気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

ビビッと動く 奥村晃作 

2016-09-08 12:52:54 | 歌集
二百台以上の自転車現われつ井の頭池の水抜きをして

ジョーンズの一枚の絵のどこ見ても現わし方がカンペキである

妻<すえ>に因む名付けの<スエコグサ>富太郎の碑の巡りを埋む

十万人に二人か三人<本態性血小板血症>を病む身となりぬ

一匹の死魚を貰いて一芸を見せるバンドウイルカを目守(まも)る

「本読んでナニになるんだ、晃作は」ホントに父はそう思ってた

俊敏の佐藤慶子の鳥のごとビビッと動く脳を思えり

レオナルド・ダ・ヴィンチの場合一点の絵画があれば動員できる

大小の筍二本<四本>を知人二人にお裾分けせり

石橋の荒神橋の名称が「荒神橋」と深く彫られて

(奥村晃作 ビビッと動く 六花書林)

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奥村晃作の15冊目の歌集『ビビッと動く』を読む。

著者77歳から79歳までの作品をおさめてある。奥村さんは満80歳になられた。表紙を見ていただきたい。帯の言葉の「独自の歌境」「真面目に邁進するオクムラ短歌」にすべてが込められている。

一首目は、現実にあったことを提示して驚きをそのまま差し出す。二首目は、定型にきっちり収まり、思いがカンペキに表現されている。「カンペキ」のカタカナ表記がオクムラ独自のスタイルだ。三首目。植物の研究で有名な牧野富太郎を詠む連作の一首。四首目、長い名前の病名を入れるために字余りになっている。字余りの重さに意味がある。五首目。バンドウイルカの芸を見たときの歌。「死魚」という言葉が強烈だが、実際にそうなのでそのまま詠んで、言葉が活きた。下句の句跨りのリズムが良い。
六首目。「反面教師」と題された一連から。実家の様子がわかる。辞めた勤め先、親の職業、所得の歌があり、いまでは珍しい題材の歌だと思った。
七首目。佐藤慶子さんとオクムラさんは夫婦。この一連に「メダカ愛強き吾妻は餌をやり過ぎ水が濁って次々死んだ」という歌がある。似た者夫婦という言葉を思ってしまった。
八首目は、その通りだろう。展覧会をめぐる、という題で美術作品に触れる歌も面白く読んだ。九首目は筍の歌。こういう題材は説明したいことが多くなり、定型に収まりにくいものだが、ピシリと決まっていて過不足ない。十首目は、京都観光の一連の歌。わたしも荒神橋を渡ることがよくあり、親しみがあった。蛇足ですが、近藤のうたは「川を越え西へ東へゆく人をたひらに渡す荒神橋は」。
歌集末尾のうたは、「八十の誕生日今日つつしみて御先祖様の霊(みたま)に告げる」。
歌集を出して一区切りついたが、奥村さんはますます邁進される。信じて疑わない。

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