Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

齊藤一郎/セントラル愛知交響楽団

2016年10月06日 | 音楽
 アジア・オーケストラ・ウィークが始まった。今年の招待オーケストラは、タイ、韓国、日本から各1団体。その中から、プログラムに惹かれて日本のセントラル愛知交響楽団の演奏会を聴いた。指揮は齊藤一郎。

 同団は1983年の発足なので、すでに30年以上の活動歴を持つ。音楽監督はレオシュ・スワロフスキー(2014年就任)。首席客演指揮者は齊藤一郎。齊藤一郎は2009年~2013年は常任指揮者を務めていた。わたしは齊藤一郎が同団を振るのを聴くのは初めてだと思う。

 1曲目はユン・イサン(1917‐1995)の「弦楽のためのタピ」(1987)。タピとは「織模様のある厚手の重い生地」だそうだ(荻谷由喜子氏のプログラム・ノーツ)。弦楽合奏によるエネルギーに満ちた曲。音が唸り、軋み、また厳しく沈潜する。合理的に割り切れない感情が迸る。演奏は渾身のものだった。

 ユン・イサンは(今の政治状況では)逆風が吹いているかもしれない。でも、わたしはその人格の高潔さや、音楽の真摯さを信頼したいと思う。この曲でも音の逞しい表出力に惹かれるものがあった。

 2曲目は芥川也寸志(1925‐1989)の「交響三章《トリニタ・シンフォニカ》」(1948)。NHKの懸賞募集で特賞をとった「交響管弦楽のための音楽」(1950)の2年前の作品だ。芥川の伸び伸びとした若い才能が息づいている。「交響管弦楽のための音楽」と同種の日本の戦後復興の明るさが感じられる曲だ。

 演奏もその明るさを的確に捉えていた。今の時代からは失われたヴァイタリティが溢れる演奏。同一音型が反復する直線的な進行にスリルが感じられ、とくに第3楽章フィナーレの畳み掛けるような追い上げには迫力があった。

 3曲目はリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」。引き締まった力演。コンサートマスターの島田真千子のヴァイオリン・ソロが見事だった。優秀な奏者だと思う。チェロの客演首席奏者の山本裕康の存在も大きかった。管楽器ではオーボエの安原太武郎に注目した。

 アンコールに芥川也寸志の「交響三章《トリニタ・シンフォニカ》」の第3楽章がもう一度演奏された。本プロよりも鮮やかな演奏だった。齊藤一郎の事前のトークによると、アンコールにはブラームスのハンガリー舞曲第1番を準備していたが、急遽変更したとのこと。大成功だった。
(2016.10.5.東京オペラシティ)
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