Jan.3 2006 六分儀

2006年01月03日 | 風の旅人日乗
1月3日 火曜日

東京の下町にある須崎神社と富岡八幡宮に、家族で初詣。おみくじは『吉』と出た。何事も控えめがよろしい。
寒い上に、風が強く、海に出られない。こんな日は本でも読んで過ごすのが一番。

ところで。
六分儀、って知ってますか?
陸地の見えない海で、太陽や星の高さを測り、それをもとにチョイチョイと計算をして自分の位置を割り出すときに使う器械。今のようにGPSが発達する前までは、海を渡る船乗りは、必ずこの器械が使えなければならなかった。

考えてみれば、不思議な器械だ。だって、宇宙と船を繋いでしまうのだ。
この六分儀について3年前に雑誌に書いた、自分のエッセイを見つけたので、今日はそれを読み返してみようかな。

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東京・銀座3丁目。上品な服を着た山手の東京人たちが、さんざめきながら歩いている。六分儀が入った木箱を下げて船から降りたばかりのセイラーは、なんとなく肩身が狭い思い。

銀座通りを挟んで松屋の正面。玉屋ビル。
高級婦人服店(当時。現在はアップル・ストア)である正面玄関は、セイラーには縁のない入口だ。
そのビルの裏に回り、古びた小さなエレベーターに乗って上の階に上がる。
玉屋計測器事業部。
慣れない銀座にやってきたセイラーは、その部屋に入って初めてくつろいだ気分になり、持参の六分儀の機差修正について、熟練の担当者と相談を始める。

―― 今はもう別の場所に移転してしまったが、銀座の真中に、そんな、セイラーの居場所があった。

商船大学航海科の学生として練習船に乗っているときから、「六分儀は玉屋に限るぞ」と大学の先輩でもある教官から念を押されていた。
玉屋。現在の名称はタマヤ計測システム株式会社。江戸時代の1675年、眼鏡を製造販売する玉屋商店として創業。レンズを使った計測機器の専門メーカーだ。

動力練習船での南半球への練習航海、帆船・日本丸での太平洋横断。毎日毎日天測をし、六分儀に触れない日はなかった。
太陽や星をレンズの中で水平線に降ろし、その角度を測る。

正確な位置を出すにはちょっとコツがあって、「太陽は水平線からほんわり湯気が立つ程度に浅く降ろし、星はもう少し沈めて海からジュッと音がするくらい深めに降ろす」と教えられた。

琴座のヴェガ、サソリ座のアンタレス、獅子座のレグルス、スピカ、アンタレス、北極星。いろんな星に地球での自分の位置を教えてもらった。

六分儀は自分の手に馴染んだものを使うべし、とも教えられた。この六分儀と一緒に、沖縄、小笠原、香港~マニラ、シドニー~ホバート、ロス~ホノルル、いろんな長距離外洋ヨットレースを走った。

いつかぼくが海を引退したら、そうしたらこいつは部屋の片隅に陣取って、昔の航海の思い出をあれこれ語ってくれることになるのだろう。こちらが老いぼれてしまっても、こいつの機能美あふれるデザインは、いつまでも輝いているに違いない。