気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

ぐい飲みの罅 藤村学 

2016-09-14 12:21:48 | 歌集
疲れ目に効くとしきけばしののめの瞼をあおき檸檬にて圧す

背中からふかい眠りに沈みゆく軟い触りの籐の揺り椅子

三十年使い馴れたるぐい飲みの罅にかぐろき酒焼けの渋

フセインの絞首刑の日わが窓にクレーンの腕がどんどん伸びる

学(まなぶ)という名でよくあそびおもしろうてやがてさびしき還暦がくる

「門灯が切れているね」って言いながら替えようとせぬ三人家族

むらさきの藤村信子は四十年以来(このかた)われの若草の妻

蟻ほどの雄螺子(おねじ)が卓に落ちていてわれの世界のどこかが狂う

せせらぎに架かる木橋のたそがれを美しくするむぎわらとんぼ

十缶の(金鳥渦巻)ことごとく使い切ってもまだこない秋

(藤村学 ぐい飲みの罅 六花書林)

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コスモス短歌会の藤村学の第一歌集『ぐい飲みの罅』を読む。

藤村さんとはお会いした記憶がない。歌は素直で、歌の内容と現実とがリンクしていると読んでまちがいないだろう。六十七歳で、とても家族思いの方。特に奥さまに対する愛情に感心した。いろいろな夫婦があるものだ。六首目の門灯のうたに家族の様子が窺える。
五首目では還暦になった感慨を詠っている。わたしも還暦を過ぎているが、こういう感慨は持たなかった。無事に迎えたことに感謝はしたものの、あ、そうか、というだけだった。
四首目のような取り合わせの面白い歌を、期待している。

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