気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

アイのオト 永田愛 青磁社

2018-12-29 01:58:20 | 歌集
はつなつの風にキリンは吹かれおり洗ったばかりのTシャツのなか

冬の日にわれとふたりで生まれ来しいもうとがいて墓に眠れり

消えてゆく音の気配を見届けるためのタクトはまだ空にあり

椅子のないピアノがひとつ壁際にありぬ太古の小舟のように

角笛は狩りに使っていた楽器もう君の名を呼ぶことはない

治る足だったらいいね ストローの袋がすこし水に濡れてる

だれからも名を呼ばれずにすむひと日 森に呼ばれて森に入りゆく

はじめての杖がこころに慣れなくてわたしの町では折りたたんでおく

雲梯をわたりゆくときぐいぐいとあなたのからだ雲になりゆく

寝室の窓は朝陽の入るところ右手の甲がよりあかるくて

(永田愛 アイのオト 青磁社)



ほおずき三つ  後藤祐子  六花書林

2018-12-23 19:05:23 | 歌集
遠すぎず近すぎもせずあいまいな距離はむずかし 眼鏡をかける

背もたれに十字くりぬく一脚の椅子は重たし老人のごと

「だるまさんがころんだ」ふっとふり向けばみな野仏に いつまでも鬼

子には子の我には我の傘のあり部屋を出ずればあたたかき雨

ひび割れしモルタルの壁日に灼かれ蟻がおおきな蟻ひきてゆく

棟梁のくわえし釘が時として鳩羽色にきらめいており

安倍首相「ロナルド・レーガン」に乗艦す磨きこまれた革靴はきて

ファックスにタイより歌稿おくるたび小池和子さんの手間ふやしけり

レシートにアルバイト5と記された青年きょうもレジ打ちしてる

くるしみは過ぎてしまえば山椒の実ひとつぶほどの苦さでありし

(後藤祐子  ほおずき三つ  六花書林)