ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

抗リン脂質抗体症候群(APS)

2011年09月23日 | 周産期医学

antiphospholipid antibody syndrome: APS

【抗リン脂質抗体症候群の診断基準】(2006年改訂)

臨床基準:
1. 血栓症
 1回以上の動脈もしくは静脈血栓症の臨床的エピソード。血栓症は画像診断、ドプラ検査、または病理学的に確認されたもの。

2. 妊娠合併症
 a)妊娠10週以降で、ほかに原因のない正常形態胎児の死亡、または、
 b)重症妊娠高血圧症候群、子癇または胎盤機能不全による妊娠34週以前の形態学異常のない胎児の1回以上の早産、または、
 c)妊娠10週以前の3回以上続けての他に原因のない流産

検査基準:
1. ループスアンチコアグラントが12週以上の間隔をあけて2回以上陽性(国際血栓止血学会のガイドラインに沿った測定法による)

2. 抗カルジオリピン抗体(IgG型またはIgM型)が12週以上の間隔をあけて2回以上中等度以上の力価(>40GPL[MPL]、または>99パーセンタイル)で検出される(標準化されたELISA法による)

3. 抗カルジオリピンβ2GP1 抗体(IgG型またはIgM型)が12週以上の間隔をあけて2回以上検出される(力価>99パーセンタイル、標準化されたELISA法による)

※ 臨床基準を1つ以上、かつ検査基準を1つ以上満たした場合、抗リン脂質抗体症候群と診断する。したがって、検査基準を満たしても臨床基準に該当する既往がなければ抗リン脂質抗体症候群とは診断されない。

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・ 健康保険が適用され得る抗リン脂質抗体検査は、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体および抗カルジオリピンβ2GP1 抗体である。

・ 習慣流産患者がこれらのいずれかについて複数回陽性を示せばAPSと診断される。習慣流産患者の3~15%に抗リン脂質抗体が陽性となる。この定義によるAPS患者での流産率は90%であるとする報告もある。

・ 上記リン脂質抗体のいずれかが陽性、かつ以下の既往のいずれかを認めれば、習慣流産の既往がなくてもAPSと診断される。
 a)臨床的血栓症既往(動脈血栓、静脈血栓いずれでも可)
 b)妊娠10週以降の1回以上の胎児死亡
 c)妊娠高血圧腎症重症、子癇または胎盤機能不全による妊娠34週以前の1回以上の早産。
したがって、習慣流産既往歴がなくてもa)~c)のいずれかの既往歴がある場合には抗リン脂質抗体の検査が考慮される。

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【APSにみられる症状】
1.血栓症
 <静脈系>
 血栓性静脈炎、網状皮斑、下腿潰瘍、網膜静脈血栓症、肺梗塞・塞栓症、血栓性肺高血圧症、Budd-Chiari症候群、肝腫大など。
 <動脈系>
 皮膚潰瘍、四肢壊疸、網膜動脈血栓症、一過性脳虚血発作、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、疣贅性心内膜炎、弁膜機能不全、腎梗塞、腎微小血栓、肝梗塞、腸梗塞、無菌性骨壊死など。

2.習慣流産、自然流産、子宮内胎児死亡

3.血小板減少症

4.その他
 自己免疫性溶血性貧血、Evans症候群、頭痛、舞踏病、血管炎様皮疹、アジソン病、虚血性視神経症など。

【APS合併妊娠の管理】
・ APSは、流・死産、FGR、常位胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群を高率に発症する。
⇒胎児well-beingの頻回な評価が必要である。

・ 母体にとって致死的な肺塞栓症を引き起こす静脈血栓症の発生頻度が高い。
⇒たとえ妊娠経過が順調であっても厳重な薬物療法が必要で、妊娠が確認された時点で低用量アスピリン+ヘパリン併用療法などの薬物療法を開始する。

