毎年8月に猛烈な暑さが続くとこの歌が聴きたくなります。それがこの映画のエンディングに流れる「フロントメモリー」です。
私が聴いていたのは「神聖かまってちゃん」のパワフルな歌。是非聞いてみて下さい。
映画はどちらかと言うと箸休め的な作品です。
一人の女子高生、橘あきらは無愛想な性格ながら友人にも恵まれ、放課後はファミレスでバイトをしています。
ファミレスの店長(45歳)を一方的に好きになります。あきらは同級生などに言い寄られても無視し、一途に店長にアプローチを続けるのでした。
実はあきらは高校の陸上部で短距離ランナーとして走っていました。が、アキレス腱断裂のケガによって部活を一時中止しています。失意の毎日を送っていたのです。
前半ダラダラと解説のない運びです。
あきらが雨の日に雨宿りに入ったファミレスで店長にかけられた優しい言葉に、張り詰めていた気持ちが溶けていく様子や、ファミレスのどこかくたびれた雰囲気、ゆるい仕事仲間との会話や関係、主人公のぶっきらぼうな態度、親との関係などが気だるく描かれます。
一体これはどういう話に発展していくんだろう?と興味を持って見つめていました。
普通の「足を痛めて落ち込んでいる高校生」と、「客に謝ってばかりいる冴えないバツイチの中年男」。
男は一方的に「好きだ」と言われどういう風に関係が変わっていくのか。
男はこの女子高生の気持ちを受けとめ、受け入れるのか?
と興味津々で見ていましたら、中盤おのおのの秘密が明かされました。
あーやっぱりそうか、と。
あきらは100m11秒44の記録を持つスプリンター。アキレス腱断裂はその将来性をも断ち切る大きな出来事です。
一方店長の近藤は文学を愛し、部屋に沢山の書物が並ぶ文人のような人。小説を書いていますが、世の中に見いだされず、友人は人気作家になっていました。
そんな彼がまぶしく、連絡が取れずにいたという繊細な一面もあります。
なーんだ、こういう隠し球か~と思いました。
何もない平凡な二人の年の差恋愛かと思って、期待したけど、残念でした。
2時間の映画はドラマを凝縮したようなもの。それだけ大きなドラマ的要素がないと、見るに値するものがありません。
私は学生時代にレストランや喫茶店のアルバイトを沢山しました。
見ながら色々な事を思い出しました。
レストランの厨房やウェイターって不思議な連帯感があるんですよね。
でも、私は映画の中のコックの男の人が、あきらに店長との事をアドバイスしたり庇ったりするのを見て、感心しました。
なかなか出来た人だ、こんな人バイト先では見た事なかったなーと。(軽口は下ネタが多かった)
周りの人が皆あきらを慕っていて、支えていて、意地悪は一人もいない。
店長はあきらに抱きつかれても「あなたの気持ちを受け止められない」「友達として」と断ります。
店長があきらと一緒に図書館で本を探す穏やかさ、自分は何もかも中途半端だと嘆きながら、淡々と仕事をこなしあきらの将来を気遣う、大人としての態度。
そういうのがきちんと描かれています。
最後の場面で、陸上部に復帰したあきらと店長が車ですれ違い、車から降りて会話する場面が良かったです。
店長は恥ずかしげに、でも誇らし気に「昇進した」と報告し、あきらは彼に一つのお願いをします。
エンディングに「フロントメモリー」が流れますが、この歌はやっぱり「神聖かまってちゃん」の方がパンチがあって良かったなと思いました。
地味だけど不思議な映画としてこれは私の記憶に残るでしょう。