弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

今さらですが加計学園問題について

2017-07-09 15:35:20 | 歴史・社会
加計学園問題は、大きな政治イシューになっており、都議選で自民党が壊滅的大敗を喫する主要原因の一つとなっています。しかし私には、何が問題なのかがよくわらかず、現在にまで至っています。
少しは加計学園問題を理解しようと、この土日を使って問題発掘に取り組んでみました。

獣医学部の新設は、どのようにして認められていくのか。
私立大学の獣医学部の新設については、私立学校法に規定されています。
《私立学校法》
(申請)
第三十条  学校法人を設立しようとする者は、その設立を目的とする寄附行為をもつて少なくとも次に掲げる事項を定め、文部科学省令で定める手続に従い、当該寄附行為について所轄庁の認可を申請しなければならない。
(認可)
第三十一条  所轄庁は、前条第一項の規定による申請があつた場合には、当該申請に係る学校法人の資産が第二十五条の要件に該当しているかどうか、その寄附行為の内容が法令の規定に違反していないかどうか等を審査した上で、当該寄附行為の認可を決定しなければならない
2  所轄庁は、前項の規定により寄附行為の認可をする場合には、あらかじめ、私立学校審議会等の意見を聴かなければならない。

「認可」についてウィキで調べると、「認可の申請があった場合、行政は、当事者が必要とする要件を満たしていると認めれば認可を行う。許可とは異なり、行政が意図的に認可を行わないことが認められていない。」とあります。
つまり、獣医学部新設の申請があったとき、その内容が法令に違反していなければ、文科省としては認可を行うことになります。次に法令の内容について調べてきました。「法令」ですから、「法律」「政令」「省令」「政省令に委任された告示等」が対象の筈です。

《大学等の設置の際の入学定員の取扱い等に係る基準》文部科学省告示第四十五号
大学、短期大学、高等専門学校等の設置の際の入学定員の取扱い等に係る基準を次のように定める。

平成十五年三月三十一日
第一条
文部科学大臣は、大学、短期大学、高等専門学校等(大学等)の設置又は収容定員増の認可の審査に関しては、学校教育法(・・)、大学設置基準(昭和三十一年文部省令第二十八号)、短期大学設置基準(・・・)、高等専門学校設置基準(・・・)その他の法令に適合すること及び次に掲げる要件を満たすことを審査の基準とする
一 (略)
二 医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員の養成に係る大学等の設置又は収容定員増でないこと。

即ち、従前は「獣医大学の設置は認めない」ということが、文科省の告示で定まっていたのでした。

その後、平成27年6月に、以下の閣議決定がなされました。
「日本再興戦略」改訂 2015(抜粋)(平成27年6月30日閣議決定)
一.日本産業再興プラン
5-1.「国家戦略特区」の実現/公共施設等運営権等の民間開放(PPP/PFIの活用拡大)、空港・港湾など産業インフラの整備/都市の競争力の向上
(3)新たに講ずべき具体的施策
ⅱ)残された集中取組期間における国家戦略特区の加速的推進
b)更なる規制改革事項等の実現
⑭獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討
・現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

さらにときが進み、昨年来の国家戦略特別区域諮問会議で大きな動きがあったようです。ここで一体何が決まり、現在どこまで進んでいるのかについて。
意見募集概要を読むと、以下のような経過をたどったようです。
《国家戦略特区における追加の規制改革事項について》(平成28年11月9日国家戦略特別区域諮問会議決定)
『〇先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置
・人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国際的に拡大する中、創薬プロセスにおける多様な実験動物を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応するため、現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を、直ちに行う。』

そして、上記決定に対応し、上記「文部科学省告示第四十五号」を修正する告示が出されました(《平成二九年一月四日内閣府・文部科学省告示第一号》)。
『1 国家戦略特別区域法(「法」)第七条の国家戦略特別区域会議が、・・・。
2 法第七条の国家戦略特別区域会議が、法第八条第二項第二号に規定する特定事業として、平成三十年度に開設する獣医師の養成に係る大学の設置(法第二条第一項に規定する国家戦略特別区域における獣医師の養成に係る大学の設置をいい、「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」(平成二十八年十一月九日国家戦略特別区域諮問会議決定)に従い、一校に限り学校教育法第四条第一項の認可を申請されるものに限る。)を定めた区域計画について、内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、当該認定の日以後は、当該大学の設置に係る同項の認可の申請の審査に関しては、大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準第一条第四号の規定は、適用しない。』

非常に判りづらい文章です。上記意見募集に書かれた内容の方がわかりやすいので以下に記します。
『1.趣旨
「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」(平成28年11月9日国家戦略特別区域諮問会議決定)に従い、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的な需要に対応するため広域的に獣医師を養成する大学の存在しない地域に限り、獣医学部の設置を可能とするための特例を設ける。
2.内容
上記趣旨を満たす平成30年度に開設する獣医学部の設置を定めた国家戦略特別区域計画について内閣総理大臣の認定を受けたときには、当該獣医学部の設置認可申請の審査については、大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準(平成15年文部科学省告示第45号)第1条第4号の規定は、適用しないこととする。』

昨年11月特区会議決定によると、まずは以下の手続があります。
(1)国家戦略特別区域会議が、特定事業として、平成三十年度に開設する獣医師養成大学の設置(昨年11月特区会議決定に従ったもの)を定めた区域計画について、内閣総理大臣の認定を申請する。
(2)内閣総理大臣からその認定を受ける。
(3)文部科学省が私立学校法に従って獣医学部設置認可の審査をする。

上記(2)総理大臣による認定、(3)の文部科学省による認可の条件は何でしょうか。
昨年11月特区会議決定に記載された
「先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応しているか」
人獣共通感染症を始め、家畜・食料等を通じた感染症の発生が国際的に拡大する中、創薬プロセスにおける多様な実験動物を用いた先端ライフサイエンス研究の推進や、地域での感染症に係る水際対策など、獣医師が新たに取り組むべき分野における具体的需要に対応しているか」
などは、総理大臣、文部科学省のいずれが判定するのでしょうか。

さらに、平成27年6月の閣議決定の内容
「現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化しているか」
「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになっているか」
「既存の大学・学部では対応が困難な場合であるか」
「近年の獣医師の需要の動向は考慮されているか」
について、今回は判断されるのでしょうか。それともこの閣議決定は、現在法的効力を有していないのでしょうか。

以上のようなスタンスで、今後の動向を見ていきたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする