気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

それより七日

2022-12-29 10:40:47 | 歌集
夜半しづかに猫は寄り来つ生涯の終りの恋のごとき気配に

千疋屋のメロンでなければいやと言ひ美しき顔せりそれより七日

あどけなく寐ねたりしかば死にがほに通へるを見きそれより三日

シルバー券が嬉しい一人と恥づかしい一人観覧車に歳は暮れつつ

床屋さんの兎飴ん棒につながれて麗かやひと日ひくひくしてゐる

(酒井佑子 矩形の空)

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この歌集には、猫と死の匂いがしている。
それより七日、それより三日、の歌を読むと、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。わたしは自分の父や母の最期をこんなに丁寧に見て来なかった。母は急死だったし、父のときはこわくて現実から逃げていた。この歌に出てくる死者はおなじ病棟のひとで他人だから、冷静なのだろうか。ほかにも挙げたい歌はいっぱいあった。床屋さんの兎の歌、なんとも自在な詠いぶり。

こうして、いろんな歌集をつぎつぎ読んで、いいなあと思ってまた次を読んでまったく飽きない。読み飛ばすような読み方をするのは、作者に失礼だし、じっくり読みたいが、また次々読みたいものが出て来る。

そう言えば、五月の第二日曜は母の日。夕方、娘から「母の日やね~」と電話があった。

人生はひと色ならず亡き母のオパールの指輪秋の陽にかざす
(近藤かすみ)

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酒井佑子さんが12月24日に亡くなられた。
わたしのブログの古い記事で、歌を取り上げたことを思い出す。
いつも尊敬をもって見ていた大先輩。その歌のよさを今ふたたび見直している。ありがとうございました。
ご冥福をお祈りします。

薔薇の芽いくつ 大地たかこ 本阿弥書店

2022-12-04 09:27:41 | 歌集
いつ咲いていつまでとなく花八つ手こんな咲き方いいなと思ふ

薔薇の芽はどんな色にもなれる赤 小さきひとに写メールしたり

ひなあられ紙にくるめば色透きぬ白とふ色もはつかに透きて

「魚ん棚市場」に父と入りゆけばでつかい蛸が函より這ひ来

本堂の額の文字(もんじ)はくづし字で愛かと問へば亀といはるる

やはらかき枇杷の芽生(めお)ひのいつつむつありて一つを堀り起こすなり

棒切れの好きな男(を)の子が森をゆく木橋に来たら流すよ、きつと

桜ちる 春の夕べのあかるさに雲梯する子ぶらんこする子

冬の日の傾くなかを黄金蜘蛛おのれの渡した糸の真中に

わたくしが声をかければ小鳥屋の小鳥ははてなと首を傾げる

(大地たかこ 薔薇の芽いくつ 本阿弥書店)

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塔短歌会の大地たかこの第三歌集。大地さんは子供好き、植物、虫好きである。いつもやさしい眼差しで見て、やわらかく歌にする。のびのびとした温もりがある。人の言葉を拾いあげた歌も面白い。旧かなとの取り合わせがちょっと奇妙な味を出すのが彼女流だろう。河野裕子の世界を思わせる。