伊東市議会議員の杉本一彦さんがフェイスブックに小布施町の「まちとしょテラソ」のことを書かれていました。(ちなみに私も去年ブログに書きました。小布施への旅)
「伊東市議会福祉文教委員会で長野県小布施町町立図書館「まちとしょテラソ」及び「まちじゅう図書館事業」について行政視察です。図書館に関してはとても歴史ある町です。町ではじめての図書館設立は、なんと大正12年だそうです。街中が図書館に力を入れている町ってとても素晴らしいですね。詳しい話は委員会報告におくりますが、いずれにしても、伊東市でも中央図書館の老朽化により、施設新設に向けこれから重要な議論がはじまります。とても参考になる有意義な視察となりました。」
その投稿に対していくつかのリアクションがあったのですが、私が興味を持ったのは以下のご意見でした。
「小布施町って約45億の予算のうち自主財源は全体の1/3で残りの2/3が地方交付税や県や国の予算です。その財政状況で年間4,000万円も維持費のがかかる図書館を運営するのはどうなんでしょうか?貸し出し件数、約8万7千冊に対し4,000万円の予算だと、一冊あたりの貸し出し単価は約460円になるのですがこれって他の自治体とかと比べるとどうなんですかね?高いの?低いの?うーん(・・?)」
経済が右肩上がりでない現在ですから、このような視点で物事を考えることが大切です。限りあるお金をどのように使うかということですね。私にはとても苦手な分野ですが・・・
私の報告も聞いてみてください。
小布施町で、認知症予防活動の指導を始めて15年になるでしょうか。
認知症予防活動と言っても、巷にあるものとはちょっと違います。脳機能検査結果という客観的物差しをもって、正常者を正常なままにということを最大の目的にしながら、脳機能に応じたそれぞれのレベルの認知症への予防活動も同時進行させています。
脳のリフレッシュ教室と名付けられた、正常者を正常なままに保とうとする認知症予防教室には、小ボケまでしか参加させない、カリキュラムは右脳重視で楽しいものを用意する、脳機能検査による生活指導と経過を知るための脳機能検査は必須。等々の気を付けるべきことを繰り返しお話しています。
10年以上かけて、現在は各コミュニティに1教室ずつ立ち上がっています。
1年間の行政主導の活動の後、自主活動を継続しているということも特筆する価値はありそうです。
ここからの検討は、すべてが認知症予防活動のせいと断言することは難しいかもしれませんが、その活動の大きな影響は否めないはずです。
住民の方が支払う介護保険料から考えてみましょう。
以下に使用するグラフは、一昨年、町会議員と民生委員を対象にした講演をした時に、小布施町地域包括支援センターで作っていただいたものです。
小布施町の介護保険料は平成24年の見直しで4,210円。国の平均は4,972円。762円安いということです。
介護保険の給付内容を検討しないで単純に比較することは危険でしょうが、ここはざっくりと傾向を知ることにします。
介護保険料は40歳以上の住民が支払う義務があります。
小布施町のHPから「統計でみる小布施町の姿」という資料を見つけました。残念ながらこの数値は国勢調査に基づくもので、5年刻みです。町役場にも問い合わせましたが平成26年分はありませんでした。
その資料によると、平成26年に近く、また直近での資料は平成27年度のものでした。
平成27年の小布施町の人口は、40歳以上64歳までが3,488人、65歳以上が3,510人。その合計6,998人が介護保険料を支払っています。
上記資料「統計でみる小布施町の姿」からみると平成27年の月額介護保険料は4,775円(年額57,300円)。
小布施町の40歳以上の皆さん全体で払っている介護保険料は、4,775円×6,998人×12月=400,985,400円。約4億円ということですね。
最近、介護保険料を全国的に見て、一番安い鹿児島県三島村は2,800円、一番高い奈良県天川村は8,686円という報道がありました。
ちょっと驚きましたが、改めて平成27年の全国平均介護保険料を調べてみると5,514円でした。同規模市町村と比較できればその差はもっと開くはずです
もし、小布施町の介護保険料が全国平均保険料だとしたら、5,514円×6,998人×12月=463,043,664円。約4億6千万円ということですね。
あれ!6千万円浮いている! まちとしょテラソの維持費には十分過ぎる。
5,514円―4,775円=739円 介護保険料が739円安いのですから739円×6,998人×12月=62,058,264円。ウン、検算してもあっています。
全国平均の保険料を支払う必要があると考えたら、図書館を存続させるために差額の月額739円を町に寄付するという発想もできるのではないでしょうか?
