ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

腹壁破裂、臍帯ヘルニア

2011年09月24日 | 周産期医学

Gastroschisis、Omphalocele

出生時に臍帯の中に腸管などの腹腔内臓器が脱出していたり 臍帯の脇から内臓が脱出している状態で、多くは出生前の超音波で診断されるが、出生時に気付かれることもある。

腹壁破裂:
・ 腹壁形成不全に起因し、臍帯は正常に付着するが、その側方に腹壁の欠損を認める。
・ 同部位から腸管が羊水中に脱出し曝露されているため、脱出腸管に壁肥厚や短縮を伴う。
・ 低出生体重児に多い。

Gastroschisis

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臍帯ヘルニア: 臍輪形成不全に起因し、ヘルニア囊内に腸管・肝臓などの脱出臓器が透見される。腹壁破裂との鑑別が必要である。

Omphalocele

Omphaloceleimage

【合併奇形】 心奇形、染色体異常、腸回転異常症や腸閉鎖症などの腸管奇形がみられる。臍帯ヘルニアでは50~80%に合併奇形を有する。心大血管奇形、染色体異常の合併は治療成績に大きく関与する。 腹壁破裂では合併奇形は比較的少ないが、腸管の状態により短小腸となり治療に難渋することもある。

【診断】 出生時の外観で診断は容易である。

超音波検査による出生前診断症例が多い。

Gastroschisisus
腹壁破裂

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Omphalocele_sag_view
臍帯ヘルニア

【治療】
初期治療: 脱出腸管からの熱放散と水分喪失による低体温、脱水、および感染の予防を行うことが重要である。脱出臓器を滅菌ガーゼ、またはドレープで覆い管理する。

手術: 初回手術で臓器を腹腔内に還納させ腹壁を閉じることができる場合(一期的手術)と、何段階かに分けて閉鎖する場合(多期的手術)がある。腹壁閉鎖が安全に可能かどうかは胃内圧、膀胱内圧、呼吸終末二酸化炭素濃度、中心静脈圧などが指標とされるが、明瞭な基準はない。術中の呼吸状態や腹壁の緊張、臓器損傷の可能性の有無により判断される。

多期的手術の場合、人工布を腹壁に縫合固定し臓器を覆い、その後に7日から10日かけて病室で人工布を縫縮し臓器を腹腔内に戻し最終的に全身麻酔下で閉鎖する。


小腸(空腸・回腸)閉鎖症・狭窄症

2011年09月24日 | 周産期医学

small intestinal atresia / stenosis 

【頻度・疫学】

4000~5000分娩に1例といわれる。発生頻度に性差や家族性を認めない。先天性小腸閉鎖・狭窄症では95%が閉鎖症である。十二指腸閉鎖症と異なり、染色体異常や合併奇形を有することは少ない。

約30%は空腸近位部、約20%は空腸遠位部、約15%は回腸近位部、約35%は回腸遠位部に発生する。 閉鎖・狭窄は単発のことが多いが、多発することもある。

【小腸閉鎖の病型】

Ⅰ型(膜様型):粘膜のみで閉鎖。空腸に多い。

Ⅱ型(索状型): 両盲端間が索状物でつながる。

Ⅲa型(離断型): 腸間膜のV字欠損。回腸に多い。

Ⅲb型(離断・特殊型、apple peel 型): 広範囲の腸間膜欠損のために肛側腸管が1本の栄養血管に巻きついている。

Ⅳ型(多発型): 離断型と索状型が混合し連続したもの。

Intestinalatresia_3

【超音波検査による出生前診断】

閉塞部位の上部小腸の拡張所見が認められ、空腸閉鎖では小腸拡張像(嚢胞)が数個確認できるのに対して、より下部の回腸閉鎖では小腸拡張像(嚢胞)が多数描出され蜂の巣状(honey comb pattern)となることが多い。羊水過多の程度は空腸閉鎖の方が強い。 回腸閉鎖では羊水過多が認められないことも多い。最近は出生前に診断されることも多い。