・ APSにおいてアスピリン、ヘパリン、プレドニゾロンなどさまざまな治療が妊娠予後改善に試みられてきた。前方視的無作為試験において低用量アスピリン+ヘパリン併用療法はAPS合併習慣流産患者の初期流産率を減少させるが、別の無作為試験においては低用量アスピリンのみで十分妊娠予後を改善でき、低用量アスピリン+低分子ヘパリンと予後に差を認めない。抗リン脂質抗体陽性の習慣流産患者に対しては、低用量アスピリン(75~100 mg/日)投与もしくは、低用量アスピリン+ヘパリン(5,000~10,000単位/日)併用療法で予後改善が期待できる。メタ分析の結果では低用量アスピリン+ヘパリンの組み合わせにおいてのみ有意に妊娠予後を改善できた。

参考:反復・習慣流産患者の診断と取り扱い


全身性エリテマトーデス(SLE)

2011年09月23日 | 周産期医学

systemic lupus erythematosus

SLEは、自己抗体、免疫複合体による細胞障害、組織障害が全身に及ぶ疾患である。生殖可能年齢の女性が約9割を占め、産科診療上決して稀な疾患ではない。SLEの罹患率は妊孕性のある女性の約500人に1人とされる。

素因をもったヒトに感染、ホルモン、紫外線、薬剤などの環境因子が加わって免疫異常が惹起されるものと考えられる。家族的発症も認められており、HLA-DR2やDR3との関係が報告されている。B細胞のpolyclonalな活性化とT細胞の制御機構の異常が起こり、自己抗体産生にいたる。組織障害性T細胞と産生された自己抗体は免疫複合体を形成し組織障害を起こし、種々の臓器症状を呈する。

診断は妊婦であっても非妊娠時と同様に診断基準に従って診断する。

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【SLE の診断基準】
(アメリカリウマチ協会、1997 年改訂)

1.頬部紅斑:頬骨隆起部上の紅斑

2.円板状紅斑(ディスコイド疹)

3.光線過敏症:患者病歴または医師の観察による

4.口腔内潰瘍:医師の観察によるもので通常無痛性

5.関節炎:二つ以上の末梢関節の非びらん性関節炎

6.漿膜炎
 a)胸膜炎:疼痛、摩擦音、胸水
 b)心膜炎:心電図、摩擦音、心膜液

7.腎障害
 a)0.5g/日以上または3 +以上の持続性蛋白尿
 b)細胞性円柱:赤血球、顆粒、尿細管性円柱

8.神経障害
 a)けいれん
 b)精神障害

9.血液学的異常
 a)溶血性貧血
 b)白血球減少症:4,000/μL未満が2 回以上
 c)リンパ球減少症:1,500/μL未満が2 回以上
 d)血小板減少症:100,000/μL未満

10.免疫学的異常
 a)抗DNA抗体:native DNAに対する抗体の異常高値
 b)抗Sm抗体の存在
 c) 抗リン脂質抗体:抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント陽性、梅毒血清反応偽陽性

11.抗核抗体の検出

観察期間中、経時的あるいは同時に11 項目中4 項目以上存在すればSLE と分類する。

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【SLE活動性判定基準】
(厚生省自己免疫疾患調査研究班、1985 年)

1. 発熱

2. 関節痛

3. 紅斑(顔面以外も含む)

4. 口腔潰瘍または大量脱毛

5. 血沈亢進(30mm/時以上)

6. 低補体血症(CH50:20U/mL以下、あるいはC3:60mg/dL以下)

7. 白血球減少症(4000/μL以下) 

8. 低アルブミン血症(3.5g/dL以下) 

9. LE細胞またはLEテスト陽性

上記9項目中3項目以上陽性を活動性と判定する。
(感度:95.7%、特異性:94.0%)

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Lupus_facial_rash
顔面(頬部)紅斑

Discoidlupus
円板状皮疹(ディスコイド疹)

Sle3
口腔潰瘍

【妊娠がSLEに与える影響】
 妊娠中一般的には妊娠14週頃までは増悪し、その後は分娩までは軽快し、分娩後に再度増悪する。(中絶後は分娩後と同様に増悪する。)

【SLEが妊娠・胎児に与える影響】
 妊孕率:低下
 流産・早産・死産:増加
 妊娠高血圧症候群(PIH):増加
 胎児発育不全(FGR):増加
 胎児機能不全(NRFS):増加
 母体死亡:増加

