ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

執刀医ら2人を書類送検 子宮摘出手術の死亡事故で (共同通信)

2007年04月18日 | 婦人科腫瘍

コメント(私見):

子宮頸癌に対する根治手術である広汎性子宮全摘術は非常に難しい手術で、婦人科悪性腫瘍の治療を専門とする医師で、がんセンターや大学病院で、若い時から長年にわたって非常に多くの手術の経験を積んだ者でないと、この手術の執刀医にはなれません。ですから、そもそも、この手術を執刀できる医師の数自体が国内全体でもそう多くはありません。

広汎性子宮全摘術を何百例も執刀し、神業的に手術に熟達した高名の医師であっても、時に、術中に大量出血となり、止血が極めて困難となる場合があり得ます。

ですから、広汎性子宮全摘術を実施する場合は、術前に相当な量の輸血の準備をし、十分な人員も確保し、その日は他の予定手術は一切組まないようにして、相当な気合を入れて手術に臨んでいます。

以前、当科においても、広汎性子宮全摘術の際に、骨盤底から湧き上がってくる出血をどうやっても止血することができなくなってしまい、大量の新鮮血の輸血をしながら十数時間にわたり交替でガーゼ圧迫による止血をし、ガーゼを腹腔内に何十枚も詰め込んだままでいったん閉腹して、気管内挿管をしたまま1週間にわたり集中治療室で全身管理をし、1週間後に再開腹して腹腔内に詰めたガーゼを取り出し、何とか奇跡的に、ぎりぎりのところで術中死を免れた症例の経験があります。

非常に難しい手術を実施して、結果的にうまくいかなかった場合には、執刀医と麻酔医が罪に問われるような世の中になってしまったら、誰もわざわざ苦労して長年かけて難しい手術を習得しようとは思わないでしょうし、そのような難しい手術の麻酔は麻酔医から全例拒否されるようになってしまうと思います。

****** 共同通信社、2007年4月17日

執刀医ら2人を書類送検 子宮摘出手術の死亡事故で

 国立がんセンター中央病院(東京都中央区)で2002年8月、子宮摘出手術を受けた東京都八王子市の主婦=当時(47)=が手術翌日に死亡した事故で、警視庁築地署は17日までに、業務上過失致死の疑いで執刀医(65)と麻酔医(44)を書類送検した。

 調べでは、執刀医は骨盤内のリンパ節をはがす際、静脈を傷つけ、大量出血したのに十分な止血をしなかった疑い。麻酔医は、執刀医に十分止血するよう促さなかった疑い。

 主婦は子宮がん治療のため02年8月8日、同病院に入院。同12日、手術中に大量出血し、翌日、多臓器不全などで死亡した。

(共同通信社、2007年4月17日)

****** 朝日新聞、2007年4月17日

がんセンターの2医師、書類送検 手術で過失致死容疑

 国立がんセンター中央病院(東京都中央区)で02年8月、子宮摘出手術を受けた都内の主婦(当時47)が手術中に大量出血して死亡した事故で、警視庁は、当時の執刀医(65)と麻酔医(44)を業務上過失致死の疑いで書類送検した。手術中の止血が不十分だったことなどが原因と判断した。

 調べでは、主婦は02年8月12日、がんのため、子宮を全摘出する手術を受けた。骨盤内のリンパ節をはがす際に大量に出血し、意識が戻らないまま翌13日に出血性のショックによる多臓器不全で死亡したという。

(朝日新聞、2007年4月17日)

****** 毎日新聞、2007年4月18日

患者出血死事故 2医師書類送検 
国立がんセンター

 国立がんセンター中央病院(東京都中央区)で02年8月、子宮がん治療のため子宮の摘出手術を受けた八王子市の主婦(当時47歳)が大量出血して死亡した医療事故で、止血処置を十分にせず、手術を続けたことが死亡につながったとして警視庁捜査1課と築地署が執刀医(65)と麻酔医(44)を業務上過失致死容疑で書類送検したことが分かった。遺族との間では示談が成立している。

 調べでは、女性は02年8月12日午前9時ごろから子宮摘出手術を受けた。途中で執刀医が骨盤内の静脈を過って傷つけたため大量に出血したが、執刀医は十分に止血しないまま手術を続行。別の血管も傷つけ、さらに出血した。麻酔医は出血を知りながら手術をやめさせるなどの措置をしなかった疑い。女性は輸血を受けたが、同日夕、手術終了後に死亡した。【鈴木泰広】

(毎日新聞、2007年4月18日)