Jejunalatresia
空腸閉鎖、小腸拡張像(嚢胞)が数個確認できる

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Smallintestinalatresia_2
回腸閉鎖、honey comb pattern

※ 小腸拡張像が複数確認でき "honey comb pattern" を呈していれば通常は小腸閉鎖と診断できるが、稀に、クロール漏出性下痢症やヒルシュスプルング病の中でも広範囲無神経節症(全腸型ヒルシュスプルング病)では胎児期には小腸閉鎖と同様の超音波所見を示す。正確な鑑別診断は出生後でないと困難であるが、胎児期の管理は小腸閉鎖と同様である。

【臨床症状】

胎生期

・ 羊水過多: より高位での消化管閉鎖ほど著明である。小腸閉鎖では高位空腸閉鎖で著明な羊水過多を伴うが、回腸閉鎖では羊水過多を伴わないこともある。羊水過多の著明な例では早期産となる傾向がある。

新生児期

閉鎖症では出生後数時間以内に気づかれることが多いが、下位小腸閉鎖では24時間以後に発症することもある.また、狭窄症では乳児期以降に発症することもある。

・ 胆汁性嘔吐: 高位での閉鎖ほど生後まもなくから嘔吐が見られる。

・ 腹部膨満: 下部小腸閉鎖ほど著明である。

・ 胎便排泄異常: 胎便排泄遅延を認めることがある。胎便の便色は、閉鎖の発生が胎生の早い時期であるほど灰白色となる。胎生後期に発生した閉鎖症では暗緑色の正常胎便を排泄することもある。

・ 黄疸遷延(間接ビリルビン優位)

【検査】

・ 腹部単純X線像: 拡張した小腸ガス像

高位空腸閉鎖ではtriple bubble sign、それより下位の閉鎖ではmultiple bubble signがみられる。回腸閉鎖では多数の鏡面形成(step ladder sign)を認める。

Bubble
空腸閉鎖、triple bubble sign

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Ilealatresia
回腸閉鎖、multiple bubble sign

・注腸造影:結腸閉鎖症の有無を知るために行う。多発閉鎖症の有無の確定診断は術中に行われるが、結腸閉鎖の検索は結腸が腹壁に固定されているため術中には困難である。そこで、術前に造影し、結腸閉鎖の有無を確認する。回腸末端まで造影されれば結腸閉鎖は否定できる。また、注腸造影検査は腸回転異常症やヒルシュスプルング病の鑑別にも有用である。小腸閉鎖症では通常結腸は細くmicrocolonといわれるが、胎生後期に発生した閉鎖症では必ずしも細くはない。

【合併症】

・ 合併奇形の頻度は高くない。

・ apple peel 型では、低出生体重児が多く、奇形やDown症を合併することが多い。女児に好発する。

【治療】

・ 経鼻胃管による減圧:下部腸管では十分な減圧ができず穿孔の危険が高くなる。高位での閉鎖ほど胃管での消化管減圧が容易であり、1~2日の待期が可能であるが、回腸閉鎖では減圧が困難であり、出生当日あるいは診断後すぐの手術が必要となることが多い。

・ 輸液:脱水の改善、電解質の補正を十分に行う。

・ 手術: 膜様型では膜様閉鎖物の切除を行い、その他の病型では口側腸管と肛門側腸管の吻合を行う。離断型では拡張腸管のtaperingを行い口径をそろえて吻合する。

短腸症候群: とくに多発型やapple peel 型では残存小腸が短く、消化吸収障害を生じ、術後栄養管理に難渋し、長期にわたり中心静脈栄養を必要とする症例がある。

【予後】 合併奇形のない成熟児の予後は良いが、極低出生体重児、多発閉鎖症を伴うapple peel型や腸管穿孔例の予後は不良である。

****** 参考

胎児消化管閉鎖疾患(食道閉鎖、十二指腸・小腸閉鎖、鎖肛など)[産科編]、 聖隷浜松病院・総合周産期センター周産期科、村越 毅

先天性小腸(空腸・回腸)閉鎖症、慶応義塾大学病院

小腸閉鎖症・狭窄症、MyMed 医療電子教科書