【SLE患者の妊娠許可の条件】
・ 免疫抑制剤の併用がなく、プレドニゾロン10mg/日以下で6カ月以上寛解状態にある
・ SLEによる重篤な臓器障害がない
・ ステロイドによる重篤な副作用の既往がない
・ 妊娠・出産・育児に伴う精神的肉体的負担の増大と危険性を十分理解できる
・ 抗リン脂質抗体、SS-A抗体の有無を検査

※ 従来は妊娠・出産はSLEの増悪因子と考えられて、避けることが望ましいと考えられていたが、最近は早期に診断される軽症例や長期寛解例で妊娠出産を希望する例が多くなってきた。一定の基準を設けて妊娠を許可する傾向にある。

【児に対する影響】

a)新生児ループス(neonatal lupus erythematosus: NLE)
・ ループス様皮疹、白血球減少症、血小板減少症などのSLE様の症状がみられる。症状の多くは一過性である。(先天性房室ブロックは非可逆的である。)

・ NLEは、母体血中からの抗SSA-IgG抗体、抗SSB-IgG抗体の移行と関係がある。母体からの移行抗体が消失する生後6カ月頃から症状は徐々に改善する。

Nle1
新生児ループス(NLE)

b)先天性房室ブロック

・ 心房結節、His束などに広範な心筋炎や線維化を生じる結果、房室ブロックを生じる。先天性房室ブロックのほとんどはSSA抗体、SSB抗体を有する母親から生まれるが、頻度は3%以下である。

・ 先天性房室ブロックは出生前に診断可能である。CTGで60bpm以下の除脈で基線細変動がみられない。

・ 先天性房室ブロックの児を妊娠した母親の多くは、妊娠中はSLEの症状は存在しなくてもその30~60%は、将来、自己免疫性の血管障害を呈するとされている。(次回妊娠もハイリスクとして扱う)

【妊娠前に注意すること】
・ 妊娠許可条件を満たしてから、(内科・産科主治医とよく相談して)計画的な妊娠をする。
・ 患者および産科医の認知事項:
 ①SLEの家族発症例あり、子どもがSLE になるリスクが高い。 
 ②流・早産の頻度が高い(とくに抗リン脂質抗体症候群合併例)。 
 ③腎炎悪化の可能性-ステロイドの増量の可能性がある。
 ④SS-A抗体、SS-B抗体陽性母体の4~25%に新生児ループスを認める(ループス様皮疹、先天性房室ブロック、血液検査異常〔白血球減少、血小板減少〕)。

【SLEが悪化した場合の対応】
正常妊娠にみられる諸症状とSLE の症状が類似しているため、鑑別が難しい(全身倦怠感・手足の浮腫・腰痛などの関節痛・息切れ・手のしびれ・皮膚の変化)。
・ SLEの急性増悪を早期に発見:活動性の判定基準項目に注意をはらう。自己抗体の増加(抗2本鎖DNA抗体,抗Sm抗体など)、補体低下(C3,C4,CH50)、汎血球減少、発熱などを指標とする。とくに補体価の低下は重要な指標である。
・ 妊娠高血圧症候群、腎障害の発症予防に努め、増悪に注意する。
・ 胎児発育、妊娠22週以降胎児well-being のチェック。娩出時期を考慮する(胎児・新生児では流・死産、FGR、新生児死亡率が抗リン脂質抗体陽性例ではとくに高い).
・ 抗SS-A 抗体陽性─胎児房室ブロックの有無のチェックする(SS-A/Ro抗体やSS-B/La抗体陽性の際は、胎児完全房室ブロックを発症することがある)

Sle1

【治療】
・ ステロイドの維持量(プレドニゾロン10mg/日以下)を継続投与する。
・ 妊娠許可条件を満たさずに妊娠した場合やSLEが悪化した場合は、ステロイドの増量を行い妊娠を維持させる。プレドニゾロンの維持量が15mg/日を超える場合、流早産や前期破水の率が高くなるため注意を要する。
・ 抗リン脂質抗体が陽性の場合は、抗凝固療法を行う。

【妊娠・分娩時の管理と治療】
一般的注意事項 
 安静を保ち、過労を避ける。 
 日光、寒冷、ストレスなどの増悪因子に注意する。

良好な病態とは、 
 ステロイドの維持量がプレドニゾロンとして、15mg/日以下。 
 腎機能が良好なもの(クレアチニンクリアランス70mL/分以上)。 
 抗DNA抗体陰性─とくにループス腎炎の病状に相関。

