気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

短歌人4月号 同人のうた

2016-03-31 23:02:35 | 短歌人
うつりきてなほ平積みにつむ本の山のうへにも春立ちにけり
(青輝翼)

古書の海、珈琲、煙草、老店主のこれがスタイル客をらずとも
(八木明子)

薄氷のあひに柄杓をさし入れてしづもる水の眠りをさます
(洞口千恵)

「神様に返されし命」何にでも挑みてみむと思ふ早春
(有沢螢)

だんだんとかばんが小さくなりてゆく なくてはならぬものなどなくて
(鶴田伊津)

猫の毛のまつわれる黒きスーツ着て一日この猫とともにはたらく
(内山晶太)

冬の陽はあまねく家具にふりそそぎ無疵のバターに刃を当つる朝
(木曽陽子)

いつぽんの素心蠟梅見むためにまはり道せりきさらぎ七日
(佐々木通代)

緘黙の少女が唯一声を出すインフルエンザ予防のうがい
(八木博信)

朝の手のゆるびたるまま時すぎてますぐならざる文字をかなしむ
(伊藤冨美代)

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短歌人4月号、同人1欄より。

短歌人3月号 同人のうた その3

2016-03-20 23:21:04 | 短歌人
そつと出す人差し指がふるへたり指紋認証の如月の冷え
(澤志帆)

「いつかまた」言い切れないで左様なら濡れているのは左の翼
(倉益敬)

ひさびさに男の涙と出合ふなり「下町ロケット」テレビの話
(竹浦道子)

朝の陽が照らす家々いづれにも人棲みてをり何処ゆく電車
(大森浄子)

仁丹の匂いをさせて吊り革を持つ紳士あり昭和のおとこ
(川島眸)

大き柚子風呂に投げ込むそれだけで異郷のごとき夕暮れがくる
(藤本喜久恵)

枇杷の花ほのかに白し死ののちを漱石の脳の量られてあり
(渡英子)

屋根裏にもはや読まざる文庫本『マルテの手記』が置かれていたり
(藤原龍一郎)

五十音谷村田村となりあい会のひと日をすごした幾度
(谷村はるか)

ラッパ手の木口小平の享年は日清戦争のさなか二十二歳(にじふに)
(大森益雄)

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短歌人3月号、同人1欄より。

短歌人3月号 同人のうた その2

2016-03-15 12:04:57 | 短歌人
青空市に花柄パラソル置かれをり昭和の少女がすわつてをりぬ
(金沢早苗)

書き初めに「美しい空」書かせつつ子か孫なのか 墨の匂えり
(林悠子)

こんなにも空あをあをと晴れわたり田村よしてるさんがゐない
(佐々木通代)

しらしらとかほを灯(とも)して過ぎゆきぬスマートフォンを見ながらのひと
(菊池孝彦)

春近しウィンドウのなかのピンヒールもう履くことのなきピンヒール
(斎藤典子)

「生きるのは面倒なり」が口癖の男がふっと消え失せて冬
(おのでらゆきお)

ゆつくりと粥のあまさをふくらます土鍋の肌のしづかな呼吸
(人見邦子)

つつましくあらへんかつたな堪忍な 深く息をし腹に手を当つ
(原野久仁子)

大晦日にアマゾン律儀に働きて囲碁の読本とどく玄関
(椎木英輔)

この先も使わぬ鍋を仕舞いおく階段下の暗がりがある
(水谷澄子)

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短歌人3月号、同人1欄より。

磨りガラスごしに光のながれきてページ明るむ地下の図書室
(近藤かすみ)

短歌人3月号 同人のうた

2016-03-09 11:49:34 | 短歌人
何杯目だろうか口から喉、耳へしみだすようにシロフォンが鳴る
(猪幸絵)

冬の日の訃報は悲し 竹田圭吾 田村よしてる デヴィッド・ボウイ
(有沢螢)

君の訃報受け止めがたく幾たびもメール読みおりガスの火止めて
(関谷啓子)

生きたかつた人 死にたかつた人 隣合ふ昨日今日明日おくやみの欄
(阿部久美)

あきらめて捨てて来たもの少年の日の金網の向こうの荒野
(八木博信)

すれちがう老人と犬ゆつくりと息を合わせて夜を曳きゆく
(木曽陽子)

婚をはさみちょうど同年ふたつ家ふたつの姓を生きたりしこと
(池田裕美子)

わするべくひとわすれゆく恥(やさ)しさにちかてつさりんちかてつさりん
(本多稜)

スクイジーに拭えば師走の空とくも磨いたようにくきやかにあり
(平林文枝)

つつがなく暖かな冬を過ごしおり枯芝色のセーターを着て
(小林登美子)

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短歌人3月号、同人1欄より。

短歌人3月号 3月の扉

2016-03-03 14:27:05 | 短歌人
骨のみの直立不動のすがしさよ雪の朝の百均の傘

百均のマジカルヘアーカラーにてボリュームを出す頭髪あはれ

(明石雅子 マジカルヘアカラー)

欲しいものはなく必要なものを買いに行く百均はいつも曇り日のよう

春の月がきれいな夜は思い出す百均の観葉植物のような人

(高田薫 百均と恋愛観)

小物入ケースも二年使いおりたかがされどの百円グッズ

百円の小さなリースをピンで止め台所で一人静かな聖夜

(前田靖子 たかがされどの・・・)

酒場にて田村野村をまへにして酒のむときにわが苦うすらぐ

麻雀をするはずだつた正月五日きみが葬(ほふ)りの骨ひろひをり

(小池光 田村を悼む)

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短歌人3月号。三月の扉より。
今月のお題は、百均グッズを詠む。

短歌人同人の田村よしてる氏が昨年末に急逝された。3月の扉の依頼を受けておられ、その分は四十年来の友人の小池さんが出詠された。いつも笑っていた穏やかだった田村さん。残念でならない。