気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

三千世界を行く船 小谷博泰 飯塚書店

2023-01-25 10:41:06 | 歌集
戦災あり震災ありて集められ目鼻の消えた地蔵らの立つ

朝焼けの窓あけて見るベランダに夢の続きのような鬼百合

人はみなマスクしており眼の高さを流れていった黄色い蝶々

海月ふわりふわりと浮かぶ悩まないはずがないのが人生だよと

ありふれたこの退屈が幸せというものだろう窓のそと見る

喫茶店の鏡のなかに道ありて看板の字はみんな逆向き

すれ違った男たしかに死んだはずあるいは死んでいるのは俺か

何本も赤い鳥居が立っていてくぐり抜ければ見知らぬ通り

まわるまわる輪廻の車はるかなる三千世界をわが船は行き

暗き日のにわかに雨ふるバス通りしなかったことが多い人生

(小谷博泰 三千世界を行く船 飯塚書店)

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「鱧と水仙」「白珠」所属の小谷博泰の第十六歌集。2019年2月から2022年7月までの作品を収める。読みやすい。もうこの作者の歌集を何冊も読んでいるからだろう。歌がたまると歌集を出すというスタイルの作者だが、それを出来る歌人は今や小谷博泰だけだ。死や異界を意識しながら、街をさまよう日常は続く。