その差額を生んだ原因のすべてではないかもわかりませんが、小布施町独自の認知症予防活動の意味は大きいと思います。
小布施町での介護保険の実態、どのくらいの人たちに、どのように使われているか、全国の同規模市町村と比較しながら見てみましょう。
一昨年作成のちょっと古いデータです。
介護認定率の推移を見てみましょう。(内は全国の同規模の市町村)
平成24年小布施町15.8% (19.5%。+3.7%)
平成25年小布施町15.7% (19.5%。+3.8%)
平成26年小布施町15.9% (19.6&。+3.7%)
付け加えます。資料資料「統計でみる小布施町の姿」によると、平成27年の介護認定率は14.4%と減少していました。小布施町包括支援センターに問いあわせたら、平成28年度はさらに減少して13.7%、平成28年の全国平均介護認定率はは17.9%ということですから、介護認定そのものが厳しくなったということもあるでしょう。だって国全体としてもお金がないのですものね。
介護認定率が低いということは、高齢者介護に回すお金が少ないということです。町の財政負担は当然少なくなり、その分他の施策に回すことができることになります。
と書きながらやはり矛盾に目をつぶることはできません。高齢者介護に回す費用を抑えるために、介護認定を厳しくするのはお門違いだと思います。
それよりも介護が必要な人を減らすことを考えればいいのです。
障害がある人が、その人らしく生きていくために福祉を求めることは当然のことでしょう。
でも、認知症者への福祉や介護は、身体障害や精神障害や知的障害の人たちとは全く違います。簡単な理由です。認知症の場合は、手厚い福祉や介護が必要になるためには、長い期間が必要だからです。正常な高齢者が介護が必要になるまでには数年以上もかかるのですから。
小布施町で行っている認知症予防事業は、まさに必要な介護を先延ばしにする、もっと積極的に体も脳も健康な高齢者を増やしていくというところに的が絞られているのです。
1件当たりの介護保険給付費の推移です。
同じように、小布施町と全国同規模市町村の、介護保険給付額の比較です。
平成24年 小布施町57,581円(70,128円 +12,547円)
平成25年 小布施町58,066円(70,213円 +12,147円)
平成26年 小布施町59,365円(70,298円 +10,933円)
繰り返しますが、小布施町が表す数値が、すべて認知症予防活動の成果と言い切ることはできないかもしれません。ただ大きく影響していることまで否定する必要はないと思います。
単純に計算してみました。
認知症予防活動の結果、平成26年で同規模市町村と比較して、1件当たりの介護給付費が約10,933円安くなっています。平成26年度の認定数は487人でしたから、単純に計算して10,933円×487人×12月=63,892,452円。こちらの方向から検討しても6千万円以上の節約!
認知症を予防するという事業を組み込むことによって、6千万円ものお金をセーブできたのです。
認知症を予防するために必要な経費を試算しなくてはいけませんが、それは私の手に余ります。でも、たぶん一桁違うといえるくらいの費用しか掛からないはずです。
エイジングライフ研究所が指導する認知症予防活動のかなめは、脳機能検査ができ、それを基にした解釈をしたうえで、生活指導や専門医につなげるノウハウをもった「人」なのです。
教室を開催する場所は、地区にある集会所や公会堂でいいのです。教室のプログラムにしても特別のものは不要です。つまりお金のかけようがありません。
これからの少子高齢社会のかじ取りをする行政は、無駄遣いを現に戒めないといけません。それは正しいことです。
認知症に関していわせてください。
重度になった人たちへの手厚い施策は、財政的に無理があります。より軽いレベルで、もっと正確に言うなら正常なままに高齢者が生活できるような施策こそが、住民から求められ、財政危機を生まず、より必要な部署にお金を回すことができることということに、気づいてほしいと思います。
「広報おぶせ」
広報おぶせに掲載されている「まちとしょテラソ」のお知らせアイコンの場所です。右欄の町長メッセージ→議会だより→美術館情報の次です。
小布施の人たちがこの図書館を誇りにし大切にしていることが伝わってきます。実際に行ってみると、子どもたちや若い人たちが慣れた雰囲気で図書館にいました。単に、本がたくさんあって、本を借りる所というふうではありませんでしたよ。ワークショップを開いたり、人が集う場所という印象が強かったです。
「死ぬまでに行きたい 世界の図書館15」に選ばれた図書館に、ランドセルをしょって学校帰りに寄れるなんて。
故郷が大好きで心豊かな子供を育てることができるのではないでしょうか?
このように、認知症を予防するは素晴らしいことです。
住民は「ボケるくらいなら死んだ方がいい」というくらい「ボケたくない」。その希望をかなえることができます。
介護給付費を削減できます。
そのお金を、その町で一番重要と思われる、その町らしさを育むところに注ぎ込めます。