2008年度決算において3メガバンクが巨額の赤字を計上した。その最も大きな原因が「株式持ち合い」等によって生じた投資有価証券の評価損だ。なんと、3メガバンクの評価損額の合計は約1兆3000億円にも上るという。
こうした動きを受けて金融庁は、今月6日、「株式持ち合い」の解消を促すために「持ち合い株に関する情報開示を義務化する」方針を明らかにした。早ければ2010年3月期の適用を目指すという。
「株式持ち合い」は、買収防衛策としても導入されることが多いといわれているが、評価損によって企業の価値を下げることにもなりかねない上、コーポレート・ガバナンスの形骸化も引き起こす。今回は、連載第50回でも取り上げた「株式持ち合い」の問題点を改めて洗い出し、金融庁による開示義務化の効果について検討していきたい。
シナジー効果を生まない
「株式持ち合い」の悪影響とは
先月、金融審議会は「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ報告」という分科会を行い、『上場企業等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて』という報告書を発表した。
この中では、資金調達や取締役会のあり方、独立社外取締役の義務付け、監査役の機能の強化など、コーポレート・ガバナンスの強化に向けての方向性が打ち出されており、その中のひとつとして「株式持ち合い状況についての開示の促進」も提言されている。
株式の持ち合いは、1990年代以降減少傾向にあった。ところが、2007年のスティールパートナーズによるブルドックソース買収と一連の事件以降、再び増加する。なぜなら、ブルドックソース事件以降、買収防衛策の決議で多数の株主の意思が重視される流れが強まり、企業が多くの株主を味方につけなければならない状況になってきたからだ。そこで、特に敵対的買収の脅威にさらされている企業同士が、必ずしも事業に関連性がなくとも株を相互保有し合うケースが増加してきた。この連載第50回でも取り上げた江崎グリコ、日清食品、東京放送(TBS)がその代表例である。
そういった点で、投資有価証券について「どういう目的で」「いつから買っているのか」、という様な事項をきちんと説明するのが本来は望ましいだろう。持ち合い状況の内容だけを開示するだけでなく、すべての投資有価証券について取得の目的と内容を明らかにすれば、株主から「なぜこのような株を持っているのか」や「もっと設備投資や製品の開発に資金を振り向けるべき」などといった意見が出てくる可能性が高く、コーポレート・ガバナンスの強化につながるはずだ。
「株式持ち合い開示」は
他の施策と同時に行われるべき
未だ課題の多い「株式持ち合い」 問題だが、現在、解消に向けて設置されているものが1つある。それが、銀行等保有株式取得機構だ。銀行の経営の健全性確保と過度の信用収縮を防止する観点から、時限措置として平成24年3月末まで設置をし、銀行等の保有株式の取得を再開している。
銀行等保有株式取得機構は、買い取り枠を20兆円と設定しており、“受け皿”として設置されたことによって、金融機関の持ち合い株式はかなり減少している。買い取り額も、6月単月実績は合計で約990億円と約43億円だった5月の約20倍となった。
持ち合いの解消を進め、株主によるガバナンス機能の強化を図っていく観点からも積極的に活用されることが必要だ。その一方で、この制度の活用などを通じて株式の保有構造の転換を円滑に進めていかなければならない。「受け皿となる個人や個人を最終受益者とする機関投資家による投資の促進が重要であり、(中略)個人の資産形成尾促進スキームの導入を含め、このための一層の環境整備が進められるべきである」とスタディグループの報告書にも書かれている。
このように「株式持ち合い状況を開示する」というだけでは、根本的な問題の解消にはならない。きちんとした受け皿をつくることで、コーポレート・ガバナンスが働くような仕組みをつくることが大切だ。「株式持ち合い状況の開示」は、コーポレート・ガバナンス実現のためなどに必要な1つの手段であって、他の様々な施策と一緒に行われなければ意味がないだろう。
そして、今回取り上げた「株式持ち合い」は、それだけで捉えられるべき狭い問題ではない。コーポレート・ガバナンスの実現や国際会計基準に合致するために内在する問題の一部なのである。そうした意味で今後この問題は、単独で取り上げられるべきではなく、金融・資本市場の健全化という非常に大きな流れの中で議論されていくべきなのであろう。
ダイヤモンド 永沢徹(弁護士)
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