者に効かないのか? それがプレシジョンメディシン(精密治療)と呼ばれる最先端の治療革命に関係する話だ。
これまでのガン治療は、肺ガン、大腸ガン、胃ガンのようにガンが発生する部位に応じてタテ割りの治療法が研究されてきた。ところがプレシジョンメディシンはガンを発生させる遺伝子変異を分析して、遺伝子変異別の治療を行う。
オプジーボは分子標的薬の一種で、ガン細胞を引き起こす異常なたんぱく質を標的にして、ガン細胞の免疫機能をピンポイントで阻害する。
このような分子標的薬が効くのは肺ガン、胃ガンといったタテ割の分類ではなく、遺伝子変異を起こしているDNAが同じかどうかというヨコ割の分類が関係してくる。だから同じ遺伝子が関係しているガンなら違う部位でも同じ新薬が効く場合があるし、同じ部位のガンでも新薬が2割の患者にしか効かないことがある。そんなことも近年わかってきた。
そしてIBMが誇る人工知能のワトソンが、そのプレシジョンメディシンの解析に乗り出し始めた。これまで提出された無数のガン治療薬についての論文をワトソンが読みこみ、どのようなDNA変異を持つガン患者であれば、どの治療薬が効く可能性があるのかをビッグデータ分析し始めているのだ。
近い将来期待されることは、ガンを引き起こす遺伝子変異がすべて特定され、それらすべての遺伝子変異をターゲットとしたピンポイントの治療薬が開発されることだ。数十年で医学はそこまで進化する可能性がある。そうなればガン撲滅という夢が現実のものとなる。
さて、話は戻ってその先だ。仮にガンが撲滅したらどうなる? そう。人類はガンを心配せずに全身の細胞のテロメアのカウンターをハッキングすることができるようになる。
体中の遺伝子を20代のときのカウンターに書き換える。そこで必然的に起きるガンは根治できる。結果として80代の老人が20代の身体を取り戻すことができる。その夢の世界に人類は近付きつつあるのである。
(文=ホラッチョ)
■ホラッチョ
フューチャリスト。グローバル情報と歴史をもとに鋭く未来予測を展開するが、周囲からは理解されずホラだと思われている。