気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

「ロフ」と言うとき なみの亜子 

2018-04-12 00:49:32 | 歌集
朝露に膝下までをひたしつつ深くなりたる草を刈りゆく

雲ふかき山の家にも人の住むまばらまばらに住むさびしさに

たっぷりと踏み込んでゆく山みちに渓流にきみのむかしの歩みは

廃校の旗立てに金具こんかんと風のリズムを鳴らす泣いてまう

晴れてさえいればなんでもないことに泣きたくなって雨中の紅葉

いつからが春でありしか羊歯となりそよげる蕨を谷に数えぬ

山帽子ことしの花のおおぶりなひらきに夜の一角白む

あさなさな尿瓶あらえる草むらにミントそだちて香りをはなつ

杖に立ち朝(あした)の窓にブラインドあげてあなたがあらわす山並み

人の世は苦痛にまみれつゆ草は雨にひらきて青いろ洗う

(なみの亜子 「ロフ」と言うとき 砂子屋書房)

かたじけなくも 植松法子 本阿弥書房

2018-04-07 12:52:55 | 歌集
右ひだり交互に出すを疑はぬ足に一軀ははこばれてゆく

雨粒にうたれうなづく秋海棠ははの部屋から見る母の景

十六夜と暦にあれば十六夜とうべなひ仰ぐまん丸な月

消ゴムのひとつ失せたるほどならむわれのポトリと抜けしこの世は

はろばろと高麗の風ふきわたり青磁の空をゆく鶴の二羽

大きさの目安となしてカラス、ハト、スズメはものさし鳥と呼ばるる

蚊を連れて入りこし人が蚊を置きて出でてゆきたり良夜深更

あぢさゐのつゆけき花に会はぬまま空梅雨あけてその後の雨

右岸に育ち左岸に暮らす歳月の栞のやうにひかる富士川

いつの日のわれか草生に腰おろしボンタン飴のオブラート剝く

(植松法子 かたじけなくも 本阿弥書房)