気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

野紺菊 藤井順子 

2016-05-27 18:22:36 | 歌集
藁を積む車が信号曲り行く藁の匂をまといながらに

乾きつつちりめんじゃこになる魚の眼に藍の色残しいつ

朝露の残れる蕪の間引き菜を漬け終えて指の先は冷えたり

梨は梨葡萄は葡萄の匂いして自死せし娘の遺影に供う

逝きたりし娘(むすめ)の部屋に雛人形飾ればそこより春となりゆく

時おりはおひとり様にあこがれて停年の夫と三度の食事

花柄のブラウス一枚加えられにわかに艶めく春の箪笥は

金屏風なけれど花婿花嫁の坐るうしろに海の青見ゆ

ひと雨の降るごとに秋ややうごき青冴えざえと夏草の群れ

野紺菊群るるむらさき丘の上(へ)の娘(むすめ)の墓まで野の道をゆく

(藤井順子 野紺菊 現代短歌社)

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八雁所属の藤井順子の第一歌集『野紺菊』を読む。

藤井さんとはお会いしたことがないが、島根県の方で石田比呂志にずっと師事した来た。
真っ当で地に足のついた生き方が歌に滲み出ている。四首目、五首目にあるように、二十歳代の娘さんの自死が詠われていて、歌集の核となっている。歌を詠むことで救われる面があったと思いながら、そう簡単にまとめてしまうことに恥ずかしい気持ちも持ってしまった。ますますのご健詠をお祈りします。

短歌人5月号 同人のうた その3

2016-05-23 14:17:44 | 短歌人
ギプスの中で冬眠中の右下肢を春の光にふふふと差し出す
(古川アヤ子)

平凡に生くるが佳しと雪片を手に受けしかばあはあはと消ゆ
(小川潤治)

上弦の月かかりいる真夜中のピアノにのこる小さき指紋
(梶田ひな子)

草色の陶器のように変わりたりクリスマスローズの固き花びら
(齊藤和美)

一族の唾液がまじり合いながら食器洗浄機内は嵐
(八木博信)

話しおれば冬のこころに小(ち)さき風の生まれて鈴のごとき音せり
(平林文枝)

暗がりへかへらむ風の尾の白さ冬まひるまの三熊野をゆく
(大谷雅彦)

冷蔵庫に卵ならびゐる平安をくずして朝のだし巻きたまご
(藤本喜久恵)

おるがんの辺りにうたひしことありや正岡律の歌ごゑおもふ
(紺野裕子)

カーペットの蔓草模様にまぎれたるグリンピースのみどりやいずこ
(今井千草)

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短歌人5月号、同人1欄より。

小雨ふる夕べ机辺に身を置きて静かなり二月余滴のひと日
(近藤かすみ)

短歌人6月号 同人のうた その2

2016-05-16 18:41:45 | 短歌人
三月の雨の眼をもて眺めゐる街木の株にひこばえあるを
(斎藤典子)

さきがけて春をうたふと上気せるやうに紅濃し河津ざくらは
(蒔田さくら子)

畑中に重機ひとつがはたらいて地球のうへに穴を掘りゆく
(小池光)

空晴れて葉書10枚買いにけり誰に届けん春の便りを
(小林登美子)

本閉ぢてみやる車窓に「鳩レース協会」のビル過ぎてゆきたり
(佐々木通代)

厨事なしつつ唄ふ早春譜ことば違(たが)はず幾度もうたふ
(山下柚里子)

使はれずなりしあまたの旅客機がモハビ砂漠に翼よこたふ
(秋田與一郎)

花びらのごときみどりごの服干して小ぶねに暮らす家族を見たり
(金沢早苗)

ぶるるんと左右に小さく振りしあと今日の私の顔出来上がる
(山本栄子)

ありありと戦後の記憶みなの靴みがいてくれき失意の父は
(加藤満智子)

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短歌人6月号、同人1欄より。


短歌人5月号 同人のうた

2016-05-08 11:41:46 | 短歌人
これの世の何におどろく嬰児はちいさき両手ぱっとひらきて
(関谷啓子)

いつだって祭の後にやって来てひとつふたつのごみ拾うのみ
(猪幸絵)

青銅の色うつくしき春の夜に蝋型鋳銅の香炉を置けり
(青輝翼)

春風に吹き寄せられて教へ子の娘二人が枕辺に笑む
(有沢螢)

筆圧と自信は比例するらしき 強き漢字に花まるをする
(鶴田伊津)

けふも又もの言はぬまま夜に入り家の何処か音立つる聴く
(八木明子)

震災の夜にあふぎし星たちに五歳老けたる顔をさらしつ
(洞口千恵)

鳴き龍とよばれて幾度も鳴かされる龍をば見たり遠く旅して
(西橋美保)

春立つやおほかた違ひはあらざらむわれの在る世とわれのなき世と
(原田千万)

キャベツ畑の小屋にもたれてゆっくりと年老いてゆく赤い自転車
(木曽陽子)

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短歌人5月号、同人1欄より。


短歌人5月号 5月の扉

2016-05-02 23:06:51 | 短歌人
両の目と口に見えたる窓のあり美(は)しきおとこの顔ぞあの家

触診に緊張あらず笑顔よき美しすぎぬ医師こそよけれ

(北村望 東京・ブルーマウンテン)

顔あげて「あしたのことはあした考へる」ビビアン・リーの意志つよき眉

美しきアンドロイドのゐるホテル最先端の技術の笑顔

(田中愛 美しき演技者たち)

青年が日暮れの歩道橋に立つ飛びたちそうな傘をひろげて

雪となる夜に女は忘れられ釦のごとく眠っておりぬ

(守谷茂泰)

春の女神そぞろいでたるあたたかさボッティチェリ展ひとり観にゆく

「欲望という名の電車」の終点に降り立つ老嬢めきし美貌は

(池田裕美子 美のカノン・十字架)

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短歌人5月号、5月の扉。題詠*美男美女を詠む。