弁理士の日々

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中沢弘基著「生命誕生」

2014-08-09 13:13:42 | サイエンス・パソコン
生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)
中沢弘基
講談社

この本を読み、さらに疑問が深まったので下の本も購入しました。

巽好幸著「なぜ地球だけに陸と海があるのか――地球進化の謎に迫る (岩波科学ライブラリー)」(読み終わりました)

丸山茂徳・磯崎行雄著「生命と地球の歴史 (岩波新書)」(ぱらぱらとめくったところです)

現時点で思うと、上記3冊を逆順で読んだ方がベターだったと思います。

さて、今回は上記のうち、中沢弘基著「生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像」です。
地球上に生息するすべての生命は、以下の3点で共通しています。
1.遺伝機能(アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種類の塩基からなるDNA)
2.代謝機能(mRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質へと変換するリボゾームを有している)
3.細胞を形成している。
すべての生物にこれだけ共通項が存在するということは、地球上に生息するすべての生物が、一つの祖先から分化し進化したものであろうと推測できます。

そして従来、生命誕生のストーリーとして、「地球外から隕石によってアミノ酸やタンパク質が供給された」「アミノ酸に富む太古の海で生命が誕生した」などが語られています。

これに対して中沢著の本書は、全く異なった生命誕生の仮説を提供してくれます。

A.43億年前  海が生まれる
 まだ大陸地殻は形成されておらず、地球表面全体が同じ深さの海洋で覆われていた

B.40億~38億年前 激しい隕石爆撃(後期重爆撃・現在の1000倍も激しく隕石が降り注いだ)
(1)衝突した隕石と海との界面では、超高温と超高圧で海水はおろか隕石も海底の岩石も蒸発する。隕石中に多量に含まれる鉄(Fe)も蒸発する。
(2)蒸発した金属鉄と水が分解した酸素とが反応して酸化され、蒸気流は水素過剰の強い還元状態になる。
(3)アンモニアが大量に形成される。
(4)蒸気流の冷却過程で、メタン、エタンやメタノール、エタノール、さらにはカルボン酸、アミンまでもが形成される。
(5)隕石や海底岩石の一部は、粒子状の粘土鉱物として海水中に分散している。
(6)蒸気流が冷却して雨として海に降り注ぎ、生成した高分子も海に含まれる。
(6-1)メタン、エタンなどの揮発性の有機分子は、光化学反応で酸化分解する。
(6-2)疎水性および非水溶性の有機分子は水の中の“油”として凝集し水面に浮上し、太陽光のX線や紫外線によって分解する。
(6-3)親水性でかつ粘土鉱物に親和的な有機分子は、海水中に分散する粘土粒子に吸着する。
(7)有機分子が吸着した粘土粒子は、相互に凝集して大型の粒子となり、海底に沈殿する。

C.海底深く堆積した堆積物中で、有機分子が高分子化する。
 (地下を模した高温・高圧の検証実験では、グリシンの11量体が合成された)

D.さらに堆積物の粘土鉱物の小胞中で、高分子化した有機分子が“酵素やRNA/DNAの片鱗”まで進化する。

E.生命機能の発現の“最終段階”で、生命現象の最も特徴的な代謝機能や遺伝機能の発現に至った。

このメカニズムは、生命が有する不思議「生物有機分子はなぜ水溶性で粘土鉱物親和的か」という疑問にも答えてくれるものです。「たまたま水溶性で粘土鉱物親和的な有機分子が海底に沈殿してサバイバルし、生命誕生の糧となることができた」

さて、この本を読んだあとにいろいろネットで調べてみました。今から40億年ほど前に、海洋の誕生と隕石の後期重爆撃とがあったことは確かなようです。ただし、隕石後期重爆撃と、地球全体が海洋に覆われる時期のどちらが先か、については諸説あるようです。
中沢説のように、「海洋が形成されてから後期重爆撃があった」との前提に立てば、上記B、Cのメカニズムは十分にあり得たようです。

その後のD、Eについては、まだ闇の中です。
海底では、堆積物の粘土鉱物の小胞中で、高分子化した有機分子が“酵素やRNA/DNAの片鱗”まで進化した(D)としても、そのままでは成長も遺伝もせず、時間の経過とともに分解するのみでしょう。
一方、全地球的に、“小胞中における進化”はそこここで何兆回、何十兆回と起こっていたはずです。DNAによる遺伝機能発現と、RNAからタンパク質を合成するリボゾームの発現がそれぞれ別々の小胞で起こったとしても、それだけでは生命誕生に至らないはずです。
その中で、たった1カ所、DNAによる遺伝機能発現と、RNAからタンパク質を合成するリボゾームの発現が同じ小胞内で起こったとしたら、それこそ生命の誕生です。そのたった一つの生命体は、代謝と遺伝(複製の製造)をくりかえし、やがて全地球のすべての生物の祖先となった、ということになります。

さて、中沢説はまだ「仮説」の段階にあるようですが、今後研究はどのように進捗するのでしょうか。
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