脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

たった一字から右脳障害を疑う

2017年09月29日 | 右脳の働き

(2009年3月18日の投稿です。保健師さんからの質問に対応させて再掲載します)
今日初めて葉ランの花を見ました。 
直径3センチくらい。おしゃれな渋い紫色でした。つぼみは、文字通りおちょぼ口みたいにつぼんでいます。開いた花は、水滴の高速度写真みたいで、ほめ言葉を使えば王冠みたいでしょうか。そんなに珍しいものではないそうですが、葉ランはとてもよく茂るし、根元に枯葉がたまることも多いので、花がついても隠れてしまって気が付いてもらえないということらしいです。
葉ランの花は、どんな場所に咲くのかを知っておくと探しやすいと思いませんか?

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見えるようになると、あそこにも、ここにも、という調子でたくさん見つかりますよ。
軽い失語症や右脳障害の後遺症も、そんなに珍しいものではありませんが、やっぱり見つけてもらいにくいものの一つでしょう。

脳卒中を起こして入院。全く後遺症の説明を受けないままに、退院。
「なんだか変になった」
「耳が遠くなったみたい」
「ボケちゃったのかな」
といわれている方もたくさんいるのです。

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二段階方式の検査のうち、MMSは簡便ですが失語症のような脳の器質障害を見つけることが得意です。

N県O町のI保健師さんのケースです。 
「時の見当識」は満点。
「計算」満点。「想起」すら2/3とすらすらと検査が進んでいったのに、「文を書く」に至ってブレーキ!
「何を書くのか・・・」とためらい、どうしても書けない。

「文を書く」は「自発的に文章を思いついてそれを書くという能力」を調べていますから、どうしても書けない時点で、得点は0になります。それでこの項目の検査目的は達して終了してもいいような気がしませんか?
でも、I保健師さんはもっと丁寧にチェックしてくれました。「なぜ、このように書けないのか?ふつうに脳の老化が加速しただけではこんなことは起きない。書けるはずだ」と思ってずいぶん励ましたそうですが、ほんとに書けないようなので「はなしをきいてる」と言って、耳で聞いた文を書くように促してあげたそうです。
それでも書けないので「はなしをきいてる」と書いて書き取りをするように指示したところ、ようやく書いたのですが、「を」が不完全ですね。つまりこの人は「(字をきちんと)書けない」のです。


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「聞き取り」つまり「聞いて、書く」という脳の能力はどうなっているのか?
もともと、ここに至るまでテストがスムーズに実施できたのですから、当然聞き取れているはずです。「はなしをきいている」と言っても書けないということは、聞き取れないのではなく「書けない」と考えるべきです。

それでは「書き取り」つまり「見て、書く」という脳の能力は?ようやくできるが完全ではない。
「はなしをしている」と書こうとしたのですが、字の形が整わなかったのですね。
MMSのうちのたった一つの下位項目(この場合は「文を書く」)からこの人の脳の器質障害(たぶん右脳)を推定することができます。他に失語症の症状がないので、右脳障害(失行が起きて字の形がとれない。ただし8文字中1字のみなのでごく軽い障害がある)状態だと考えるのです。
五角形相貫図もやや形が整っていません。
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私たちは医者ではありませんから、病名は必要ないのです。
このケースの場合、まず「文章を思いついて書くということ」ができないことが分かります。
そして「聞き取り」がむずかしいことから「思いつけないから書けない」のではなく、多分思いついているでしょうが、そして聞き取れてもいるでしょうが、とにかく「書けない」ことがわかります。
次に「書き取り」の成績から軽い「失書」があることがはっきりしました。

その通りに生活指導してあげることが大切なのです。 
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もちろん、普通に脳の老化が加速されたタイプではありませんから専門医受診を勧めるのは、二段階方式の鉄則です。

生活歴の聞き取りの中から、興味深いことがわかりました。
「2~3年前、運転中に事故を起こしそれから眼が悪くなり左寄りになってきたため運転をやめた」
右脳障害による後遺症を、強く想定させます・・・


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