Sle2

・ 厳重な管理を要する状態 
 抗リン脂質抗体陽性例(ステロイド・アスピリン療法、へパリン皮下注、血漿交換療法) 
 血清補体価(CH50、C3)の急激な低下や低値の持続例 
 抗DNA抗体陽性例

・ 寛解と再燃を繰り返すため、妊娠がSLEに与える影響は、妊娠前のSLEの活動性の程度により異なる。
・ 妊娠中一般的には妊娠14週頃までは増悪し、その後は分娩までは軽快し、分娩後に再度増悪する。
・ 妊娠初期から高次医療施設への紹介が望ましい。
・ 妊娠の有無で、基本的治療は変化しない。SLEの活動性により、ステロイド量を決定する。
・ ステロイド使用、子宮頸管炎、絨毛膜羊膜炎などの感染に注意し、早産に留意する。
・ SLEは出産後にしばしば増悪する。産褥期にも慎重な管理が必要である。

【予後に関わる合併症】
・ 流・死産、早産などの周産期異常は、健常妊娠の約2倍である。
・ SLE合併の妊娠母体の約40%にSS-A抗体、SS-B抗体を認める。
・ SS-A抗体、SS-B抗体陽性母体の4~25%に新生児ループスを認める(ループス様皮疹、先天性房室ブロック、血液検査異常〔白血球減少、血小板減少〕)。
・ 妊娠による腎炎の悪化に注意する。
・ 出産後の育児ストレスはSLE の悪化をまねくことがあるので、家族の協力が必要である。

【分娩方法】
・ 経腟分娩を原則とする。
・ 実際には合併症のため帝王切開の頻度が高い。

【検査】
・ 血清補体価(CH50):最悪期には低値を示す
・ 腎機能検査:Ccrなど。妊娠継続の可否を決定する
・ 赤血球数:減少、白血球数:減少、リンパ球数:減少、血小板数:減少
・ 抗SS-A抗体価:高値の場合、胎児心機能の精査が必要

【次回妊娠へのアドバイス】
・ 寛解と再燃を繰り返すことが多い
・ 入院は短期間ではすまないことが多い
・ 非妊娠時も経過観察が重要である

****** 問題

全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠で正しいのはどれか。1つ選べ。

a 妊娠終了後にSLEが自然寛解することが多い。
b 血中補体の測定はSLEの活動性の指標となる。
c 妊娠中は副腎皮質ホルモン剤の投与量を減量する。
d 抗SS-A抗体、抗SS-B抗体陽性例では胎児の先天性心室性期外収縮を発症する。
e 胎児発育不全を合併しない。

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正解:b

****** 問題

全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠で正しいのはどれか。1つ選べ。

a 妊娠が成立した場合、副腎皮質ホルモン服用を中止する。
b 抗SS-A抗体は胎児心室性期外収縮の原因となる。 
c 胎児発育不全(FGR)を生じやすい。
d SLEの増悪により血清補体価は上昇する。
e 妊娠終了とともにSLEが軽快する。

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正解:c


B群溶血性レンサ球菌(GBS)感染症

2011年09月23日 | 周産期医学

Group B Streptococcus: GBS

厚労省は「平成21年2月27日付け雇児母発第0227001号」において、「妊娠24週から妊娠35週までのGBSに関する検査は標準検査」との見解を示した。

GBSは10~30%の妊婦腟・大便中から検出され、母児垂直感染症(肺炎、敗血症、髄膜炎等)の原因となる。新生児GBS感染症は生後7日未満に発症する早発型と7日以降に発症する遅発型に分類され、いずれも上行性子宮感染、産道感染が関連しており児死亡もしくは後遺症の原因となる。

英国では1000分娩あたり3.6名程度(0.36%)の早発型GBS感染症発症が推定されている。したがって、GBS保菌母体から出生した新生児が早発型GBS感染症を発症するのは2%前後と推定される。

米国では全妊婦に対する検査が勧められている。(ACOG comittee Opinion No.279)

わが国の早発型GBS感染症は欧米に比して少ないと考えられていたが、最近の報告では、わが国においても英国と同様の率で新生児GBS感染症が起こっている可能性が指摘されている。わが国の早発型GBS感染症172例の検討(保科ら、2001)で、死亡19例(11.0%)、後遺症残存例10例(5.8%)と報告されている。

****** 産婦人科治療ガイドライン・産科編2011

CQ603 B群溶血性レンサ球菌(GBS)保菌診断と取り扱いは?

