気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

ねむりの果て 小谷陽子 本阿弥書店

2019-03-20 12:47:21 | 歌集
風にさやぐ楠の木は船わたくしを乗せて真青(まさを)の空に向かへり

夜のまへ夜のうしろを照らしつつはろばろとゆく旅の列車は

いづくより汝は来たると問はれをり吊り橋まなかに身は揺られつつ

鉄棒にさかさに下がりしかの日よりこの世は青き洞(ほら)のごとしも

しばらくを分かれふたたび相寄りぬ中洲といへるこの世の時間

ゆうらりと春の夕べを空に向きほどけてゐたりくちなはの坂

山百合の花の傾斜のゆるらかなお辞儀したまふ秋の媼は

たべものとひとのあはひに水平に置かれて香る杉の木の箸

すつぽん屋の木札のゆれてうらがへる路地の入口「生血アリマス」

先生のつむりのかたちを知る帽子グレーのソフトの窪やはらかく

(小谷陽子 ねむりの果て 本阿弥書店)

天気図 市野ヒロ子 いりの舎

2019-03-14 18:46:31 | 歌集
みどり透く羽をたためるかげろふを掃除機に吸ふ朝の畳に

昼過ぎの帰り来たりしうつしみは泥のごとくに畳に沈む

葱畑は一畝ごとに立つ札のそれぞれにして「森さん」「久保さん」

夜の空にほの明りしてひとすぢの階(きざはし)は伸ぶ月の高みへ

痩せはてし牛は四肢をば踏んばれり処分場へと運ばれむとき

姫沙羅の葉むらのそよぎみづみづしみどり児ねむる窓の曇りに

昼すぎを物縫ふ手もと暗くなり雨降りいでぬ窓に聞こえ来

しろじろと月のひかりを屋根に置く家並つづく道をまがれば

「武蔵」とぞ名札かかれる犬小屋の見えて塵取りなどを入れたり

店あかり照りつらなれる路地にしてあら草繁るくらき一画

(市野ヒロ子 天気図 いりの舎)