気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

淡黄 山中律雄 現代短歌社

2022-10-18 17:20:18 | 歌集
大きなる鯉のあふりにたゆたへる水の濁りはしばしにて澄む

震災の津波に逝きし人あはれ型ひとつなる位牌がならぶ

しろうをの透きとほる身をはかなめど口にはこべば口がよろこぶ

夜と朝の境にしるし打つごとくうす暗がりに野の鳥が鳴く

墨染めの僧衣まとひて乗るバスのわれの傍へに人は座らず

そのときの加減におなじ色のなき草木に染めし袈裟の淡黄(たんくわう)

おのずから窪みにみづは集まりて秋の干潟にひかりを返す

窓外にスコップ使ふ人のゐてすこやかげなる音は身に沁む

公園の空よりくだり来し鳩が木立の影にその影仕舞ふ

五年後の生存率の四割をよろこぶ勿れ六割は死ぬ

(山中律雄  淡黄  現代短歌社)
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山中律雄の第五歌集。お会いしたことはない。六十歳代の僧侶というので、生活感覚が遠いかもしれないと読み始めたが、とても良い歌集だった。一首一首に神経が行き届き、歌が粒ぞろいなのだ。一首目、鯉のことを詠みながら人生を思わせる。その程度のことで慌てるなと言われている気がする。僧衣の傍に人の座らぬことを寂しがるようで、実は人との距離を楽しんでいるようだ。後半、病を得た歌は切実だが、どこかで俯瞰している視点がある。家族のうたが多いが、それに閉口することはなかった。

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