1. 妊娠33~37週に腟周辺の培養検査を行う。(B)

2. 以下の妊婦には経腟分娩中あるいは前期破水後、ペニシリン系薬剤静注による母子感染予防を行う。(B)
 ・ 前児がGBS感染症(今回のスクリーニング陰性であっても)
 ・ GBS陽性妊婦(破水/陣痛のない予定帝王切開の場合には予防投与は必要ない)
 ・ GBS保菌状態について不明の妊婦

3. GBS陽性妊婦やGBS保菌不明妊婦が前期破水した場合(主に早産期)、GBS除菌に必要な抗菌剤投与期間は3日間と認識する。(C)

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(表1)GBS母児垂直感染に用いられる薬剤の用法・用量
(ACOG comittee Opinion No.279 を一部改変)

ペニシリン過敏なし
 ・ ampicillin(ビクシリン)を初回量2g静注、以後4時間ごとに1gを分娩まで静注

ペニシリン過敏症あり
a. アナフィラキシー危険が低い妊婦
 ・ cefazolin(セファメジン)を初回量2g静注、以後8時間ごとに1gを分娩まで静注

b. アナフィラキシー危険が高い妊婦
 GBSがclindamycinやerythromycinに感受性あり
 ・ clindamycin(ダラシン)900mg を8時間ごとに分娩まで静注
 ・ erythromycin(エリスロシン)500mg を6時間ごとに分娩まで静注

 GBSがclindamycinとerythromycinに抵抗性あり
 ・ vancomycin(バンコマイシン)1.0g を12時間ごとに分娩まで静注

注意: ペニシリン投与歴について聴取し、ペニシリン投与後ただちに過剰反応を示した既往のある妊婦はアナフィラキシー危険が高い妊婦と判断する。アナフィラキシー危険が高い妊婦にはGBS培養検査時にclindamycinとerythromycinの感受性検査を行う。米国においてはclindamycin耐性GBSが3~15%、erythromycin耐性が7~25%に上ると報告されている。発熱等があり、臨床的に絨毛膜羊膜炎が疑われる場合は広域スペクトラムを持ち、GBSに対しても効果のある薬剤を用いる。

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・ 検体採取は一本の綿棒で腟入口部の県債採取後(できれば腟鏡を用いない)、同綿棒もしくはもう一本の綿棒を用いて肛門内あるいは肛門周辺部からも採取することが望ましい。

・ 妊娠初期、中期にはGBS検出を目的とした培養検査を行う必要はない。もし、妊娠中に偶然GBS保菌が判明した場合であっても妊娠中の除菌(抗菌剤による)は必要なく、分娩中のみ抗菌剤を投与する。妊娠中に除菌した場合でも、分娩中の抗菌剤投与を省略するためには33~37週時に再度培養検査を行い、GBS陰性を確認する必要がある。

・ 前児がGBS感染症の場合はGBS陽性として扱い腟培養検査を省略できる。今回の妊娠でGBS陰性が確認されても前児がGBS感染症であった場合には分娩中に抗菌剤を投与する。

・ 培養検査が結果が確認されてない場合、あるいは検査が何らかの理由により行われなかった場合にはGBS陽性として扱う。早産期破水患者において妊娠継続を図る場合があるが、このような場合にGBS陰性となるまでの抗菌剤投与期間について検討した報告がある。入院時にGBS陽性であった33名中、抗菌剤1日間投与で29名(88%)が、2日間投与で32名(97%)、3日間投与で33名(100%)がGBS陰性となった。したがって、早産期前期破水患者においてGBS不明の場合にはGBS陽性として扱い、その除菌のためにはGBS陽性患者分娩時と同様な方法により3日間抗菌剤を投与する。

・ 「スクリーニング実施と陽性妊婦やハイリスク群全例に予防的抗菌剤投与を行っても新生児GBS感染症を絶滅できるわけではない」ことを承知しておくべきである。