ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR北海道が単独での維持を困難とするのは10路線13区間

2016年11月15日 22時52分03秒 | 社会・経済

 2016年7月30日14時34分27秒付の「いよいよJR北海道の鉄道路線の大整理(?)が始まるか」において記しましたように、JR北海道の島田修社長は鉄道事業の抜本的見直しを正式に表明し、秋に同社単独で維持することが困難であるとする路線・区間を公表することを述べていました。台風による被害のために延びていましたが、ついに今月14日、北海道選出の与党国会議員の会合の場において、同社社長が表明しました。北海道新聞社が今日の9時50分付で「JR北海道、維持困難『13区間』 18日にも正式発表」(http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0338136.html)として報じています。

 今回は正式発表でないのですが、大きく変わることはないでしょう。説明の場が場であるだけに、かなり固まった内容と思われます。

 JR北海道が単独で維持することは困難であるとするのは10路線13区間で、総延長は1237.2キロメートルにも及びます(但し、1路線1区間については既に廃止ということでJR北海道と夕張市が合意しています)。これは北海道の鉄道路線全体のおよそ50%にあたるというのですから、大規模な見直しと言えます。沿線として関係する市町村も56にのぼります。今後の協議がどうなるか、注目されます。

 選定の基準は、輸送密度、赤字額、設備(トンネル、橋梁など)の老朽化の具合などですが、上記北海道新聞報道に添付されている図を参照すると、今後検討する1路線1区間を除いて輸送密度が2000人未満となっています。以下、あげていきます〔カッコ内の数字は2015年度の輸送密度(日高本線のみ2014年度)/およその赤字額〕。

 1.札沼線の北海道医療大学〜新十津川(79人/4億円)

 2.石勝線の新夕張〜夕張(夕張支線)(118人/2億円)⇐既に廃止で合意済み。

 3.根室本線の富良野〜新得(152人/10億円)

 4.留萌本線の深川〜留萌(183人/7億円)⇐同線の留萌〜増毛は今年12月5日に廃止の予定。

 5.日高本線の苫小牧〜鵡川(298人/4億円)

 6.日高本線の鵡川〜様似(298人/11億円)⇐長期運休中

 7.宗谷本線の名寄〜稚内(403人/25億円)

 8.根室本線の釧路〜根室(通称「花咲線」)(449人/11億円)

 9.根室本線の滝川〜富良野(488人/12億円)

 10.室蘭本線の沼ノ端〜岩見沢(500人/11億円)

 11.釧網本線の東釧路〜網走(全線)(513人/16億円)

 12.石北本線の新旭川〜網走(全線)(1141人/36億円)

 13.富良野線の富良野〜旭川(全線)(1477人/10億円)

 また、今後検討する路線として、宗谷本線の旭川〜名寄(1571人/21億円)、根室本線の帯広〜釧路(2266人/33億円)があげられています。いずれも、高速化事業として北海道高速鉄道開発(第三セクター)が関わりました。特急列車も走っています。この2路線2区間については、北海道高速鉄道開発への出資、補助などの形での支援を求めるようです(詳細はよくわかりません)。

 JR北海道が単独で維持することができないとなれば、廃止か、沿線自治体などが関わる形で存続するか、ということになります。次のような方針があるようです。

 A 鉄道路線を廃止してバスに転換する方向で協議:上記の1、3および4。

 B 上下分離方式を軸に協議する:上記の5〜13。

 (ちなみに、将来、北海道新幹線が札幌まで全通すれば、現在の函館本線のうち函館〜小樽について経営分離が行われるという方針もあります。)

 私が懸念するのは、上下分離方式という方針です。これは、青い森鉄道などで行われている方式で、鉄道の土地や施設といったインフラを地方公共団体などが保有し、鉄道会社はインフラを借り受けるなどの形で列車の運行を行うものです(青い森鉄道は第二種鉄道事業者であり、青森県が鉄道用の土地などの施設を所有しています)。手元にある『鉄道の百科事典』(丸善)765頁では「鉄道の線路と輸送とを分離する考え方」と説明されており、同書764頁では1991年7月のEU閣僚理事会指令(EU指令91/440)が紹介されています。EUでは、線路部門と輸送部門とで会計を分離すること(会計分離)、線路事業部門と輸送事業部門とで組織を分離すること(組織分離)、線路部分の主体と輸送事業部門の主体が別であること(制度分離)のいずれかを採用することが求められており、会計分離は最低限の選択肢とされているようです(同書765頁によります)。

 EUでは鉄道が重要な輸送手段であるという認識が非常に強いようで、上下分離方式、オープンアクセスなどを盛り込んだ改革を実行しました。これにより、鉄道事業者間の競争の機会を確保することにもなりますし、ローカル線を安易に廃止しないという方針にも適合するようです。しかし、日本ではどうでしょうか。彼我の違いを無視して単純に導入したりすることはできないでしょう。

 上下分離方式を採用するとなると、誰がインフラを保有するかという問題がまず生じます。JR北海道の路線については、国、北海道、沿線市町村、第三セクター、JR北海道とは別個の民間会社、という選択肢が思い浮かびますが、財政の規模などを考えると、国か北海道が保有するというのが望ましいでしょう。勿論、沿線市町村が直接、または保有会社を通じて所有するという手もあります。

 次に財政負担です。国または地方公共団体がインフラを保有することになれば、固定資産税という収入はなくなります。そこでJR北海道が運行を続けるならば同社から使用料を徴収することとなりますが、経営状況などを考えると使用料の減免なども検討されざるをえないでしょう。冬には厳寒に見舞われる地方ですから、線路や信号回路などの維持費も馬鹿にならないでしょう。これと輸送量(旅客、貨物の双方)を天秤にかけて、釣り合うか釣り合わないかを試算せざるをえないと思われます。そうなれば、上下分離方式の採用の予定が変更される可能性も出てきます。地域、沿線市町村が存続を要望するのも理解できますが、安易にそうするのではなく、相当の覚悟を持たなければならないでしょう。住民についても同じことです。或る意味で厳しい表現となりますが、口では存続を唱えても、実際に利用しなければ、廃止に賛成しているのと変わりはありません。地域住民が鉄道(さらには路線バスも)を捨てた、と理解されても仕方のないところです。それならば、最初から存続を主張しないことです。

 1980年代、北海道から多くの鉄道路線が消えました。その中には100キロメートルを優に超える路線、例えば天北線、標津線、羽幌線、名寄本線がありました。日本全国を見ても、一部の例外を除き、特定地方交通線とされたものの多くが廃止されましたが、北海道では特定地方交通線とされたもののうち、第三セクター化されたのは池北線のみでした(やはり100キロメートルを超えていました)。同線は北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線として存続しますが、大赤字を解消することはできず、輸送人員数も減少の一途をたどり、結局、2006年に廃止されました。また、第三セクター化が意図されながらも、試算の結果、数年で資金が底をつき、市町村にとっては耐えられないほどに莫大な負担と化することが判明して断念された、という路線もあります(興浜北線と興浜南線、これに未開業部分を合わせた興浜線、美幸線)。

 それから30年が経過しています。再び、北海道から少なからぬ鉄道路線が消えていくのか否か。まずは上記10路線13区間の行方を見ていかなければなりません。


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