脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

ボケと認知症

2017年02月12日 | エイジングライフ研究所から

この記事は、フェイスブックでの質問に対する回答なのです。

下のグラフは10年以上前に作りましたから、古い表現ですが、これを作った時は「我が国は世界で一国だけ脳血管性痴呆が圧倒的に多く、原因不明のアルツハイマー型痴呆は幸い少ない」といわれていました。その後その割合は劇的に変化していき、今ではアルツハイマー型認知症の方が多くなっています。でも、まだ私たちのように90%を超えると主張している研究者はいません。

横道にそれますが、テレビその他のマスコミで「手術で治る認知症」とセンセーショナルに取り上げられるタイプは、上のグラフの「二次性認知症」です。慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症など、確かに劇的に治りますが、その割合の低いことに注意が必要です。詳しくは私のブログカテゴリーより「これって認知症?特殊なタイプ」をお読みください。
また、認知症者が自らの内面を語るというようなことも言われますが、それは記憶障害はありますが前頭葉機能は正常な「側頭葉性健忘」と言って認知症とは峻別すべきタイプです。最近よく取り上げられています。詳しくは私のブログカテゴリーより「側頭葉性健忘」を。

さて、本題に戻ります。アルツハイマー型認知症の原因を探ることは、研究者たちの大きなテーマでした。アセチルコリン説・アミロイドβ説は世界的には否定されました。
去年11月24日に、世界の製薬業界で十指に入るといわれる、米イーライリリー社が「アルツハイマー型認知症治療薬の開発断念」のプレスリリースを行いました。
それなのに、わが国では、まだアミロイドβに固執している専門家もいます。後は脳の萎縮説、タウ蛋白説が残っています。

これらは、原因ではなく、むしろ結果と考えたほうがいいと思います。
臨床的な事実ですが、認知症の本体は、もともと老化が定められている脳機能が、何らかの生活上の変化をきっかけにして、その人らしく生活することができなくなったとき(生きがい・趣味・交友・運動、何もない生活になったとき)、使われない脳機能は老化を加速し、その結果認知症としての症状が発現してくるのです。
 
正常な老化が進んでいくときの脳機能の衰え方と、老化が加速されているときの脳機能の衰え方には、はっきりとした差があります。
こんな単純なことになぜ 目が行かないのかというと、認知症の問題を考えるときに「脳機能」ではなく「症状」をまず見るからです。

早期発見には、症状では手遅れになるのですから目安となる数値が不可欠です。糖尿病における血糖値のように、肝臓や腎臓も重症化する前に指標がありますね。認知症では脳機能を測ることなのです。
困った症状が出ない間は「歳のせいかな?」などと見逃して、(この時脳機能検査をすればはっきり異常域なのですが)いわゆる認知症といわれる状態、セルフケアも満足にできなくなったり、徘徊、粗暴行為、妄想等の問題行動を起こすようになって「ボケちゃった」と騒ぐのです。これは回復させるには手遅れの段階と言わざるを得ません。
老化が早まっていくとき、「小ボケ」→「中ボケ」→「大ボケ」の段階を経ていきます。
「小ボケ(前頭葉機能のみ異常域)」回復容易、
「中ボケ(前頭葉機能に加え、脳の後半領域の認知機能にも障害あり)」回復可能 、
「大ボケ(脳機能全般的な大幅な機能低下)」回復困難
脳が老化を加速し始めて回復困難な大ボケになるまでは 、平均すれば6年以上はかかります。
世の中で認知症といわれる「大ボケ」になった段階では治すことはできないのです。6年間というゴールデンタイムを見逃しているのが現状です。
さて、「ボケと認知症はどう違うのか」ですが、私は違いはないと思っています。
厚労省が「老人性痴呆」を言い換えて「老人性認知症」としたのは平成16年12月です。「『痴呆』に変わる用語に関する検討会報告書」
これは、あくまでも侮蔑的な「痴呆」を「認知症」に言い換える事であり、公文書上では「痴呆」はすべて「認知症」に言い換えることになったのです。
ただ、学会で専門用語として「老人性痴呆」と使う場合はこの限りではないとされていました。
もちろん、日常的に口語として使う「ボケ」には何の規制もなかったのですが、日本という国のすばらしさでもあるのですが、あっという間に「認知症」が席巻してしまいました。
2009年に、この件について書いたブログも貼っておきますから、よかったらお読みください。
 「癡狂→癡呆→痴呆→認知症→?」

私は、「ボケ」という表現は正しく症状を伝えていると思っています。ほんとに「ボ(ケ)~」としていますから。
いつも思い出すエピソードがあります。「何だかぼんやりしてて、意欲がわかない」と言っていた小ボケの方が回復したら「ここの景色はこんなによかったんですね!」とか「人の言ってることがくっきりわかるようになりました!」といわれるのです。小ボケの時、ご本人にとって周りは「ボケ~」と認識されているのです。その結果、ご本人も「ボケ~」とするしかない・・・
「こぼけ」という響きにやさしさを感じるのですが、いかがでしょうか?「こぼけ・ちゅうぼけ・おおぼけ」は中国地方で実際に使われている言葉だったのです。早期発見に少しでも抵抗がないことばが必要です。
「小ボケ」という和語でいいのではないかと思っていたのですが 、日本の現状ではちょっと無理ですね。


 






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